細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

維持管理と施工

2014-12-29 17:37:37 | 研究のこと

土木学会でインフラメンテナンス工学のテキストを編纂しており、それに関与しています。

私は、インフラメンテナンスの哲学を40ページ程度で取りまとめるチームにおいて、維持管理における施工の重要性を、1.5ページで論じる役目を担っています。そのテキストのフォーマットでは、1.5ページで1500字程度です。

私の担当箇所のタイトルは、「技術者としてメンテナンスにどう関わり、どう貢献するか」というもので、その中の「施工者」という部分です。

何を書いてもよいわけなので、私の哲学が問われるわけですが、1月9日が締切りです。以下が原稿で、第一稿は1200文字以下でした。随時ブラッシュアップを重ねます。まずは書いてみることが大事。未熟であっても、形があれば、改善が可能です。

対象が土木構造物全般なので、コンクリート構造物に特化するわけにもいかない、ということが書きにくい理由ですが、最後までベストを尽くしたいと思います。

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土木構造物は様々な要因により劣化するが,施工時の不具合や,施工段階での配慮が不十分であることにより劣化する場合も多い。特にコンクリート構造物の場合,供用中に生じる劣化の大半は,施工時の不具合や,不具合の不適切な補修に起因する。コンクリートは常温常圧で硬化する便利で安価な構造材料であるために世界中で広く用いられているが,特に現場打ちの場合は,製造・施工に関与する非常に多くの人間の技術力と熱意が構造物の品質に大きく影響することを深く認識する必要がある。

土木構造物の劣化には,施工段階の問題だけでなく,設計や材料の問題が影響する場合もある。問題の所在を明らかにするためには,適切な施工がなされた構造物のデータが蓄積され,分析される必要がある。施工の現場で生じる不具合や,供用後の構造物に生じる劣化の原因を分析し,設計,施工,材料,検査等に適切にフィードバックして耐久性の高い新設構造物を建設するシステムへと改善する努力を重ねる必要がある。これは創造的で,ダイナミックで,忍耐の必要な行為である。

設計段階において,維持管理への配慮を十分に行うことは重要である。設計が確定した後の施工段階においても,構造物の劣化を誘発しないための種々の配慮が可能である。コンクリート構造物の場合,構造物の品質が施工時の気温,湿度,日射,風等の外環境の影響を特に受けやすいので,設計および施工段階において,不具合を出さずに品質を向上させるための様々な配慮が可能である。構造物の品質が施工の影響を受けにくいものとなるよう,例えば過密配筋部において自己充填コンクリートを活用する等の工夫も積極的に行うべきである。

疲労亀裂や腐食等の劣化に対する修繕の方法がほぼ確立できている鋼構造に比べ,厳しい環境作用下でコンクリート構造物に深刻な劣化が生じた場合,再劣化しないように修繕で完治させることは極めて困難であり,修繕方法が確立できていない劣化現象も多い。社会基盤が非常な長期間に供用されることを十分に勘案して,新設構造物においては,必要に応じて最新の技術も慎重に活用し,設計および施工段階で十分な配慮を行うことで,厳しい環境作用下においても劣化しない構造物を造ることを目指すべきである。

構造物の施工に関する記録は,個別の構造物の維持管理の基礎資料となるものである。それだけでなく,構造物群の施工記録が適切に蓄積され,分析されることにより,耐久性の高い構造物を建設するための知見が明らかにされ,設計,施工,材料,検査等へのフィードバクが可能となる。フィードバックすることを意識して取得するデータを吟味する必要がある。新設構造物のみならず,構造物の修繕の施工の記録が適切に蓄積され,分析されることで,再劣化のしない修繕技術の確立につながる。このPDCAは一周に長い時間のかかる忍耐の必要な取組みであるが、国家のインフラの維持管理費を低減し、インフラメンテナンスを真の工学に育てる最善の策である。


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