細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

依頼原稿 「研究室環境の改善 -人が育つために-」

2018-11-19 05:00:14 | 職場のこと

以下,土木学会誌から「私の職場」として依頼され、先ほど提出した原稿です。

最初の執筆要領にあった「見出し」が無く、写真も入れられずにほぼ字数制限に至ったので、おそらく編集委員会から修正の依頼が入るかと思います。「私の職場」について、私が書きたかったことをとりあえず盛り込んだ下記の初稿が皆さんの目に触れる機会はないかと思い、ここに記録しておきます。。。

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私の職場である横浜国立大学のコンクリート研究室の紹介をする。2003年10月に着任して,15年が経過し,その間にスタッフも大きく入れ替わった。この原稿の執筆時点では前川宏一教授,小松怜史助教とともに研究室を運営している。

研究室も生き物なので,常に変化しているが,15年強の間,改善を重ねてきた。私たちの研究室は,教員・学生が自らを研鑽し,お互い学び合い,成長していくための場であり,研究・教育活動を通じて社会への貢献も求められる。その目的を高いレベルで達成するために,研究室の物理的な環境やシステムの改善を継続している。

新年度は4月にスタートする。クリエイティブな1年を皆で過ごしたい思いから,新しいものが生まれる雰囲気がする実験棟で新入生の歓迎会を実施する。

2006年の全国大会で琵琶湖にて開催されたコンクリートカヌー大会に初めて出場し,それ以降は毎年,関東支部の大会に出場している。2回目以降はほとんど学生だけで取組み,2011年の総合準優勝がこれまでの最高順位である。さらに,日本コンクリート工学会のキング・オブ・コンクリートにも2015年の初回から出場し1),学生たちの力で優勝,3位,優勝,2位と教員たちも驚く結果を残してきた。学生たちはぶつかり合いながら,葛藤もありながら,チームというものを学んでいくようである。毎年の8月最終土曜日のコンクリートカヌー大会の後の武蔵浦和での打ち上げでは,私も学生たちに交じって何とも言えない感動を味わう。

学部3年生の春学期の必修科目である学生実験の内容も2006年度から大幅に見直し,モルタル梁を作製してのコンテスト形式としている2)。断面寸法や使用材料などの制約条件の中で,最大荷重,梁の重さ,耐久性,コスト等の観点を総合的に数値化してのコンテストである。3年生たちは他の班の工夫もシェアでき,修士1年生を中心とするTAたちと学部3年生のコミュニケーションも活発のようで,元気と連帯意識のある新4年生が研究室に入ってくるきっかけとなっているようである。

夏合宿は研究室の看板行事でもある。私の赴任後の最初の夏である2004年から開始し,2007年の黒部ダムから2泊3日とし,毎年続けている。日中は一級の土木遺産や建設現場などを巡り,夜は懇親を深めて春学期を振り返る。企画は数か月かけて練り込む。訪れていない地方は私のルーツである山陰地方と沖縄くらいである。2018年は,神戸駅に集合し,明石大橋の主塔に登り,四国に渡って旧香川県立体育館と香川県庁東館(丹下健三の設計),青雲橋,満濃池,豊稔池,上吉野川橋,佐川町の廣井勇生誕碑,一斗俵沈下橋,黒潮町の津波防災対策を勉強して高知駅で解散した。一級のものを見て感じるだけでなく,お互いの感想を懇親会で共有することが重要と思う。

近年は,秋の入学生も多い。横浜国立大学の中で土木系は突出して留学生の数が多く,国籍も多様である。私の研究室は他に比べてまだ少ない方であるが,それでも10名前後の留学生が在籍しており,今後はさらに増える見込みである。私の赴任以降も様々な変化にさらされているが,在籍者数の増加に伴い,早速スペース不足の問題が顕在化してきた。

そこで2017年4月に,私は13年半住んだ個室を出て,教員・博士課程の学生・秘書が共住する大部屋を作った。2017年度は前川先生もその大部屋の小机で仕事された。大部屋のアイディアは前川先生に後押しされて実現した。コミュニケーションが活性化し,プラスの効果が大きいと思うし,個人のスペースが少ないことは無駄を抱え込まない習慣につながった。2018年度の完全移籍に伴い,前川先生は個室へ移動となったが,上記大部屋との通路はほぼ常に開けてあり,風通しの良い環境を目指している。

教員以外の部屋も小部屋ばかりであり,廊下の並びの中央付近にある私の以前の個室をミーティングルームとしてレンタルティーサーバーを置いた。私の私物の書籍を公開し,学会の書籍類,月刊誌等を閲覧できる部屋にし,活発に使われている。学生の部屋も半年に一回席替えする。個人机を少しずつ減らし,フリーアドレスの大机を試行的に導入し,在籍者数の増加に先手を打っている状況である。現時点では,その努力もあり,上記のミーティングルームと,解析PC群を置いた解析専用ルームを運用できている。

10年以上前から,学生の実験室係とPC係を置き,それぞれ修士2年を責任者,修士1年生を補佐に付けて謝金を支払って研究室の運営をサポートしてもらっている。月に一回のスタッフミーティングを教員全員も含めて行い,研究室運営の方針の確認と課題の共有を行っている。

冬合宿も行っている。これは2009年度に初めて三崎で行った。夏とは全く趣旨が異なり,一泊二日で,初日は朝から夕食前まで研究ゼミ。近年は2月初旬に行っており,最終審査が間近の修士2年生と学部4年生がそれぞれ研究発表を行い,みっちりと質疑も行う。なるべくOBOGに参加してもらえるよう休日開催としている。大ベテランのOBやOGも参加してくれ,研究を見ていただき貴重なアドバイスをいただける機会となっている。年度の最終盤に向かう直前の夜の懇親会も毎年激しい。

審査会も無事(?)終了し,卒業論文の審査会の夜に研究室の打ち上げを行っている。その場で,学生の研究室MVPを表彰している。研究活動,各種のイベントへの貢献,雰囲気作りへの貢献をすべて勘案して教員も含めて投票し,1位から3位の発表と,教員のポケットマネーからの副賞の図書券を贈呈して毎年盛り上がる。毎年のMVPは研究室HPに永年表彰である。

以上のサイクルを終え,一息付いている間に立派に育った(?)学生たちは卒業し,4月になりまた新たなサイクルが始まる。ご承知の通り,大学は激しい改革の嵐にいいように痛め付けられているが,何とか冒頭の研究室の目的を果たせるよう,今後も改善が必要なのは言うまでもない。

参考文献
1) 小松怜史,木下果穂,中川恵理,田島涼,田中洋人:キングオブコンクリートへの道 ~学生の主体的な取組みによる実践的教育の効果~,コンクリート工学,Vol.54,No.6,pp.648-651,2016.6
2) 林和彦,細田暁,椿龍哉:モルタル梁のコンテスト形式による学生実験の改善と教育効果,コンクリート工学,Vol.49,No.10,pp.37-42,2011.10


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