悪意 (講談社ノベルス) 価格:¥ 840(税込) 発売日:2000-01 |
加賀恭一郎シリーズ4冊目。教師を辞職した事件の顛末が記されており、興味深く読んだ。
本作の白眉は「人間を描く」ことが重要な意味を持っていたことだ。ミステリではよく「人間を描く」ことが出来ていないと批評されるが、それに真っ向から異議を唱えたかのようなインパクトがあった。
強烈な印象を与えるその点を除くと、二つのテーマが微妙に絡み合わない感じが残った。
以下ネタバレ。
本書の二つのテーマ、それは「作家」と「いじめ」である。そして前者のテーマは非常に深く感じられたのに対して、後者のテーマは心に届かなかった。
がんの再発により、死が迫ってきたときに、過去の不祥事の発覚にどれほど脅威があったのか。蓄積された恨み辛みがどこまで行動に結び付いたのか。そして、それと過去のいじめとの因果関係がもうひとつ迫ってこなかった。野々口の虚偽の動機を突き崩す突破口としては意味があったかもしれないが、執拗に過去のいじめを追ったことで本書のもう一つのテーマが薄れた気がした。
「過去の章」に入り、加賀が野々口の動機に疑問を感じた時、野々口が己の名を歴史に刻むために行った仕掛けだったのではないかと思った。本書では憎しみが高じて日高の名を貶める目的とされたが、ノートへの執念は作家の業のように感じてしまった。
そのため、過去の不祥事に絡む動機を持ち出されても頷くことはできなかった。
少年時代の写真が無ければ、加賀が事実にたどり着いたかどうか。少なくとも明確な物証が他にあったとするのは難しかっただろう。作家の業を本来の動機とするのも普遍的ではないため困難かもしれない。その点、本書の動機は分かりやすくはなっている。その動機が成立するかどうかは別として。
正直、いじめに関する部分は「人間が描けている」とは言い難い。野々口の日高に対する行動が一つの理由で説明し切れないのは構わないが、綺麗にまとまらなかった感が残った。
私としては先にも述べたように、作家の業として描いていたらより真に迫ったものとなったのではないかと思っている。それが万人に受けるかどうかは分からないけれども。
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