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感想:『ジーン・ワルツ』

2009年11月24日 19時16分36秒 | 本と雑誌
ジーン・ワルツジーン・ワルツ
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2008-03


『夢見る黄金地球儀』を読んだ直後だと尚更、海堂尊は医療ものがいいと実感する。
現在の医療の問題の中でも、最も深刻な出産関連がテーマ。現実に起きた「大野病院科医逮捕事件」や実母による代理母出産といった時事を上手く取り込みながら、更に医学の進歩と社会の認識とのズレにまで踏み込んだ作品。
テーマ性が前面に強く打ち出された分、ストーリーは平坦でキャラクターも著者らしいケレンが薄れている。雑誌連載ということで、やや表現にくどさが残っている。しかし、医療・医学関連のエピソードの描写は著者ならではと言ってよく、これまでの作品以上に真に迫る迫力があった。

産婦人科が舞台ということもあって、本書では女性キャラクターの存在が目立つ。正直、男性陣の影は薄い。本書に限らず、著者は女性キャラクターの描写が巧みだと改めて感じられた。確かにこれまでの作品の主要登場人物は男性が多く、その個性も多様だ。だが、脇役として登場した女性キャラクターの多彩さも海堂ワールドを印象的なものにしている。
本書はその点で非常に特徴的だ。主人公の冷徹な魔女曾根崎理恵は、0と1のロジックに留まらない複雑さを内面に宿している。妊婦たちの時に非論理的な選択もまた、単なる感傷ではない強い想いを内包し、本書に深みを与えている。

遺伝子や血統を残すことが本当に大切なのか。それは決して自明の問題ではない。社会、地域、時代によって考え方の変わる問題であり、現代日本はバランスを欠いているように思えてならない。血の繋がりを重視することが社会として個人としてどれほどの重要性を持つのか。医学の進歩が新たな価値観を生み出し、それに縛られ過ぎたことが、新たな不幸の種となっているようにも思えてしまう。(☆☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ海堂尊の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

チーム・バチスタの栄光』(☆☆☆☆☆)
ナイチンゲールの沈黙』(☆☆☆)
ジェネラル・ルージュの凱旋』(☆☆☆☆)
螺鈿迷宮』(☆)
ブラックペアン1988』(☆☆☆☆☆☆)
夢見る黄金地球儀』(☆☆☆)


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