環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

「経済成長」は最も重要な目標か

2007-03-19 16:39:10 | 経済


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3月17日のブログ「日本はほんとうに省エネ国家なのか」 で掲げた図の中川秀直・自民党幹事長の著書「上げ潮の時代」をとくとご覧下さい。GDP1000兆円計画と書いてあります。そして、この本の「はじめに-GDPが2倍になる必然」で、中川さんはつぎのように述べています。

名目4%成長で成長していけば、18年でGDPはいまの500兆円から1000兆円に倍増する。生まれたばかりの赤ちゃんが大学に入るころ、あるいは、いま20歳の青年が38歳の社会の中堅層になったころ、そして、50歳の壮年は68歳で、まだ働き続けるか年金で悠々自適の暮らしを選ぶかを考えているころ、日本の生活水準は2倍になっている。そして、経済成長は、格差是正の良薬でもあるのだ。

「GDPが今の2倍になれば、日本の生活水準は2倍になる」、「経済成長は格差是正の良薬でもあるのだ」という中川さんや政府の政策担当者、それにTVやマスメディアでGDPの成長を主張し続けるエコノミストは、今日のブログのテーマにあげた「経済成長は最も重要な目標か」とおっしゃる橘木俊詔・京都大学大学院経済学研究科教授の主張にどう反論するのでしょうか。

橘木さんは「日本の経済格差」(1998b 岩波新書)の著作があり、最近の社会問題になっている「格差社会」でしばしばマスメディアに登場するこの分野の論客です。私はこの橘木さんの「経済成長は最も重要な目標か」という主張に注目しました。

橘木さんは「家計からみる日本経済」(岩波新書 2004年1月)の「第1章 行き先を見失った日本経済」の「1 経済成長至上主義の限界」でつぎのように述べています。

超低成長経済、もしくはゼロ(あるいはマイナス)成長率の経済から、正の経済成長率への転換を目指して、今日、日本ではエコノミストをはじめ政策担当者、政治家を中心にして、何とか日本経済を大不況から脱却させるための政策論議が盛んである。

確かに正の経済成長率は社会・経済の多くの諸問題(例えば、失業、財政赤字、社会保障財源など)を解決してくれる可能性が大である。しかし、発想を転換して、経済成長を求めることが人間の幸福にとって本当に重要なのか、経済成長を求めなくても多くの諸問題を解決してくれる方策はあるのではないか、といったことを考えてみることも価値がある。


第1に日本の1人あたりのGDP(国内総生産) や国民所得は今や世界最高水準になっており、所得水準が高くなったので、これ以上の生活水準を求めなくてよいのではないか。もとより、後に述べるように、物価水準の高さや住宅の質が依然として良好でないことから、日本人はまだ豊かではない、という説に説得力はある。

したがって、これらの課題に取り組むために、私自身もゼロ成長ではなく、0.5%から1%の成長率が理想とする意見に反対はしないし、むしろ賛成する。

第2に高い経済成長率、例えば、3~4%の成長率を達成するには、労働時間を今まで以上に長くする必要がある。 やっと欧米並みの労働時間に近づいた現在、さらにわが国の悪しき伝統である「サービス残業」を考慮すれば、これ以上の労働時間の長さを求めるのではなく、人生を楽しみ、ゆとりある生活を送ることの価値に、日本人も目覚めてもよいのではないか。

ひたすらに働いて高い経済成長を求めるのは、いわば先進国に追いつくために発展途上国に課せられた「必要性」でもある。戦後の長い期間にわたった日本人の長時間労働は、まさにこれに該当していた。もうそう言う時代ではない。

第3日本を含めた先進国が高い経済成長を求めると、南北間経済格差(すなわち先進国と途上国の間の経済格差)はますます拡大するおそれがある。

貧困に悩んでいる発展途上国に、経済成長の可能性を追求する余地を与えるためにも、先進国は一歩後退するか、足踏みをしてもよいのではないか。

当然のことながら、発展途上国が経済成長促進を図るのは理にかなっており、もしパイが一定である世界経済であれば、先進国の政庁政策は途上国のそれを阻害する懸念がある。

第4に先進国の経済成長は限度のある世界の天然資源(例えば石油、鉱物、森林、水産)の枯渇に拍車をかける。

これは世界の資源のパイが一定であるから、さけられない。次世代の人たちの生活を脅かさないためにも、節度のある天然資源の利用に励むことは大切なことである。

第5に高い経済成長は世界の環境破壊にも悪影響がある。 高い成長を目指す経済活動は、CO2をはじめ様々な環境汚染や地球温暖化の原因になるので、快適な人間生活を送れるようにするには、ほどほどの経済活動に抑制することも時代の要請である。

ここに述べられている経済学者・橘木さんの5つの主張は、私がこれまで主張してきた「環境問題と経済のかかわり」とみごとに一致します。私は橘木さんの著書と出会って大変勇気づけられたのですが、日本の政治のリーダーや多くの経済学者やエコノミストはなぜこのような「基本的な認識」に乏しいのでしょうか。



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対照的な日本とスウェーデンの「債務残高」、今後はどうなる?

2007-03-19 08:24:58 | 政治/行政/地方分権


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昨日のブログで、日本とスウェーデンの「2007年の債務残高」が極めて対照的だというデータを示しました。現職の尾身幸次財務大臣が「平成19年度予算」との関連で、データを示し、コメントしているのですから、このデータは議論をするときのデータとして信頼できるものでしょう。

それでは、このような日本の厳しい財政状況がこのまま推移していくと将来どのような状況になるのでしょうか。私はこの分野のまったくの素人ですので、この分野で社会的にも、そして、専門的にも信頼できそうな方が公表されたご自分の論文のなかで引用されているデータを紹介します。

月刊誌「中央公論」(2004年11月号)が「特集 国家破綻の足音」で、榊原英資さん(元大蔵相財務官)が「日本の財政悪化は政治の砕片を招くか」と題する論文を寄稿しておられます。その論文の中に「各国の累積財政赤字の予想」と題する格好のデータがあります。

榊原さんのコメントはつぎのとおりです:「中央公論」(p125から)
双子の赤字はアメリカの問題というだけではなく、いずれ日本の問題になる。特に第二次ブッシュ政権、あるいはケリー新政権が財政赤字削減に本格的に取り組み出せば、双子の赤字はアメリカの問題というよりは、ここ2~3年の間に日本の問題になってしまう可能性すら低くないだろう。

さらに悪いことに日本の人口減少・老齢化のスピードは先進国で一番速い。すでに歳出の半分以上が年金、医療、介護などの社会福祉関連であることを考えると、財政赤字に与える老齢化社会の影響はきわめて大きい。

上の図は半年ほど前、格付け機関S&Pが、現状のままの財政制度が維持されたときの、老齢化社会が財政赤字に与える影響を試算したものである。すでに、165%(小澤注 昨日の尾身財務大臣のデータでは148%となっていた)まで上昇している日本の財務残高GDP比は2020年で287%、2050年では718%に達する。つまり、20年から30~40年の間に日本は財政破綻から国家破産の道をたどるというわけなのだ。

素人の私には何とも大変な状況だと思うのですが、エコノミストも政治家も、そして国民も、マスコミもあまりに目の前の身近な問題にばかり気をとられすぎているのではないでしょうか。榊原さんの掲げた表で日本のように右肩上がりの傾向を示しているのはチェコだけです。この表の数値を用いて、主な国の傾向を私がグラフ化しましたら、つぎのようになりました。


ちなみに、榊原さんのお考えでは、スウェーデンや他の先進工業国は現状のままでもそれほど問題はない、ということになるのでしょうか。



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