「ご前御風邪をめします」と駕脇の侍は恐る恐る申し上げます。すると、どうでしょう、居眠られておられるとばかり思っていたのですが、とっさに身を起して、次のように言われたのだそうです。
「藤樹先生の教えに従ひ十三経の一部をも窺(うか)がはんと存じ、旅の駕にも四,五冊を置き、読めば読むほど玄妙に入り、瞑目して居ったのじゃ」
と。決して眼むっていたわけではない、あまりにも難解なものゆえに、じっと目をつむって考えていたのだと、言われたのです。
それを聞いて、この駕脇の侍は、まことに甚く恥入りして、次のように申し上げたのだそうです。
「恐れ入りました儀にござります、御前の御学問に御心を御用ひ遊ばしまするは、あの了介も感服いたしておりますと申しておると、聞き及んでおります」
それを聞いて、光政侯は莞爾と笑われたのだそうです。
莞爾とはいかにも満足そうににっこりとする様子です。なお、十三経とは中国の孔子などの聖賢が著した書で、易経・礼記・孝経・論語・孟子などがあります。玄妙とは、その道理が深くて、幽玄微妙なる捉えどころがないようなはっきりしない様子です。
それから、光政侯は、その侍に向ってこう言われたのです。
「のう 五左衛門(これはその脇侍の名です)、余は論語や孟子にも未だ得心していない。熊沢のように十三経を皆学ぼうと思って、力に余ることなのだ。どうだ、道歌ぐらいなら口ずさむことはできるぞ、聞かせてやるから、書きつけて置け」
その侍、早速、矢立てを取りだして六尺の歩みに従って自分の懐紙に書き付けます。
“よきもあしきも影にみる、かみのけふの鏡が恐ろしものよ、われとむかふる影じゃもの、
神の昔を尋ねりゃ其儘鏡じゃものを
遠ひ神より唯目の前に、それをしろなら此身がすぐに、神のすがたの形代よ”
光政侯が、どしてこの道歌を詠んで、駕籠の脇侍に書き付けさせたのか、よくはその理由は分かりかねます。又、その内容も、果たして何を意味しているのかも分かりません。
よくはわかりませんがこの歌の奥にある内容は、
「今、ここで自分は何をしなくてはいけないかよく考えなさい。みんなが誰でもするといって、薩埵峠に差し掛かったとて、必ず、雪が降り積もった富士山を見なくてはいけないと言う決まりはないのだ。その前に今しなくてはと思う大切なことはしておきなさい。それが旅の心というものだ」
と、その五左衛門に伝えたかったのではと思うのですが??????
どうでしょう、ご批判を賜ればと思います。
「藤樹先生の教えに従ひ十三経の一部をも窺(うか)がはんと存じ、旅の駕にも四,五冊を置き、読めば読むほど玄妙に入り、瞑目して居ったのじゃ」
と。決して眼むっていたわけではない、あまりにも難解なものゆえに、じっと目をつむって考えていたのだと、言われたのです。
それを聞いて、この駕脇の侍は、まことに甚く恥入りして、次のように申し上げたのだそうです。
「恐れ入りました儀にござります、御前の御学問に御心を御用ひ遊ばしまするは、あの了介も感服いたしておりますと申しておると、聞き及んでおります」
それを聞いて、光政侯は莞爾と笑われたのだそうです。
莞爾とはいかにも満足そうににっこりとする様子です。なお、十三経とは中国の孔子などの聖賢が著した書で、易経・礼記・孝経・論語・孟子などがあります。玄妙とは、その道理が深くて、幽玄微妙なる捉えどころがないようなはっきりしない様子です。
それから、光政侯は、その侍に向ってこう言われたのです。
「のう 五左衛門(これはその脇侍の名です)、余は論語や孟子にも未だ得心していない。熊沢のように十三経を皆学ぼうと思って、力に余ることなのだ。どうだ、道歌ぐらいなら口ずさむことはできるぞ、聞かせてやるから、書きつけて置け」
その侍、早速、矢立てを取りだして六尺の歩みに従って自分の懐紙に書き付けます。
“よきもあしきも影にみる、かみのけふの鏡が恐ろしものよ、われとむかふる影じゃもの、
神の昔を尋ねりゃ其儘鏡じゃものを
遠ひ神より唯目の前に、それをしろなら此身がすぐに、神のすがたの形代よ”
光政侯が、どしてこの道歌を詠んで、駕籠の脇侍に書き付けさせたのか、よくはその理由は分かりかねます。又、その内容も、果たして何を意味しているのかも分かりません。
よくはわかりませんがこの歌の奥にある内容は、
「今、ここで自分は何をしなくてはいけないかよく考えなさい。みんなが誰でもするといって、薩埵峠に差し掛かったとて、必ず、雪が降り積もった富士山を見なくてはいけないと言う決まりはないのだ。その前に今しなくてはと思う大切なことはしておきなさい。それが旅の心というものだ」
と、その五左衛門に伝えたかったのではと思うのですが??????
どうでしょう、ご批判を賜ればと思います。