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日々のつれづれ・アート・音楽・衣食住。好きな言葉はゲーテ「いきいきと生きよ」デグジュペリ「大切なことは目に見えない」。

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦

2009-06-09 | 本・映画・名言

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)
蓑 豊
角川書店

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人口50万人の金沢で年間150万人の来館者を誇る金沢21世紀美術館。年間5~6万人が地方都市の美術館入場者の標準であることを考えると素晴らしい成果です。

この本は、初代館長であった蓑 豊さんが著されたものです。蓑さんはもともと古美術商の家系に生まれ、長年海外の美術館にて東洋美術の学芸員をされシカゴ美術館の東洋部長をつとめられました。その後大阪市立美術館長、金沢21世紀美術館長(金沢氏助役兼任)となり、現在は米国サザビー社の副会長です(同美術館の特任館長兼任)。

金沢21世紀美術館の所蔵・展示する作品は国内外の現代アートが中心。建物は世界的に著名な建築家、妹島和世と西沢立衛(SANAA)が設計(余談:巻末付録の村上隆との対談で知ったのですが、SANAAはルーブル別館の設計をまかされたそうです)。


本書では、米国式のアカデミズムとビジネスの融合で、学芸員は入場者を増やす(=売上を上げる、リピーターを増やす)ビジネスパーソンであるべきと説きます。

子供をまず美術館招待し、次に子供がその親を連れてくるようなしかけ(子供に「もう一回券」という無料券を配る)、あるいは美術館建設に携わったすべての方の名前を記した記念碑を建て、その家族が碑を見に来るようにして入場促進、などさまざまな工夫をされ、それが見事に当たったことが記されています。

また、オープン時間を無料ゾーンのみですが夜22時までにしたり、学芸員の教育にも心を砕き、企画を立てられるように、きちんと展示物の内容を説明できたり、フレンドリーなもてなしができるようにしたそうです。


大阪市立美術館長としてフェルメール展を大成功させ周辺商店街を活性化させた経験が金沢21世紀美術館の成功にも活かされているのでしょう。

ある一つの道に秀でており、かつビジネス感覚・経験がある方が大成するというセオリーの型を見た思いです。

たとえば米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)などでは、すでにバイオの博士号をとっている人が、今度はビジネススクールで学び起業する例や、エンジニアリングとビジネスのダブルマスターを同
時に取得という例がたくさんあるそうです。意欲・能力のある方は広さ(ビジネス一般の知識)も深さ(専門領域)も兼ね備えているのですね。

実際に蓑さんは美術館の経営面では素晴らしい功績を残され、素晴らしいなあと感銘を受けました。

諸手を挙げて蓑さんを称える記事が多く、本書を読んだのも、蓑さんの考え方をもっと知りたいという思いからでしたが(+金沢旅行の予習)、読後は、少し違和感を覚えた点もありました。

金沢21世紀美術館長に蓑さんを据え、支援を惜しまなかった市長はじめ周囲のサポート、蓑さんの戦略を実施したスタッフについてほとんど触れていなかったこと。

いかに良いアイディアがあっても、それを実現するための資金、人的リソースがなくしては実施が難しいのですが・・。本書を美術館成功物語ではなく「蓑さん成功物語」として読むならその批判は当たりませんが、自我が前面に出ているつくりだなあと思いました。ライターや編集者のストーリー立ての影響もあるでしょうが。

また、”芸術”の敷居を低くしてアート=エンタテイメントの図式を徹底する功績の一方で、入場者さえ多ければ、話題にさえなればそれでよいのか、とも疑問に思いました。
少し前はアンディウォーホル、現代では村上隆のような商業と密接に結びついた”アート”を提供すれば一般には喜ばれます。

しかし、美術館、専門家は私たちのような門外漢に、いかにこの芸術が素晴らしいのかを説き、後世に残すべきものなのかという視点で過去から現在の芸術を紹介する重要な役割も担っているのではないでしょうか。作品に向けた気概が感じられなかったのが残念でした。
現代美術は専門でないとご自身もおっしゃっているので、美術の専門家というよりも美術館経営の専門家として館長のお仕事を務められたということかもしれませんが。

しかしながら、顧客第一の視点というのは、日本の美術館においては画期的なことで、蓑さんの貢献は大きいと思います。

同じ商材(所蔵品)であっても、「顧客サービス」を向上させることで結果は大きく変わる可能性があることを身をもって示されたことは、
美術館・学芸員のあり方に一石を投じたのではないでしょうか。
(他の業界・業種にも)。

発想の転換という点ではとても面白い本だったのでご興味のあるかたはぜひ読んでみてください。

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