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感想:『バッテリー』

2009年11月25日 20時45分58秒 | あさのあつこ
バッテリー (角川文庫)バッテリー (角川文庫)
価格:¥ 540(税込)
発売日:2003-12


初めてのあさのあつこ。これまではNHK教育で放送されたアニメ『テレパシー少女 蘭』を観ただけ。少女の感性を瑞々しく描いたというよりは、ギャグのテンポの良さの方が目立った作品だったが。

本書は、野球少年の物語。主人公原田巧はこの春から中学生という優れた投手。小学生の大会では全国まで行き、中学は引越し先の新たな地で過ごすことになる。
三人称でほぼ巧の視点で描かれるが、たまに他の視点に変わるので混乱しそうになった。全6巻の1巻目だからか、ひねりがなく、ストーリーは平坦。

しかし、圧倒的な存在感が主人公にある。キャラクターなんていう安直な表現を許さないような人物像。だが、それは決して特異な存在ではない。確かに、天才投手と呼びたくなるような力持つ者ではある。野球への情熱は非凡なものだ。それでもあえて決して特異な存在ではないと思う。
小説などのフィクションの登場人物のみならず、現実においてさえキャラクターとして枠に嵌めて他者を捉える見方をしがちだろう。あとがきにおいて著者が述べるように、複雑な人の心を「心の闇」と称して分かりやすい構図へと落とし込もうとする。安心したいがために、或いは異端を封じるために。
この主人公は決して特異な存在ではない。本来は誰もがこうした複雑さを抱えている。そんな複雑さを認識しない社会、許容しない社会、排除する社会となっているのではないか。その防衛として周囲の空気に過敏に反応する社会が生み出された。

あとがきにおいて、主人公を「押し付けられた定型の枠を食い破って生きる不羈の魂」と書いた。主人公は決して特異な存在ではない。主人公が特異な存在のようになってしまっている不幸がそこにあるだけだ。
ただ野球をやるだけでは済まない世界が待ち構えている。それは大人たちのみならず、子供たち同士の中にもある定型への強い希求である。それに否応無く立ち向かわざるを得ない少年の姿に強く心が惹きつけられる。これからの展開を楽しみにしたい。(☆☆☆☆☆☆)


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