ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 堤未果著 「(株)貧困大国アメリカ」 岩波新書 (2013年6月 )

2014年01月31日 | 書評
グローバル資本による寡占支配が生み出す、食産業・行政・マスコミの株式会社化 第7回

2) 食品業界の垂直統合 (2)

 2013年2月FDAの全米薬剤耐性監視システムNARMが食肉検査結果年次報告を発表した。抗生物質薬剤耐性菌が七面鳥の81%、牛肉の55%、豚の69%、鶏肉の39%から発見された。2000年以来人向け抗生物質の販売量は770万ポンドと、この10年間は横ばいであるのに対して、食肉生産用の販売量は2000万ポンドから3000万ポンドと急激に増加している。抗生物質生産量の7割が人間ではなく食肉用家畜に投与されている。アグリビジネスと製薬業界の合併が始まった。EUでは198年以来成長促進目的で家畜に抗生物質を投与することを禁止した。この影響は人間界に対して、鳥インフルエンザ、病原性大腸菌、サルモネラ中毒、狂牛病、口蹄疫病などといった動物を介する新種の病気の流行に一役を買っている。近年恐ろしい猛威を振るう疫病は実は人間が生み出した生態系への干渉にある。抗菌、滅菌などという日本特有の潔癖症も見直さなければならない。絶対無菌状態はあり得ないことだし、子供の免疫教育という意味でも、積極的に感染して免疫を獲得することの方が大事である。2012年12月FDAは「GMサーモンは天然サーモンの養殖に対する影響は少ない」という環境影響評価結果を出した。これは1995年から認可を求めている、成長ホルモン調節遺伝子操作によって絶えず成長ホルモンを出し続けるサーモンの開発によって、大きさは3倍で養殖期間は半分でよいという高効率漁業をもくろむものである。問題は養殖場から逃げて自然界で繁殖した場合の生態系評価である。天然種の絶滅につながる恐れもある。開発したアクアバンティ社は生殖能力はないかもしくは非常に低いというが、生殖能力が回復する場合(先祖返り)もよくある話で安心できるものではない。GMサーモンが網から逃げることは絶無ではないはずだ。FDAは2010年にGMサーモンの安全性承認を出している。血液製剤製造のためのGMヤギ、糞尿対策GM豚も現在認証待ちであるという。2013年3月オバマ大統領は「モンサント保護法」に署名した。これは「遺伝子組み換え作物で消費者の健康や環境に被害が出ても、因果関係が証明されない限り、司法は種子の販売や栽培停止などの処置はとらない」というものである。これは日本でいえば事業者から原発事故の限度以上の賠償免除項目と同じで、企業側は絶対的な安心を手にした。因果関係の証明には数年から10数年かかるものである。だからEU は[「予防原則」を樹立した。「因果関係が明確でなくとも、行政は使用停止など被害防止の手を打つことができる」という。EUと米国では被害の行政対応が180度異なる。2012年1月のオバマ大統領が署名した「食品安全近代化法」は、今後アメリカ国民が食べ物を栽培し、売買し、輸送する権利を、政府がすべて規制するという法律である。これは適用によってはクリントン大統領時代のHACCPの大手食肉業者の寡占化を進めたことを思い起こさせます。小規模家族経営農家は対象から除外されますが、それでも大量の申請書類を作成しなければならず、個人経営農業を廃業に追い込む法律である。

(続く)
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読書ノート 堤未果著 「(株)貧困大国アメリカ」 岩波新書 (2013年6月 )

2014年01月30日 | 書評
グローバル資本による寡占支配が生み出す、食産業・行政・マスコミの株式会社化 第6回

2) 食品業界の垂直統合(1)

 レーガン大統領の独占禁止法規制緩和(骨抜き)がもたらした急速な垂直統合ブーム(寡占化)は、アメリカの農業・食の業界を大きく変えた。生産工程の異なる企業群を提携・合併・買収によって競合者を排除してピラミッド型市場支配を目指した。その典型がスーパーマーケットの最大大手のウォルマートである。1988年の創業以来店舗の拡大、競争相手の買収によって全米小売業界のトップとなった。2012年で全米で4740の店舗、売上高46兆円、全世界で毎週70億人の集客を誇る世界一の小売業である。ウォルマートへ納入する業者のコスト管理・契約条件は厳格で交渉はできない。全米4大食品生産業者(タイソンフーズ、クラフトフーズ、ゼネラルミルズ、ディーンフーズ)をも支配関係で結んでいる。小規模生産者や街の小売業者をなぎ倒し、シャッター通りに化した地域社会は多様性を失い文化や人の結合も失われた。行き着く先は消費者の選択肢も奪われている。全米の食品販売の4割以上をウォルマート、クローガー、コトスタ、ターゲットの4社が占めている。食の産業における吸収・合併に積極的に動いたのは、大手銀行、投資銀行、ヘッジファンドなどであった。銀行や証券会社は手数料の拡大に夢中になった。2000年に民主党クリントン政権は賞品市場の規制緩和である「商品先物近代化法」に署名し、食料価格も株式と同じようなマネーゲームの対象となった。原油は先物取引によって現物需要の数年分の先物取引が行われているが、食品生産者は農家との先物契約を、合意価格に上乗せした「商品」として投資銀行に売ることができるようになった。こうして食料品が投機バブルの一部に組み込まれた。アメリカで住宅バブルが崩壊したとき、投資家はその損失を補うために次の投資先として食料品を選んだため食料危機が起きたのである。2008年と2010年に食料価格バブルが発生し、国連は食糧危機状態を警告しました。旱魃だという噂はデマで、価格を煽る資本の動きによるものでした。先物取引市場は価格の安定という側面はあるにしろ、現実は投機の対象としてリスクを消費者に押し付け投機資本は逃げきるものなのです。日本の厚生省にあたるアメリカのFDA(食品医薬品局)の上級顧問はモンサント社の副社長テイラーがなっている。これでは規制される側の人間が規制する側になったようなもので公正な規制行政は期待できない。日本の原発事故で明らかになったように小泉改革で原子力安全保安院が原発推進元の経産省に組み込まれたことと構造的には同じである。規制緩和の本質は、手続きの簡略化という名目で安全という規制を取り払うことであった。そのリスクは市民が負うことになった。テイラーは1992年GM表示義務を削除し、GM安全評価データの一般公開を免責した。そしてモンサント社製の牛乳生産効率増大のために遺伝子組み換え牛成長ホルモン(γBGH)を承認し、牛乳製品に表示を不要とした。この成長ホルモンは発がん性、病気対策の過剰抗生物質投与とセットとなっているため、EU、日本、ニュージランド、オーストラリアなど27か国では禁止されている。アメリカ全土で人体による安全試験が実施されているようなことになっている。バイオ業界と政府機関の回転ドアー人事(交流人事)はレーガン以来顕著になっており、FDA,EPA,USDAの安全神話が捏造された。1999年の金融規制法(グラススティーガル法)撤廃によって、金融工学によって途轍もなく設けることができるようになった金融資本と企業が、資金力で政府とマスコミを買い取った結果である。向かうところ敵(制約)なしの状況である。

(つづく)
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読書ノート 堤未果著 「(株)貧困大国アメリカ」 岩波新書 (2013年6月 )

2014年01月29日 | 書評
グローバル資本による寡占支配が生み出す、食産業・行政・マスコミの株式会社化  第5回

1) 独占アグリビジネスに支配される契約農家の悲劇 (2)

 養鶏場の鶏の死亡率は28%と、牛や豚に比べると高い。それは成長促進剤を注射されるからである。成長剤のおかげでニワトリの体重は8倍に増え、短期間成長という効率向上と体重増による収入増という点で画期的な養育法であった。その代り鶏の病気が増え死亡率が高まったが、弱い鶏を間引いても効率向上につながった。寡占化は投資利益を目的とする株主至上主義に貫かれているので、借金だけが増える農家にしわ寄せ(取り分は少ない)がゆくが大企業はたっぷり利益を獲るのである。3K職場である食肉加工労働者はヒスパニック移民か囚人労働者が引っ張りだこである。これを「現代農奴制」と呼ぶ人もいる。養豚場は養鶏場では抗生物質耐性菌が蔓延しており、そこで怪我をした農民の傷が悪化するケースが増えている。アメリカで生産される抗生物質の7割は家畜に使用されているのである。農家は製薬企業のお得意さんとなった。1980年代に遺伝子組み換え作物GMの開発がアメリカの食を変えた。2000年代には米国内で作付されている、テンサイの95%、大豆の93%、トウモロコシの40%、がGM作物である。その安全性に関する議論はいまだ結論は出ず、現在世界の35か国でGM作物の輸入を規制または全面禁止されている。モンサント社は、グリホサ-ルを主成分とする除草剤「ラウンドアップ」と、これに耐性遺伝子を組み込んだGM種子(大豆)をセットで販売する。アメリカ大豆種子市場の90%がこの「グリホサザール耐性GM種子」である。GM 作物の安全性を検証する科学的研究には種子会社から財源が供給され、危険だとする研究結果には賛成派学者からの攻撃と村八分が待っている。社会的に活動の場を失った研究者が多い。論文掲載雑誌社の編集者を首にすることは日常的に行われる。業界はアカデミズムには研究費提供により、多くの御用学者を形成している。GM作物の利益共同体(学者・行政・業界)と安全神話は、まさに原発推進体制と同じ構造である。GM作物のラベル表示は日本では義務付けられているが、アメリカではGM作物をラベル表示することは全くない。2012年カリフォルニア州でGM作物のラベル表示義務化の是非を問う法案の住民投票が行われ否決された。他の数州でも否決された。法案反対のロビー活動は「表示を義務化すると手間のため価格が上がる」という脅かしであった。原発を廃止すると電力が不足し電力制限になるとか、火力発電の石油代が高いので電力代金の値上げになるというキャンペーンと軌を一にする。政府のUSDA食品規制機関は企業側と癒着していることも原発と同じである。1992年ブッシュ父大統領は「バイオテクノロジー関連製品は、実質的に一般製品と同じとみなし特別な規制は必要ない」と宣言した。これ以来GM作物に規制をかけたり、安全性を検証する第3者機関の行政も行う必要はないとされた。審査は企業が提出する書類のみで十分とした。「小さな政府」は経費節減という名目で、国民の安全性保護も放棄したのである。

(つづく)
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自作日本画 「舞妓」

2014年01月28日 | 自作絵画
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読書ノート 堤未果著 「(株)貧困大国アメリカ」 岩波新書 (2013年6月 )

2014年01月28日 | 書評
グローバル資本による寡占支配が生み出す、食産業・行政・マスコミの株式会社化 第4回

1) 独占アグリビジネスに支配される契約農家の悲劇 (1)

 第1章から第3章まではアメリカの食ビジネスの株式会社化が行き着く姿を描いている。第1章は独占アグリビジネスに支配される契約農家の借金漬けの姿である。この姿は日本でいえば地方の農家が大手不動産建託資本と契約して、自分の土地と借金でアパートを建てることに近い。不動産会社がアパート経営と管理を行うというシステム同じである。多くの企業が外国へ拠点を移した今日、地方にそれほどアパート需要がるとも思えないのに、働き手をなくして耕作を縮小している農家の余った土地に目をつけ、大手建託業者がアパートの建設業者から銀行まで紹介して農家にお客が入るかどうかのリスクや借金返済の負担を負わせるものである。近在のどこのアパートもがら空きである。本書では上位5本の指に入る大手養鶏加工会社サンダーソン社(年商100億円、従業員8300人、契約生産者600世帯)による契約養鶏者の募集から話が始まる。ある定年退職後の夫婦が申し込んだ養鶏事業は、初期投資として4棟で9000万円、ローンは農業事業者保証会社が間に入った。ほぼ建設が終わった頃契約書が送られてきた。飼育法のマニュアル(飼料など)に反する場合は契約を打ち切られるし、農家に契約不服申し立ての権利はなかった。1年目は300万円ほどの収入があったが、2年目から燃料費が高騰したが経費は契約農家持ちで卵1個の買い上げ金額は変わらなかったので、だんだん手取りが減少していった。3年目から年収入は100万円を切った。4年目に親会社は施設を新しくするか鶏舎を増やすかを要求してきた。生産効率が低下してきたからである。増設しなければ会社は契約を打ち切るという。こうして一度契約したら抜けられず雪だるま式に借金にからめとられてゆく。これを「デットラップ 借金の罠」というらしい。1950年ごろ養鶏場の95%は個人農家経営で地産地消が行われていた。1970年代から株式会社経営が急増した。今では4社が全米の養鶏の4割を支配し、生産者の98%が親会社の条件で働く契約農家になった。インテグレイターが鶏と飼料(抗生物質)の供給、運搬、と畜、加工、流通、ブランド所有を行う。契約者は鶏舎と労働力、糞尿処理、光熱費の維持経費を負担する。アメリカ中の農家が巨大な企業の下請け労働者となっている。1960年に農場数は4000、1農場の面積は300aだったのが、2000年には農場数2000に半減し、面積は500aに拡大した。つまり大規模農場でなければ生き残れなくなった。「最大限効率化された大規模農業こそが、世界を率いるアメリカの国力である」とピアス通商代表は述べた。レーガン大統領が独占禁止法を骨抜きにし、「強い農業、国際競争力」を掲げると農業の集中化(寡占化)はあっという間に進行した。1982年には養豚場数は49000、養豚場の平均出荷豚数470頭/年だったが、2007年には養豚場数は8700か所に減少し、平均出荷豚数は5000頭となった。低コスト、短期間生産という効率の良い工場式農業に変身したのである。豚や鶏はもはや生き物として扱われず、材料として追及された。家畜工場は動物保護法の適用から除外され、食品安全審査システムは食肉加工工程のみとして他の行程には徹底して規制緩和され、安全審査機関の予算は大幅に削減された。さらの2000年からはブッシュ大統領は家畜廃棄物被害の企業責任を免責した。動物保護団体の監視の目を工場内に入れないため、アメリカ州議会交流評議会ALECのロビー活動によって、反内部告発法を定めて、企業秘密漏えい罪を強化した。2013年オバマ大統領は養鶏場安全審査官を25%削減したので、安全検査技術向上と称して審査官の審査スピードを毎分175羽まで上げた。このスピードでは安全審査はほとんどギブアップ状態である。
(つづく)
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