ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート サイモン・シン著 青木薫訳 「フェルマーの最終定理」 (新潮文庫2006年6月)

2019年01月15日 | 書評
ピタゴラス数表(一部)

17世紀フェルマーによって提示された数学界最大の難問 第3回

1) ピタゴラスの定理からフェルマーの最終定理へ

1993年6月23日、ケンブリッジ大学のアイザック・ニュートン研究所で数学の特別講演会が行われた。セミナーの題目は「L関数と数論」であった。講師はプリンストン大学教授でイギリス人のアンドリュー・ワイルズである。時にワイルズの年齢は40才の大台に乗っていたし、この7年間数学界ににはめっきり姿を見せなかったため、もうワイルズの数学者としての寿命はかれてしまったのかと噂されていた。実はワイルズはこの7年間というもの、数学最大の問題を解決すべく完全な秘密のうちに研究を続けていたのであった。数学者アルフレッド・アーサーは「数学者の数学的寿命は短い。25才、30歳を過ぎると成果を上げられる見込みはない」とさえ言う。ハーディーも「若い人は定理の証明をすべきであり、老人は本を書くべきである」という。王立協会の会員になる年齢は数学者が一番低い。ラマヌジャンは31才で王立協会会員になった。19世紀のノルウエー人アーベルは20才で代数学の畢竟の大仕事をし、ガロアも10代で大きな仕事を成し遂げ21歳で世を去った。ワイルズが秘密主義を取ったのは成果の独り占めであるが、反面大きなつけを払わなくてはならない。それは自分のアイデアを数学者と協議し検証したりして、大きな誤りを未然に防ぐことができないという可能性があるということである。ワイルズは1963年10歳のころから数学の問題の虜になっていた。ワイルズ少年は近くの図書館に通って、ベルによる「最後の問題」という数学の歴史が書かれており、17世紀フランスのフェルマーが遺した問題に夢中になった。フェルマーの最終定理とはピタゴラスの定理に基づいており「直角三角形の斜辺の二乗は、他の二辺の二乗の和に等しい」から出発している。ピタゴラスは紀元前6世紀の古代ギリシャ人で、サモスの賢者といわれ「数には数の論理がある」という思想を抱き、ミロンの援助のもと秘密の数学者集団「ピタゴラス教団」を設立した。弟子の数は600人ほどで、数を神とする宗教集団の様であった。自然数と分数(二つ合わせて有理数をつくる)に関心を寄せた。なかでも「完全数」(その数の約数の和がその数に等しい) たとえば6の約数は1,2,3でありその約数の和は1+2+3=6であり元の数の同じになる。そして完全数は常に連続した自然数の和にひとしい。6=1+2+3、28=1+2+3+4+5+6+7・・・である。そして完全数は2のベキ数と密接な関係にあり、2のベキ数の約数の和はつねにその数より1少ないことを見出した。2の2乗=4 約数の和 1+2=3 2の3乗=8 約数の和 1+2+4=7  2の4乗=16 約数の和 1+2+4+8=15・・・である。さらにユークリッドは完全数はつねに二つの数の積で表され、その一方は2のベキ数、片方は2のベキ数から1を引いたものになることを発見した。6=2×3=2^1(2~2-1) 28=4×7=2^2(2^3-1)・・・ピタゴラス数リストに見るように、辺の長さが1少ない二辺の例が多いのもそのせいである。ピタゴラスは自然現象と数の関係にも興味を持ち、自然法則は数式で表せることに気が付いた。特に弦の分割と振動数(音程)の関係は顕著である。円の直径と円周の比が一定であること(円周率π)は古代エジプト人の発見による。ピタゴラスは「万物は数なり」と言い切った。数学の定理は、一連の公理から出発し論理的なプロセスを経て得られた結論が定理である。この点が仮説を設ける物理学とは本質的に異なる。こういう数学の論理が古代ギリシャ時代から構築されていたことは驚異である。ピタゴラスの定理は幾何学的要素が強かったが、時代が進むにつれ代数学要素(関数方程式)が強くなった。二つの整数の二乗の和が一つの整数の二乗に等しい解の組み合わせをピタゴラス数(a,b,c)といい、その組み合わせは無限にある。ピタゴラス数の命題の一般化はベキ数を3以上にすることから始まった。x^3+y^3=z^3の整数の解があるのかであった。どうやら3乗の方程式を満たすような3つの数は求まらなかった。17世紀のフランスの数学者フェルマーは、誰にも解が見つけられないのは解が存在しないからだという主張をしたのだ。そしてフェルマーから300年あまり、世界の数学者は書かれなかった証明法をめぐって悪戦苦闘したがその試みはすべて失敗に終わった。その証明法が1993年6月23日、ワインズによってケンブリッジ大学のアイザック・ニュートン研究所で発表された。200名いた聴衆から祝福の喝采があがった。この本はそのサイエンスストーリである。

(つづく)


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1 コメント

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abc予想で証明できる?  (もののはじめのiina)
2022-10-27 10:09:59
存在するものを証明するより、無限に存在する自然数を試みて、そのどれもが存在しないとする証明は極めて難しいです。
超難問「フェルマーの最終定理」は、「abc予想」を使うとこの長い証明を数行で証明できるらしいですょ。

京都大学数理解析研究所教授望月新一博士が考え出した「abc予想」は、理解するにはもう少し説明を必要とする段階だそうです・・・。

当方も、よく理解できていません。

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