人生いろは坂

人生は山あり谷あり、そんなしんどい人生だから面白い。あの坂を登りきったら新しい景色が見えてくる。

秋の実り

2008-09-28 06:55:02 | Weblog
 広い田圃では大地に大きく株を広げた背の高い稲穂がたわわに
実っていた。これは知人が作っている今の田圃の風景だ。手前には
黒米や赤米やその他見たこともないような品種の稲穂が見えていた。

 実はこの田圃を訪問したのは今年の夏の初め頃であった。冬から
春にかけての雑草が一斉に枯れ始めた頃であった。たくさんの燕たちが
一面の草原の上を忙しげに飛び交っていた。

 周辺も田圃や畑ばかりだが、何故かこの田圃ばかりに燕は異常に
集まっていた。目には見えないが餌になる虫が多いに違いない。
何とも長閑としか表現のしようがない自然そのものの眺めであった。

 はっきりとは覚えていないけれど子どもの頃、今ほど農薬や化学
肥料を使わなかった頃の田圃は、このような眺めだったのではない
だろうか。最近は燕の数も激減してしまった。

 さて、目の前にある稲は、ひ弱そうに見えたあの苗床にあった
苗一本であろうか。苗床には株間を大きく取った苗がまばらとも
思えるような間隔で植わっていた。
 知人の話では種まきの時から丈夫な苗を作るために、このような
蒔き方をするのだとのことであった。一般の苗床とは全く異なった
蒔き方であった。

 そして、田植え前の田圃はと言うと枯れかけた冬草の下に分厚い
枯れ草の層が出来ていた。厚さは3センチから4センチはあった
だろうか。層がここまでになるには6年から7年はかかるとの
ことであった。

 そして田植えには、枯れ草の層をかき分けて田圃本来の土の層に
植えるとのことであった。植える苗の間隔も通常の田圃より大きく
取って植えるとのことであった。そうしないと株が大きく成長しない
とのことであった。

 実は日本の稲作ほど完璧にマニュアル化された作物はないそうで
ある。この品種であれば、いつどんな風にして水や肥料や更には
農薬までどうしなさいこうしなさいと細かく定められている。
 従って、仮に全くの素人でも、その通りにすれば収量はともかく、
収穫は出来るようになっている。

 目前の稲は重たげに稲穂が垂れ下がっていた。知人の話によると
水はもう必要ないのだと話していた。これから収穫までの間、稲は
更に追熟し大きくなることであろう。心なしか周辺の田圃より稲丈が
高いように見えたので知人に尋ねてみると、稲一本一本が太く、
その上、背丈も高いとのことであった。それでいて無農薬、無肥料
栽培である。稲は自分のDNAに深く刻み込まれた性格をそのままに
たくましく成長しているようである。

 田圃によって様々に条件が異なるので、果たして他の場所で同じ
ような実りを期待できるかどうかは分からない。こうして目の前で
全くの自然農法で育てられた稲を見ていると、私達の文明とはいったい
何だったのだろうと考えさせられてしまう。

 たった一本の小さな苗が他の田圃の稲に勝るとも劣らないほど
大きな株に成長し、稲穂をたわわに付けてなおこれからも成長し
続けようかという勢いには全く圧倒される思いであった。
 素晴らしい、実に素晴らしい。驚くことも感動することも少なく
なった年齢ではあるが、田の前に立ちつくして感嘆の声ばかりを
もらしていた。

 稲穂の下にはたくさんのタニシとメダカの子が群をなして泳いで
いた。そして稲穂には懐かしいイナゴの姿を見かけた。知人の話では
出穂期に葉が食べられたら食べられた葉を補充するかのように新しい
葉が脇から伸びて来るとのことであった。

 知人もこの方法にたどり着くまでには幾度もの試行錯誤やあれこれ
と方法を変えたとのことであった。安くない土壌改良材を入れた
こともあったそうだが、とにかく手間のかからない稲作をと考えて、
たどり着いたのがこの方法だったようだ。

 ただ、一つ大変なのは手植えであると言うことである。昔のように
家族総出で植えなければ短期間には終わらない。従って、どこの田圃
でもと言うわけには行かないが、生き残りの一つの方法としてこの
ような栽培方法もあると言うことではないだろうか。
 収穫時には声を掛けますからとのことなので楽しみにしている。

 知人は野菜も同じような方法で作っている。下草はそのままに
オクラや茄子やキュウリやピーマンが植わっていた。一見、草の中に
野菜が植わっていると言う感じであった。
 請われるままに収穫を手伝った。シシトウを口に入れてみると甘い。
野菜本来が持つ甘さであった。肥料は、わずかばかりの油粕と米糠
(ぬか)だとのことであった。

 この畑も野草が次々に折り重なって土の層を作っていた。ただ、
葉野菜を作るのは難しいようで、今も試行錯誤を繰り返しているとの
ことであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする