ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

山本芳久著  「トマス・アクィナスー理性と神秘」 岩波新書2017年2月

2019年11月01日 | 書評
渡良瀬遊水地 周回サイクルロードより 釣り風景

「神学大全」に見るトマス哲学の根本精神を理性と神秘から読み解く 第7回

第2章) 「枢要徳」の構造 (その1)

トマスにおいては、人間は現世から天国へ向かう旅人として捉えられている。人生という道を適切な方法で歩むための内的な力を「徳」と呼ぶ。トマスは徳を「枢要徳」と「神学的徳」に分ける。自身及び人間関係の徳は「枢要徳」で、神との関係においては「神学的徳」と呼ばれる。トマスの「徳論」は、トマス人間論の中核をなしている。「神学大全」の第2部の人間論は、第2部の第1部の「倫理学総論」と第2部の第2部の「倫理学各論」に二分される。そのほとんどは「徳論」である。トマスはアリストテレスの「ニコマコス倫理学」を受け継いで、「賢慮」・「正義」・「勇気」・「節制」の四つの徳を「枢要徳」という重要な位置に置き、「人間をよい者にし、人間の働きをよいものにする」といいます。次にディオニシウスの「神名論」を引いて、徳と善と理性の3者の深い結びつきを示します。人間の働きが理性に即したものになるためには、理性自体が健全でなければならない。トマスは理性を直すには「知的徳」によってなされるといいます。「知的徳」とは、人間の知性又は理性を完成させる徳のことを指します。「倫理的徳」とは欲求能力を完成させる徳であり、「人柄に関わる徳」に相当し、「知的徳」とは理性を完成させる徳である。「知的徳」を有すると「頭の良い人」になり、「倫理的徳」を有すると「性格の良い人」になる。そうした意味で人柄の良さを不可欠として伴っている意味での賢さが「賢慮」と呼ばれる「知的徳」である。「正義」とは、この世界に共に生きている者たちの善を的確に配慮する意思の力である。賢と正義に比べると、「勇気」・「節制」の徳の役割は補助的である。勇気は困難に立ち向かう力であり、節制とは自分の欲望をコントロールする力である。「徳」概念がトマスの人間論において中心的な位置づけにあることは、「神学大全」第2部の構成を見れば明らかです。「神学大全」の構成は以下です。
第一部 「神論」
第二部 「人間論」 第1部:一般倫理(総論)「究極目的と幸福」、「人間の働き」(問題群:「意志的行為」、「行為の善悪」、「感情」)、「働きの根源・原理」(問題群:「習慣・徳・罪」、「法」、「恩寵」)
第2部:特殊倫理(各論)
第三部 「キリスト論」

(つづく)