ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・ヘイブンー逃げてゆく税金」 (岩波新書2013年3月)

2016年02月29日 | 書評
逃げた税金を資金にして巨大マネーが金融危機を生む  第2回

序(その2)

日本の所得税負担率は、2009年所得250万円に対して2.6%、1000万円で10.6%、1億円で28.3%を最高としてそれ以上の収入では負担率は下がってゆく。年収100億円では13.5%となる。必ずしも累進課税とはなっていない。100億円の収入とは普通の所得ではなく、多くは株売却による所得で、毎年長者番付をにぎわせるのである。そういった所得に対して特別措置が適用されるからである。そして申告不足でいつも話題となり、追徴課税が何10億円と報道される別世界のことである。租税回避または脱税により、課税を逃れている高額所得者は多数いるとみられる。何億-何十億円という金を現金で持っている人はほとんどいない。金融機関に預けると調べが入るとすぐにわかるので、高額所得者には何らかの手段で海外のタックス・ヘイヴンに逃がして税金を遁れる人がる。タックス・ヘイブンは脱税をはたらく富裕者のみならず、不正を行う金融機関や企業、犯罪組織、テロリスト、各国の諜報組織が群がる伏魔殿である。悪名高いヘッジ・ファンドもタックス・ヘイブンを利用して巨額のマネーを動かしている。タックス・ヘイブンには次の3つの特徴がある。①まともな税制がない、②固い秘密保持法制がある、③金融規制やその他の法規制が欠如している。そしてタックス・ヘイブンを舞台に行われる悪事とは、①高額所得者・企業の脱税、租税回避、②マネー・ロンダリング、③巨額投機マネーによる世界経済の破壊である。個人も企業もある程度の高い収入が得られると、税理士や会計士、弁護士の専門家を雇ったりして節税対策を行うようになる。節税、脱税、租税回避行為の見分けが難しいが、それにより租税収入が減り一般納税者はツケを回される。昔は分厚い中間層がいたが、近年の格差拡大政策により、中間層がやせ細り富裕層と貧困層に2極分離している。重税感が蔓延すると社会不安を増大する。財政資金が不足し国債発行に半分以上を頼る不健全財政が常態化している。本来納付すべき税金と実際に納付される税金の差額を「タックス・ギャップ」といい、米国では2001年のギャップを34兆円と推計した。日本の課税当局はこのギャップさえ把握しようとしていない。犯罪組織の黒い金は情報の秘密が厳格に守られるタックスヘイブンに送金して、直ちにまた別の国の口座に振り替えれば当局の追跡は不能である。テロ組織の送金もまたタックスヘイブンを介して行われる。だが最後の現金の陸揚げは銃撃戦覚悟の命がけであることは免れないが。新しい金融技術はデリバティブという金融商品を生んだ。そうした金融商品を駆使したマネーゲームによってこの20年間に何回も金融危機・通貨危機が起きた。そしてこの金融商品はどこかで必ずタックス・ヘイブンに亜ある事業体を経由し、資金ルートの全容を見えなくする。金融機関がリスクを取りすぎて破綻しないように規制をかけることを「プルーデンシャル・レギュレーション」というが、タックスヘイブンにはそのような規制はない。こうして金融商品のリスクが分散されるのではなく見えなくなるのである。規制は国境を越えて執行できない。このようなマネーゲームの行き着く先は、決まって大規模な金融危機である。取引されるマネーの量は1国の資金量をはるかに超えているからである。2001年の9.11事件後マネーロンダリングの取り締まりは強化された。2009年のG20首脳会議ではタックスヘイブンを取り締まる動きが活発化した。しかしタックスヘイブンの秘密主義のため実態捜査は一向に進まない。世界の金融取引に深く根を張るタックスヘイブンの存在は、国益に揺るがす重大問題である。ある旧宗主国(イギリスのこと)は傘下にある旧植民地のタックスヘイブンを庇護しようと、様々に隠蔽工作や妨害工作をする。先進国でありながらタックスヘイブンである。筆者である志賀氏が日本代表として取り組んだ国際組織活動は、1998年OECDの租税委員会で「有害な税の競争」報告書であったという。そしてその報告書は2009年にはタックスヘイブン・ブラックリストの作成となった。1998年金融監督庁特定金融情報管理官としてマネーロンダリング問題に取り組む国際機関FATFのメンバーとなった。FATFの中に金融情報管理という組織を持つ国だけでFIUというサブグループがマネーロンダリング問題を扱った。1998年アジア通貨危機と日本の金融危機の際に作られた国際機関金融安定化フォーラムFSFはグローバルな金融問題を扱うフォーラムだったが、2009年リーマンショック金融危機後のG20サミットによってFSBに格上げされた。FSFには筆者は金融監督庁の日本メンバーとして参加した。

(つづく)
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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・ヘイブンー逃げてゆく税金」 (岩波新書2013年3月)

2016年02月28日 | 書評
逃げた税金を資金にして巨大マネーが金融危機を生む  第1回

序(その1)

書の「あとがき」に、本書の執筆を著者に勧めた青山学院大学教授の三木義一氏の言葉がある。「正確な知識と豊富な実体験をもって、タックスヘイブンの実像を語れる人は、世界中探してもあなたの他に誰もいない。マネーに心を奪われた者達と戦うためには、市民に事実を知らせることから始めるしかない」 大蔵省主税局国際課長兼OECD租税委員会日本国メンバーとして、世界のタックス・ヘイブン規制国際会議に政府代表として参加し、1993年その取り締まりが大蔵省から警察庁へ移管された時に警察庁へ出向し、次いで岐阜県警察本部庁長になった。1998年に再度金融監督庁国際担当参事兼FSF日本国メンバー、FATF日本国メンバーとなった、いわば国際課税のスペシャリストである。それは同時に秘密じみたタックスヘイブン・ヘッジファンド・テロ・地下組織捜査官として、資金洗浄(ロンダリング)の不正の現場を押さえるため危険な場所に絶えず出入りせざるを得ない武勇伝が本書の各所に入れ込まれており、非常に緊張感のある「マルサの女 国際版」物語になっている。なぜタックス・ヘイヴン課税が国際協定で一筋縄で行かないかというと、イギリス、アメリカ、オランダ、スイスなどの金融センターが国の重要な収入源となっているためである。だから取り締まる側と取り締まられる側が同一人物であるので、実効性を持たないのである。個々の事件で現場を押さえグーの声も出ないように持ってゆかなければならない。この記録が「タックスヘイブン事件簿」Ⅰ-Ⅲとして本書の各所に埋め込まれている。本書の結論を述べよう。タックスヘイブンという言葉は租税回避防止という意味を持たされている。タックス・ヘイブンの問題は、単に低税率の問題にとどまらないことが認識された。タックスヘイブンの真の問題は、その秘密性、情報の不開示にあることが明らかになった。市場は情報の非対称性(情報の偏在性)で利益が出るのである。2008年のリーマンショックによる世界金融危機を経て、タックス・ヘイブンブラックリスト公開が初めて可能となった。世界経済は1990年以来今日まで、連続的な金融・通貨危機に襲われ続けている。これらの危機は多くは、タックス・ヘイブンを舞台に、非生産的なマネー・ゲームに狂奔するヘッジファンドや投機マネーが引き起こしたものである。その淵源をさかのぼれば、新自由主義の下で規制を解き放たれた「強欲(グリード)資本主義」のなせる業であった。自由主義市場といえども決められたルールに基づいて運営されなければならないことは当然である。金融が経済の血液であるなら、金融システムに打撃を与える行為は規制されなければならない。グローバル経済では金融に対する事前的な規制はもはや一国では達成できず、国際的枠組みに拠らざるを得ない。タックス・ヘイブンが、富裕層や大企業が課税から遁れる場として使われ、さらにテロや犯罪組織の資金隠匿や移送に使われ、巨額の投機マネーが繰り広げる狂乱のマネーゲームの舞台になっている。その結果、一般の善良な納税者が余計な税負担を強いられ、かつマネーゲームの引き起す損失や破綻のツケまで払わされている。「税は文明の対価である」というアメリカ最高裁判所判事オリバー・ホームズJr.の言葉がある。納税者には対価として文明を享受する権利があり、これを奪われるなら二重の苦しみである。マネーゲームの破綻で文明そのものが破壊される危険性があることを、納税者自らが正しく問題の所在を理解することから始めなければいけない。本書の刊行の意義はそこにある。

(つづく)
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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・イーター-消えてゆく税金」(岩波新書 2014年12月)

2016年02月27日 | 書評
税金を食い尽くす政・官・業の鉄のトライアングル 第8回 最終回

5) 財政改革ー問題と対策

タックス・イーター対策を考えるに際して、まず公共部門における会計の現状を正確に把握できていないことが厳然として存在する。現在の官僚組織には納税者に対する情報提供という姿勢は全くない。納税者がみても全く理解できないように情報をコントロールしているし、公開しても数字はすでに操作されているからである。国税庁は税務訴訟のデータを長い間統制(年間300件ほどあるのを1件と言ってきた)してきた。数字的データーに関する秘密主義は、ある意味官僚による権力独占の根源である。それには現状を正確に把握できる国際会計基準による表記が第1歩である。公会社(特別会計)ではひたすら赤字を垂れ流していることが分かる。会計基準が法律ごとに異なり、異なる会計基準が林立しているので、これを統一した会計基準に改めることであろう。特別会計は一般会計に統合し一覧性を持たせなければならない。2007年に制定された「特別会計に関する法律」がそれである。特に社会保障制度においては、一般会計30兆円だけではわからない。社会保障の全体の支出ベースは100兆円を超えているからである。そうでないと一般会計からわかる1010兆円に及ぶ政府長期債務残高よりはるかに大きな債務が存在するのである(別に1500兆円ともいわれる)。有名無実の予算制度の実態と課題については田中秀明著 「日本の財政」 (中公新書 2013年 )が指摘する通りなので省略する。結局予算のチェック機能(予算と実施について)である、会計検査院制度に問題がるようだ。憲法第90条に「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は次の年度にその検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」となっており、国会、内閣、裁判所という三権から独立した機関であると定めている。会計検査院はタックス・イーターの監視と是正の権限を与えられているにもかかわらず、その機能を果たす意欲も能力もない。会計検査院は単位「会計経理」の仕事だけの時期もあったが、2005年の法改正があり、政府の政策の経済性、効率性及び有効性などの観点d仕事をすることが謳われた。ところが会計検査院は会計監査の域にとどまり、業務監査まで踏み込んでいない。会計検査院に番犬として機能が要求されるのである。民主党政権の時「事業仕分け」という仕組みで政治家を動員して公開の会計検査を行っただけで定着はしていない。会計年度の決算に関する問題は、国会両院の議決に法的効果がないことである。政治家もマスコミも国民もだれも決算(金の使われ方)に関心をもたない。両院の決算委員会はまじめに審査を行わない。2年以上審議をせずにたなざらしすることもあった。1997年国会法が改正され衆・参議院に「決算行政監視委員会」が設けられた。ところが実際は税務署に会計検査院の査察が入るだけで、大規模プロジェクトの評価(高速道の建設など)はできていない。会計検査院には審査請求をすることができるが、裁判所では「利害当事者ではない」といつも玄関払いをしてきた。「司法消極主義」は一つの懸案事項である。国にたいする公金検査住民訴訟制度がないことが最大の問題であるが、2005年日弁連は「公金検査請求訴訟制度」の提言をした。「財政改革ー問題と対策」という主題に対しては、著者の結論は尻切れトンボに終わっている。物足りなさを感じる。

〈完)
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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・イーター-消えてゆく税金」(岩波新書 2014年12月)

2016年02月26日 | 書評
税金を食い尽くす政・官・業の鉄のトライアングル 第7回

4) タックスヘイブンー多国籍企業の租税回避

2013年ギリシャ国債の暴落の余波を受けてキプロスは一気に金融危機に陥った。なぜならキプロスの金融機関の資産が同国のGDPの8倍もあったからである。米国では等倍、日本では4倍なので、小さい国としては異常であった。キプロスは1990年代託す・ヘイブンとして有名であった。EU加盟に際しては法人税を5%から10%に引き上げた位、企業の税率は低かった。金融資産の半分近くはロシア・マフィアとロシア新興財閥の脱税資金であったという。裏の経済規模(アングラマネー)は推計であるが、約2000兆円―3000兆円と言われている。世界経済規模GDPはおよそ7000兆円である。スターバックスが2011年から2014年の3年間で1億ポンドの収入がありながら、法人税を英国に全く収めていなかったことで英国国民の反発を引きおこした。その仕組みの秘密は「スイス・トレーディング・カンパニー」を介する国際的税回避手法にあった。米国に本社を持ち、英国に販売会社を置き、オランダに統括会社、スイスにスイス・トレーディング・カンパニーを置く。物の流れはスイストレーディング・カンパニーでコーヒー原産国から輸入し、オランダの焙煎会社から英国の販売会社に納入される。金の流れは、販売会社から売り上げ金をアメリカ本社に利息支払いとして、オランダ統括会社にライセンス料として送る。「スイス・トレーディング・カンパニー」は豆の輸入ではなく取引のコミッション料だけをとる。するとスイスでは外外取引の優遇税制5%が適用されるだけである。次にアップルの租税回避法は「ダブル・アイリッシュ・ウイズ・ダッチ・サンドウィッチ」と呼ばれた。米国に本社を持つアップルは、アイルランドの販売会社と統括会社を置き、オランダに導管会社、バミューダに管理会社を置く。導管会社がグローバル販売をするアイルランドの販社と統括会社にライセンス供与をし、ライセンス料をオランダの導管会社に納入する。アイルランドの法人税は12.5%であるが、アイルランドの法人税制は「管理支配地主義」であるので、バミューダの管理会社の支配を受けているアイルランどの販社はほとんど無税である。米国の法律では法人ではないとみなされ、タックスヘイブン対策税制の適用を回避できる。こうしてアップルはどこの国にも納税せずに済む仕組みである。アップルやスターバックスなどの多国籍企業はオランダを利用する。オランダは外国資本を優遇する様々税制上の仕組みがある。金はオランダの上を流れるだけであるが、アムステルダムの金融センターとしての地位を保つことができる。小さな国の生き残りをかけた智恵かもしれない。複雑で巧妙な租税回避をしているグローバル企業は、スターバックスやアップル以外にも、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどがある。2013年どの、米国外で収入を得て、本国に送金していない企業の主だった会社は、アップル、GE、マイクロソフト、ファイザー、メルク、IBM、J&J、シスコシステム、エクソンモービル、シティグループ、P&G、グーグル、HP,ペプシコなどである。究極のタックスイーターである。世界の貿易額はふえつづけているが、その2/3はこれら多国籍企業の内部取引ではないかという推測がなされている。金融機関の場合は支店の網を張り巡らせるので、金融安定理事会FSBは「グローバルにシステム上重要な銀行」をリストしている。これに指定されると自己資本率規制が重くなる。本国に送金していない多国籍企業はいわば無国籍企業であり、その特徴はメーカーとしての商品ではなく「無形資産」を事業の中核においている。問題はその利益の出し方にあり、これら無形財産(ビジネスモデル)をタックスヘイブンにからめることで租税を回避しているからである。企業の中枢は弁護士や会計士が占め、節税プランという財テクに精力を費やしている。近年タックスヘイブンの調査と規制について検討が進んでいる。無国籍企業をターゲットにし、国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJはタックスヘイブンにある秘密口座のデータを公開した。2013年OECDの下部機関FTAもICIJのデータを入手した。日本では「国外財産調書制度」がスタートし、海外に5000万円以上の資産がある人は確定申告を義務付けられる。OECD租税委員会では「税源浸食及び利益移転BEPS」というプロジェクトに着手した。BEPSはG20/OECDプロジェクトに昇格し、15のアクションプランを21014年末までに実施するという。これは米国大統領選で共和党が勝利するとこれらのプランを潰しにかかるだろうという配慮からである。国際決済銀行BISの2013年調査では、外為市場の一日の取引は約500兆円で、実需に基づくのは10%以下であろうとされる。デリバティブの想定元金残高は約70000兆円(実物セクターは年7000兆円)である。いかに金融セクターが肥大化していることが分かる。その中心がタックスヘイブンなのである。経済学が捉える統計データにはタックスヘイブンに蓄積される過剰流動性マネーの動きは取り込まれていない。ましてその投機性の危うさ(バブル、金融危機)は予測外に置かれているので「3年に1回はバブルが引き起こされる」という。このアングラ経済が突然表の経済に襲い掛かるのである。BEPSと金融安定理事会FSBは、リーマンショックのような過剰流動性によるマネーゲームの危険性を指摘し、健全性規制の作業を開始した。その対処すべきメカニズムは次の8つからなる。①金融セクタ―の肥大化、②金融セクターと実物セクターの乖離、③金融セクターのマネーゲームの実態、④それによりバブルの生成と破裂、⑤バブルの実物セクターへの影響、⑥メガ金融機関の救済、⑦救済する金融政策による過剰流動性の再発、⑧過剰流動性による次のバブルの生成である。かくして「バブルは3年に1回起きる」のである。

(つづく)
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読書ノート 志賀櫻著 「タックス・イーター-消えてゆく税金」(岩波新書 2014年12月)

2016年02月25日 | 書評
税金を食い尽くす政・官・業の鉄のトライアングル 第6回

3) 行政改革ータックスイーターとの戦い

国民の税金の無駄遣いを防止する。これが行政改革である。行政改革はタックスイーター退治の主役であった。歴代内閣のすべてが行政改革に取り組んだが、行革の歴史は失敗の歴史である。行革が本格的に始まったのは1981年の「第2次臨調」(「土光臨調」)からで、当時の鈴木善幸首相は「増税なき財政再建」を掲げた。もっぱら経費節減の方向で進められ、予算増分をゼロにする「ゼロシーリング」から「マイナスシーリング」で締め付けた。次の中曽根行革では日本専売公社、国鉄、電電公社の三公社の民営化がなされた。この行革では28兆円の赤字を一般会計に付け替えただけのことで、それはいまでも新幹線の建設が国費でおこなわれていることに現れている。自立した民間のJRとはとても言えない。1985年ドルの水準を引き下げて、米国の経常収支の赤字を解消しようとする「プラザ合意」が日米間で極秘裏に成立した。その結果予想以上に円高が進んだので、お決まりの財政金融政策の発動となった。公定歩合は3.5%という最低水準となった。そしてこの頃から6兆円規模の「真水」で公共工事が行われるようになった。1986年公定歩合の第4次引き下げで3%となった。宮澤喜一蔵相と澄田日銀総裁はマネーサプライの大増発となり、バブルが発生した。円高恐怖症が財政金融の発動となり、マネーサプライの急増によってバブル発生という市場の失敗に終わった。プラザ合意後も日本の輸出競争力が強く米国の貿易収支赤字は改善されなかった。そこで1989年「日米構造協議」において、日本の貯蓄過剰を内需拡大に結び付けるように要求した。10年間で430兆円に上る巨額の公共投資を日本は約束した。それに1500兆円の個人金融資産を持つ日本のマーケットを狙った、アメリカを中心とする金融自由化をもとめる「外圧」が拍車をかけた。日本の金融自由化は1993年頃には終了した。しかしそのころバブル崩壊による不良債権問題に直面した。1996年に始まる橋本龍三郎内閣は、「行革」、「金融システム改革」、「経済構造改革」、「社会保障改革」、「教育改革」の六大改革を提唱した。規制に利益を見出す企業や、規制で権限を強化する各省など既得権を有する側の抵抗はすさまじかった。橋本内閣は「経済審議会」で六大改革の規制緩和を公開で審議した。官僚にとって公開は、ごまかしのきかないお白洲となった。省庁再編も「一府十二省庁」となった。大蔵省の腐敗を暴いたスキャンダルにより、金融庁が切り離されて財務省と替わった。日本の金融自由化は規制改革と同時期に進行した。「護送船団方式」という規制に守られた金融制度の仕組みが、生長する日本経済にとって桎梏となっていた。1996年橋本内閣は「日本版金融ビックバン」を実施した。こうした金融規制の緩和に取り組む中で1998年日本初の金融危機が発生した。政府系メガバンクと山一證券・三洋証券が倒産または国有化された。金融監督庁は柳澤・野中・4小渕のコンビで、金融機関の国有化をはじめとする金融システムの再建という荒治療を行い、金融機関の破たん処理、一律3000億円の横並び公的資金の導入となる第1次、第2次の公的心金御導入によってようやく沈静化した。その後日本のメガバンクの整理統合がおこなわれ、外国と競争しても潰れない規模とする3つないし6つに集約された。ところで行政改革は果たして成功したのだろうか。どうもはっきりしない。行政改革と金は非常に密接に結び付いている。道路特定財源と日本道路公団ファミリーの関係である。もう一つは年金福祉事業団と厚生年金・共済年金の潤沢な資金を切り離すことができないのである。2001年小泉内閣の制度改革が始まった。財投改革は制度の中に巣くっていた官僚機構というタックスイーターを追い出す重要な戦いとなった。2005年日本道路公団は3つの地域会社に分割された。2001年に年金福祉事業団は解散させられ、2006年より年金積立金管理運用独法となった。2008年には3つの公庫は統合され日本政策金融公庫となった。財政投融資は、資金の入り口である郵便貯金・年金基金・簡易保険の2本柱であり、出口が特別会計・公庫・公団などの特殊法人や地方自治体であった。2001年「特殊法人等改革基本法」が成立して、資金の入り口を金融市場を介することになった。この小泉改革によって相当規模の規制緩和と公共部門の縮小が進んだ。その最後の仕上げが郵政民営化であった。小泉政権の総括としては、内山融著「小泉政権」(中公新書 2007年)に詳しい。小泉政権が行った行革とは、①財政改革と公共事業費の削減、②不良債権処理と金融再生、③社会保障制度改革: 年金制度と医療制度改革、④特殊法人改革: 石油公団の廃止と特殊法人の民営化、道路公団の民営化郵政事業の民営化、⑤地方財政制度改革: 補助金の削減、地方への税源移動、地方交付税改革という三位一体改革、⑥規制緩和:構造特区制度、市場化テストなどである。日本政府の行革は、橋本龍三郎と小泉信一郎の二人が果たした業績に支えられているといえる。

(つづく)
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