今日の考え事〈applemint1104〉

自分の体験やニュース、テレビドラマや映画などについて感じた事を素直に書いて行きます。

「事件の涙・そして、研究棟の一室で~九州大 ある研究者の死~」の感想

2018-12-31 10:44:28 | テレビ

これが一年の終わりの感想になります。
重い内容のドキュメンタリー番組でした。
今年の9月に起きたこの事件は、報道を聞いた時に痛ましいというよりもっと切実なものを感じたのを覚えています。

九州大の院生長屋と呼ばれている研究棟が放火され、一人の遺体が見つかりました。
研究棟は取り壊されることになっていましたが、そこを無断で使用している男性がいたのです。
番組で「K」と呼ばれたこの男性は、8年前に九州大の大学院を退学した人だそうです。何でも期限までに論文を書くことが出来なかったとか。
しかしその後も、そこを使い続けていました。放火の末の自殺でした。

Kの境遇に共感を持つ多くの人がいて、ネットに拡散されました。
番組ではどういう人生だったのかを周囲の人の取材を元に追っていました。

Kは父親が営む会社が倒産したために普通高校ではなく、給付金付きの自衛隊の学校に進学します。虐めに遭ったりして思うような環境ではありませんでした。
大学に進学するのを決め、受験勉強をして21歳で九州大に入学します。
彼は法学部に進み、「憲法や法律について学び人間の平等について考えたかった」と言っていたそうです。
しかし思うような論文が書けず、在籍期限が切れて退学扱いになります。

その頃政府は国際競争力をつけるために法学部の大学院生を倍増させました。その割に弁護士や教授の数は増えず、院生がだぶついてしまいます。
殆どの院生は見切りをつけて就職して行くのですが、Kは諦めず、法律を研究し続けたそうです。
その後どうやって生活していたのかというと、飲食店のバイトをしたり、またいくつかの学校で非常勤講師をやっていたそうです。
十数年こうした生活を続けていたことになります。
しかし2年ほど前からこうした生活が維持できなくなっていたそうです。

非常勤の講義では高校生にも興味をもって貰えるような題材選びをし工夫した授業をしていました。
一方バイトは肉体労働が多く、次第に疲労が溜まって授業の準備をする余裕がなくなっていったようです。
経済的にも700万を超す奨学金返済がKを追いつめていました。
理想を思い描いて頑張っていたけれど、ついに経済的にも肉体的にも行き詰まってしまったのがうかがえます。

ざっとそのような説明でした。
番組では、Kに見かねて皮靴を送った整骨院の女性や、店の人と話し込んでいたラーメン店、先輩や親友、教授の話が紹介されます。
その誰もが優しくて、彼を思い、「もっと自分に出来ることがあったのではないか」と振り返っていたのが印象的でした。
事件を起こす4日前、Kはいつものラーメン店でゆっくりと時間をかけてラーメンを食べ、次にいつ来るかも言わずにバイクに乗ると
スピードを出して去って行ったそうです。

報道の限りでは、もっと孤独に追いつめられて亡くなったのかと思いましたが、そうではなく、色々な人々との交流があり、やりたい授業もしてきた人だったのが感じられます。
多くの同期生が見切りをつけて就職したのに、Kは妥協しなかった。研究棟からの退去を言い渡されてからも居座っていた。
そもそも思うような論文が書けなかった。
うすうす自分の求めるものがかなうのは不可能だと気づいていたのでしょうか。

経済的にゆとりがあれば、又違った人生を送ることが出来たのでしょうか?
彼は「学問でも何でも、追求し続けるためには経済的な力が必要になる」と言っていたそうです。
また最後の講義では「幾ら資格や勉強をして世の中に貢献しようとしてもそれは無駄だ。大事なのはスペシャリストになること。世の中の特別な存在になること」
と言ったそうです。
真理をついた言葉かも知れません。
がどこの誰がスペシャリストになれるというのでしょう。
Kの言ったことは「絶対的な個性」を目指せということなのでしょうか。
‥それが彼の導き出した生き方の理想なら、悲しいですね。
成功者って一握りしかいないのだから…

番組では情緒的な印象にまとまっていました。
一人の無名の人の人生を追うという難しいテーマでした。
でも、本人の後ろ姿を描き出すことはかなり出来たのではないかと思います。

今年も沢山の感想を感じたことをつたなく書き綴ってきました。
読んでいただいてありがとうございます。
来年もどうぞよろしく。良いお年をお迎えください。



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