ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 近藤誠 著作集

2013年11月30日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か  第18回
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4) 近藤誠著「がん放置療法のすすめ」(文春新書 2012年4月)(2)
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1) 前立腺がん
 中高年の男性に「前立腺特異抗原(PSA)」を測定すると、高値の出る人がいて、精密検査を行うとがん組織がかなりの頻度で発見されるという。これが「PSA発見前立腺がん」です。PSA検診体制は医療機関の経営や医者の経済的利益のヒット商品なのです。つまり金を持った団塊世代の男性を誘い込むために作られた「偽がん」なのです。その理由を解き明かすのが本章の目的です。近藤医師のところに来た患者の放置例のケーススタディをしましょう。
[ケース1]: 2004年 53歳 PSA値4.3→12.4→7 7年間経過観察
 職場健診でPSA値が4.3で微妙に高いといわれ、泌尿器科で針生検を受けるとがんだといわれた。直腸診(前立腺にしこりがあるかどうか肛門から指を入れて調べる)ではっきりしなかった。核磁気画像診断MRIではがん病巣は発見できなかった。医者はステージ2aとして手術を勧めた。患者は慌ててセコンドオピニオンをもとめて慶応大学の近藤医師を訪れたという。近藤医師はこの段階はステージ1cとみて放置観察を勧めた。本物のがん化良性のもどきかは細胞の形では判断できない。「PSA発見前立腺がん」の9割以上は「もどき」だという。前立腺がんの最も進んだ段階とは臓器転移(主に骨転移)がある場合でこれは本物のがんです。第2の段階は臓器転移はないがMRIで前立腺に腫瘤が認めらる場合、これをステージ2aという。第3の軽い段階は生検でしか発見できないがんで95%は「もどき」である。これをステージ1aという。本ケースはこれにあたる。何年観察してもPSA値が低値(本ケースでは10以下)では99.9%以上「もどき」である。「心配ない、がんを忘れなさい」と近藤医師はアドバイスした。
[ケース2]: 1999年 61歳 PSA値8.5→70  12年間経過観察 
 市の健診でPSA値8.5で針生検をうけたががんはなかった。翌年PSA値10となり、グリーソンスコア‐が9(慶応大学での見積もりはスコア‐7であり中程度の悪性度と判断された)といわれ手術を勧められた。まずホルモン療法をやるとPSA値は2.2に下がったが、気分がよくないのでやめて、近藤医師のもとに来た。それ以来12年間放置したが(現在73歳)、自覚症状もなく普通に生活している。PSA値は毎年測定しているが直線的に上昇しており現在は70くらいである。病理検査には誤診が多いので、臓器切除手術といわれたら別の病院で再検査を行う慎重さが必要ですという。「監視療法」は、PSA値が20以下で針生検でしかわからないものをステージ1cとし、グリーソンスコア‐が6以下を基準とする。PSA値が20(医師によっては30)以上になると治療を始める。これに対して近藤医師の「放置療法」はグリーソンスコア‐が最高値の10でも対象とし、PSA値は参考としない(100でも200でも)。したがって本ケースは監視療法ではとっくに治療されています。PSA値で治療開始を判断する明確な根拠はありません。放置療法で経過観察を打ち切る基準は、がんに由来する症状の出現です。初診時に転移のない人は初発巣の増大もありません。骨転移がある場合治療開始を迫られます
[ケース3]: 2001年 60歳 PSA値10→160 10年間経過観察
 職場健診でPSA値10で異常といわれ、針生検でがんと診断された。泌尿器科ですぐ手術といわれたという。慶応大学の近藤医師を訪れ、当分は様子見という話になった。その後PSA値は3年で倍化し今では160くらいである。一番高い値のケースである。多少上下しながらPSA値が上昇するのは「もどき」の可能性が高い。本物のがんであれば直線的に上昇する。前立腺がんの症状が出てQOLが落ちてから治療を始める方針なら、「PSA発見前立腺がん」の90%以上は、一生治療を受けずに寿命を全う(ほかの病気で死ぬ)することができます。骨に転移がある本物の前立腺がんの治療法は、鎮痛剤、放射線治療、ホルモン療法から選ぶ。抗がん剤治療はやってはいけない。前立腺肥大による排尿困難程度は圧倒的多数は良性です。間違っても医者に行かないことです。直腸診やMRI精密検査でもはっきりしない場合は悪性度は低いのでほっておいても症状はありません。病巣が大きくなることによる尿道閉塞の局所症状には、手術か放射線療法となる。放射線でも手術でも生存期間は同じですので、放射線療法にほうが合併症が少なくてベターであるという。ホルモン療法で男性ホルモンを抑制すると、局所症状を緩和することができるが、LH-RHアナログ剤は高価で副作用が大きいので、近藤医師は勧められないという。それに対して睾丸除去術の効果は顕著で症状はすぐに緩和されPSA値も落ちます。前立腺がんは50歳以上の男性の約半数に発見できる「潜在がん」、「ラテントがん」といわれ、前立腺がんで死ぬ男性は1%に過ぎない。2011年10月米国の予防医学作業部会は、PSA検査が死亡率を下げたという証拠は見いだせないとして「PSA検査は勧められない」という勧告案をまとめた。日本では反省もなく、医療ムラの検査推進体制は健在です。原発推進ムラと同じ構造です。

(つづく)
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読書ノート 近藤誠 著作集

2013年11月29日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か 第17回

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4) 近藤誠著「がん放置療法のすすめ」(文春新書 2012年4月)(1)
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 本書のあとがきによると、近藤誠氏は2004年以来筆を折っていたらしい。がん患者のその後を見極めてから2012年4月本書を刊行したそうである。1996年発行の近藤誠著「患者よ がんと闘うな」が真実であることを確信したという。そして2014年に著者が慶応大学を定年退職する予定で、大学病院を去るにあたってそれまでの診療記録をまとめておく必要を感じたという。定年後診療活動をしないつもりなので、患者のめんどうをみられないので、患者の自立を願って本書をまとめたという。がんの恐怖や不安という感情に対抗できるのは、知性や理性以外にないからです。西欧人なら宗教があるのですが、日本では下手なことを言うと新興宗教と間違われるので宗教についてはノーコメントにしたという。患者一人ひとりが選び取った治療法(乳房温存療法)が外科世界を打ち破った経験は大きい。著者は「乳房温存療法」と「がん放置療法」が普及するかどうかを比べています。筆者が慶応大学病院にいた時の150人以上の患者さんの放置療法の実績を紹介するのが本書の目的です。がんは積極的に治療することが常に正しいとは限らないのです。抗がん剤による患者の苦しみが筆舌に尽くしがたいという疑問が筆者の出発点になりました。がん治療法の基本である手術、化学療法、放射線療法の論文を読み直して、最も患者さんの苦しみの少ない無理のない最善の治療法を考えぬいた結果が本書の「がん放置療法」です。医者不要論ではありませんが、がんで食っている医者の数は減らさないと無意味な治療が続けられています。医者ムラがいつの間にか巨大なモンスターになって、患者の苦しみに目が届かなくなっている。原子力ムラと同じ構図が再現されています。人間の視線を失ったブルドーザーに化しているのです。

 「がんをほっておいたら、どんどん増大し進行して死に至る。早期がんもほっておくと進行がんから転移して死に至る」という社会通念ははたして妥当なのでしょうか。これまでがんは発見され次第治療されてきましたが、がんに関する知識が普及するにつれて、「がんの治療を受けたくない」という人も増えてきています。著者が大学病院で診察の結果治療を受ける必要がないと思われる患者の経過を診て、がんによる痛みなどの症状が出て、生活の質の低下がみられる場合には治療してきた様々なケーススタディから著者は本書を刊行する気になったようです。そして近藤誠著「がん治療総決算」で述べられているように、「がん発見時において転移がないもどきがんは放置しておいて転移は見られない」という確信を得たという。前立腺がんの一部では泌尿器科でも「監視療法」という方法が標準療法になりつつある。近藤氏の診療方針は「がんが発見された時点では、早期がんでも転移がんでも治療を開始しない。症状が出てきて治療開始を検討する」というものである。本書が対象とするがんはいわゆる「固形がん」である。白血病など血液リンパ系のがんは抗がん剤で効果があるので対象外であり、また固形がんでも小児がん、子宮絨毛がん、睾丸腫瘍も抗がん剤治療が効果があるので対象外です。固形がんでは初発の肝臓がんは無症状で命に危険が生じるので対象外です。本書の主張は抗がん剤や分子標的薬が固形がんに効かないことを前提にしています。

 がんイコール死というイメージで語られると、認知イコール廃人というような恐怖心に襲われます。ガンも認知症も人間の細胞の老化現象で遅い早いの個人差があるだけだと認識すれば冷静になれます。がん告知によって奪われた心の余裕を取り戻すことが必要です。そしてセカンドオピニオンを求めて、よりましな療法を考えるべきです。ガンが老化現象であるからして進行は比較的緩やかなのです。ただ本物のがんはいずれは死を招きます。しかし自然の摂理にしたがって粛々と人生を完結する準備をしましょう。緩和の医学は確立しています。手術や抗がん剤でがんと闘う場合の不利益を考えましょう。本物のがんは無症状でもほぼすべてに転移があるため、治療しても苦しむだけです。無神経な医者に人格と生活を蹂躙されることは避けましょう。「がんと闘う」という言葉から脱却すべきです。「がんを放置する」は患者だけで実行できる合理的な療法かもしれません。(だが医者はそれを許しません。自分たちの商売が成り立たないからです。) そこでがん患者150人のケーススタディからがん放置療法をみてゆこう。

(つづく)
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2013年11月28日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か 第16回

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3) 近藤誠著「がん治療総決算」(文春文庫 2007年9月)(5)
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第3部  がん患者の心得と治療法の選択

 医者からがんを宣告されたら、まずできるだけ早くパニック状態から冷静さを取り戻すことです。最初から「余命」を言う医者がいたら、それは虚偽か酷いことをいうと考えましょう。そしてがんの成長速度が遅いことを思い浮かべましょう。がんはすでに数年から10年前に誕生したことを考えれば冷静になれます。入院してから医者の言うことを聞いてはいけません。入院する間に医者の説明を詳しく聞きましょう。入院してからだと医者の思い通りに手術へもっていかれます。抵抗することが難しくなります。合併症や予後の話を聞いたら、セカンドオピニオンを求めましょう。できたらセカンドオピニオン先はその医者の出身校の病院は避けましょう。同じことを言う可能性が高いからです。彼らは人的に情報としてつながっています。電話で連絡をされればダメ押しをされるようなものです。患者の囲い込みをするからです。地方では難しいでしょうが東京ではほかの大学系列の病院を求めることは容易です。検査入院も避けましょう。がんに持ち込まれる場合が多いからです。医者の言うことはメモを取りましょう。これに対して外科医が手術を勧めないといい、腫瘍内科が抗がん剤療法を勧めないなら、その医者は信用できます。そして放射線科の意見も聞きましょう。「学会認定専門医」とか「名医リスト」や手術件数、手術成績とかはあまり信用しないことです。数値には嘘や落とし穴が多いからです。医者の選択の次は治療法の選択です。医者と治療法は分かちがた繋がっていますので、どちらが先ということはありません。つぎに手術が選択肢に入っている代表的ながんについて部位別の治療法を考えましょう。

①脳転移: 肺がんや大腸がんでは脳に転移する。転移病巣が一つだけの手術がよく行われてきました。しかし他への転移があったりして手術の効果は期待できません。これには放射線治療が適用可能で手術する意味がほとんどなくなりました。
②喉頭がん: 声門がんの発生率が高いのですが、進行段階第1期と第2期のには放射線が有効です。喉頭全摘手術では声を失います。3期と4期のがんに対して化学放射線併用療法と喉頭全摘手術の比較試験が行われました。化学放射線療法では喉頭を残すため、その部位での再発率は高くなりますが、生存期間という点ではどちらの方法も差はありません。
③下咽頭がん: 喉頭がんより転移率が高いため、治癒率は低い。2期から4期の患者を対象に、喉頭がんと同様に喉頭と咽喉全摘手術と化学放射線併用療法が比較されました。両者の生存率は同じだったので、化学放射線療法が一番に選べるべき療法となりました。
④舌がん: 舌がんの手術は広範囲に舌の半分を切除し、リンパ節郭清が行われます。舌の再建術を施しても、飲み込みや会話能力は低下し機能障害は著しい。舌がんには小線源療法で治療できます。生活の質確保から放射線療法は優れています。なお手術と放射線療法の比較試験はデーターがありません。
⑤食道がん: 初期の食道がんでは内視鏡的粘膜切除手術を行います。しかし食道全摘手術の死亡率や合併症の高さ、生活の質の低下は著しい。米国で化学放射線治療の有効性が実証されています。それでも化学放射線治療の副作用や合併症は5-10%は覚悟しなければなりません。それでも手術よりはベターな選択です。
⑥非小細胞肺がん: できれば手術して切除するのが日本のやり方ですが、欧米では進行期のがんについては手術をしません。他の臓器への転移の確率が高く手術の意義がないからです。直径3㎝以下のがんでしたら定位放射線療法が可能です。進行期のがんは手術よりも放射線療法が妥当です。
⑦肺転移: 肺転移はほかの臓器転移がないなら、胸腔鏡下手術が可能ですが、圧倒的多数の患者は肺転移の再発があります。1個取っても肺転移はとりきれません。手術は意味がありません。肺を切り刻まれるだけです。そこで定位放射線治療が選択肢になります。
⑧胃がん: 胃がんに対しては、初期がんには内視鏡的粘膜切除術、胃の2/3切除や全摘が行われます。胃がんに対しては放射線の効果は期待できないため、手術以外に方法はありません。あるとすれば無治療放置だけです。手術不能だった胃がんの99%は転移しています。放射線で病変を縮小させてから切除手術を医師が提案したら断りましょう。
⑨肝がん: 肝がんは手術できる場合は手術されてきましたが、肝硬変を伴うものは再発してきます。そこでラジオ波焼灼法や放射線療法も行われるようになりました。
⑩肝転移: 胃がんや乳がんからの肝転移はほとんどが多発病巣です。ただ大腸がんからの転移は単発転移があります。手術で切除すれば30%程度は治っています。
⑪膀胱がん: 膀胱全摘手術が行われてきました。しかし生活の質低下は著しいので、欧州では化学放射線療法がおこなわれています。米国の大学病院で進行期の膀胱がんに対して、化学放射線療法が有効な結果でこれで十分だといっています。膀胱全摘手術一辺倒が否定されたことになります。
⑫前立腺がん:  前立腺全摘手術が行われてきましたが、生活の質低下は著しく、かつ患者の30-40 %は再発しています。放射線療法が試験されていますがまだ実験段階です。もう一つの選択は無治療・様子見です。
⑬子宮頸がん: 日本では1期と2期のがんには子宮全摘手術と骨盤放射線照射、3期と4期のがんには放射線治療とされてきました。術後の生活の質低下ははなはだしい。子宮広汎全摘手術と放射線療法の比較試験では両群の生存期間は同じでした。したがって1-4期まですべて放射線で治療すべきだと筆者は言います。

 がん治療は極めて危険な行為であるため医療事故も多発しています。医者が「早く手術をしなければ死ぬ」とか「いうことを聞かなければ出て行け」と脅迫してきます。ガンから身を守る前に、医者から身を守ることを考えなければなりません。いま静かに「がんとの共生」という概念が社会的な広がりを見せています。治療を放棄することではなく、治る可能性が高いなら治療を受けるのが妥当です。しかし高齢者や手術で体力をなくした患者にさらに追い打ちのような過酷な治療を施す医者は避けなければなりません。彼らの生活や名誉や権威のために、自分の命を犠牲にされるのは御免こうむりたいものです。ガンとの共生概念は人生の最後において悲惨な目に逢うことがないように、無茶な治療に突っ走らないように患者や家族が冷静さを取り戻すためのブレーキ装置です。成人のがんのほとんどは加齢とともに発生頻度が高まります。がんの原因は老化です。ガンで老衰死することが理想的な死に方かもしれません。「ピンコロ」は空想です。衰弱で死を悟るのが自然です。ガンであることがわかっても、そっとしておいてできることならがんで死ぬという方針もありうるのです。「がんと闘う」ということは自然に反します。それは医療ムラの利益の源泉であっても、人間らしい死に方ではありません。高齢になったらがん検診や人間ドックは避けましょう。「検診・人間ドックは寿命を延ばす」というデータはありません。検診は大量の半病人を生産するという社会現象(心理)や経済的行為(病院のドル箱)いや人災です。免疫療法にすがる姿は新興宗教です。「人は死すべき存在」ならいつかの段階で死を運命として受け入れることが必要です。無治療・様子見も立派な選択肢です。

(つづく)
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読書ノート 近藤誠 著作集

2013年11月27日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か 第15回
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3) 近藤誠著「がん治療総決算」(文春文庫 2007年9月) (4)
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第2部  がんの治療法 (2)
3) 放射線治療
日本の放射線治療は、進行期のがんや転移がんが主たる対象であった。外科医が取れるがんはとってしまい、あとh放射線に任せるという手術が主で放射線は従という関係でした。近年放射線治療は初期がんにも使われるようになりましたが、放射線医師及び放射線物理士が不足しています。経験不足から過照射といった事故も発生していますが、臓器を残すというメリットは大きいと認識されるようになりました。昔はコバルトγ線照射装置が用いられましたが、現在は「直線加速器リニアック」(X線)が使われています。体の外からあてるので1回の線量は2グレイ、総線量は50-60グレイが限度です。高エネルギーの電磁波をあてると、正常細胞もがん細胞も傷つきますが、修復能力は正常細胞のほうが高いので生き残ることが放射線治療の原理です。抗がん剤治療は血液の運搬によりますので副作用は全身に及びますが、放射線治療は照射した焦点にしか生じないのが特徴です。放射線治療で一番の注意点は照射総線量の限度を守ることです。放射線治療の副作用にはあてる部位によって、脳梗塞、脱毛、口内乾燥感、肺炎など肺障害、白内症、骨壊死、潰瘍や穿孔、臓器の炎症などです。これらの50グレイ照射の副作用率(5年以内)は5%です。50グレイを越すと高い頻度で副作用が起きます。総線量管理が重要になります。抗がん剤と放射線治療は併用すると副作用が大きくなります。放射線も抗がん剤と同じく発癌物質です。小児白血病の化学療法だけの発がん率は1%ですが、放射線を併用すると発がん率は13%でした。放射線治療の対象となる初発がん治療では、術後照射がよく行われます。臓器転移防止と生存率向上が目的ですが、多くは期待でないのが実情です。化学放射線療法では、放射線治療の効果を高めるため抗がん剤が同時に使われます。頭頸がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がんで化学放射線療法がおこなわれています。最新の放射線照射装置や療法については、三橋紀夫著 「ガンをどう考えるかー放射線治療医からの提言」(新潮新書 2009年)にくわしい。

4) 種々の治療法
手術・化学治療・放射線治療以外のがん治療の概略を以下に箇条書きでみてゆこう。
①内視鏡的粘膜切除術: 食道・胃・大腸のポリープや初期がんを切除する方法で負担の少ない方法として注目されています。臓器をそっくり残せる利点がありますが、出血・穿孔などの危険性があります。胃壁の手術では2%ほどに穿孔があく事故があります。熟練した医師を見極めることが重要です。
②ラジオ波焼灼療法: 患部に刺した電極の先から発信させる熱凝固法で肝臓がんでよく使用されます。開腹手術をしないという利点がありますが、アルコール変性法より合併症の危険性が高い欠点があります。肺がんにも用いられています。超音波やCTで病変部を見ながら針を刺し通電します。実験段階のようです。
③凍結療法: 液体窒素、アルゴンガスなどを用いて、患部を凍結死滅させます。皮膚がんの治療で実績があります。前立腺がん、膀胱がん、肺がんに応用が試みられています。 ④超音波療法: 超音波を1点に集中させがん患部の熱凝固を行う方法で前手法に似ています。体の深部にある前立腺がん、乳がん、腎がんなどに試されています。
⑤血管内治療: カテーテルを送り込んでがん細胞に至る血管に栓をして、栄養などを遮断しがん細胞を死滅させる方法です。これを「動脈塞栓術」といい、さらに抗がん剤を動脈内にいれる方法は「動脈注入化学療法」といわれます。がん病巣部の縮小効果はありますが、完治は難しく延命効果も不明です。
⑥ホルモン療法: 乳がんと前立腺がんに対する療法です。乳がんでは一番端的な卵巣摘出で女性ホルモンの分泌を阻止します。卵巣への放射線照射も同じことです。前立腺がんのホルモン療法とは睾丸摘出です。反対のホルモンを投与する方法h副作用が大きく、がん発生率が高くなるという危険性があります。
⑦分子標的薬: 普通の抗がん剤が無差別攻撃だとすれば、がん細胞にだけ攻撃する分子標的薬の開発が試みられています。慢性骨髄性白血病に対してイマチニア(商品名グリベック)は夢の薬といわれ大成功しました。標的とするタンパク質が特異性が高いために劇的な効果を生みました。乳がんに対するハーセプチン、肺がんに対するイレッサは副作用や毒性が強く効果はそれほどでもありません。死亡者が続出して社会問題になりました。
⑧ステント療法: 食道や胆道にステントという広げる器具を入れます。がん症状を緩和する対症療法ですが患者はずいぶん楽になります。いわば緩和療法です。
⑨疼痛緩和法: がん細胞増殖による神経圧迫の痛みを取る療法です。アセトアミノフェンのような非麻薬系鎮痛剤、モルヒネのような麻薬系鎮痛剤、神経ブロックや放射線治療も疼痛緩和法です。
⑩在宅医療: 入院日数の制限のため、手術が終わればすぐに病院を追い出されます。訪問看護ステーションも整備され、終末期を在宅で迎えることが今後の主流となることでしょう。
⑪緩和ケア病棟: 治療はせず痛みだけを緩和するいわゆるホスピスです。在宅医療とホスピスのどちらが終末を迎える場所としてふさわしいかの選択となります。
⑫免疫療法: リンパ球の活性化と称する免疫療法は、丸山ワクチンをはじめ多くの療法がありますが、そもそも人間の免疫系をパスしてきたがん細胞を攻撃できる系を作れるとも思えません。治療できたという実証があるわけでもないので、高価な治療費を取る割に効果は不明です。人間の弱みにつけこんだ詐欺行為といってもいいでしょう。
⑬食事療法: 環境因子としてがん予防はよく言われます。タバコや塩分などは控えるべきです。ただがんを食事で治療できるとは思えません。

(つづく)


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読書ノート 近藤誠 著作集

2013年11月26日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か 第14回

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3) 近藤誠著「がん治療総決算」(文春文庫 2007年9月)(3)
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第2部  がんの治療法(1)
1) 手術
 手術には「合併症」や「後遺症」がつきものです。その最たるものは死亡です。術後30日以内の死亡は「術死」または「直死」と呼んでいます。全国の病院のアンケート調査によると、術死率食道がん2,2%、胃がん0.5%-1.7% 、結腸癌1.3%、肝臓がん1.5%、食道がん3.4%、すい臓がん5.8%、肺がん10.7% などで、米国では術死率はさらに高い。国立がんセンター病院での胃がん切除手術の年齢別死亡率は、50-69歳では0.8%であるが。50-69歳では0.8%となっている。これが術後3か月までに死亡率にすると、50-69歳では2.5%、80歳以上では8%となる。食道がんの手術は胸と腹を開けるため体力が必要で1年以内の死亡率は30-50% である。がん手術による合併症、後遺症の発生率は国立がんセンターの報告によると、50-69歳では30%、80歳以上では35%である。また腹腔内感染症の発生率は50-69歳では11%、50-69歳では7.1%である。メチシリチン耐性黄色ブドウ球菌MRSAの感染は日本と韓国がダントツに分離率が高い。病院の70-80%にMRSAが検出されている。合併症や後遺症が出るのは臓器切除手術だけではなく、臓器周辺のリンパ節切除によって、感染症から敗血症、リンパ浮腫、部位によって神経を切ることによって排尿障害や性機能障害、下痢などが現れる。切除部位による合併症や後遺症をまとめると、喉頭全摘によって発声不能、誤飲などが起こる。肺手術によって呼吸困難、食道全摘によって肺機能低下、食物通過障害、胃切除によってダンピング現象といわれる腹痛。動悸、食事制限による激ヤセ、食物通過障害、大腸切除によって人工肛門となるため生活の質が大きく落ちる、性機能障害・排尿障害、肝臓部分切除によって肝機能低下、膀胱全摘によって人工膀胱による生活の質低下、子宮全摘によって更年期障害、排尿排便障害、前立腺全摘によって尿漏れ、性機能障害、乳房全摘によってリンパ浮腫、身体不全、すい臓全摘によって術死率40%、糖尿病が起きます。がんを原因とする症状が出た場合がん部位を取ることで身体的精神的負担が軽減されることがあり意味のある手術と言えます。日本のお家芸といわれるリンパ郭清は転移の予防のためといわれますが、胃がんについて胃の切除手術後のリンパ郭清の有無によって、臓器転移の予防には関係ないことが証明されました。また内視鏡下手術は経験の浅い医師によると、出血や誤切除などの事故が増えます。

2) 抗がん剤治療
 抗がん剤治療(化学療法)を受けるかどうかは、①薬の副作用、②効果の程度、③年齢を考慮して選択しなければならない。そこで①の抗がん剤の副作用、毒性について考察しよう。吐き気や脱毛・口内炎・下痢・鬱状態・胃潰瘍など回復可能なものを「副作用」と呼び、白血球減少・心不全・腎不全・臭覚喪失・神経麻痺・聴力低下・肺障害など回復不能か困難なものを「毒性」と呼ぼう。毒性は正常細胞が抗がん剤で破壊されることから起きます。抗がん剤による毒性死の確率は、臨床試験によると小児急性リンパ性白血病で3%、非ホジキンリンパ腫で1%、非小細胞肺がんで1.6%、卵巣がんで2-3%、乳がんで0.4%ですが、体力・高年齢によってはさらに死亡率は高くなります。「高用量化学療法」では造血細胞が破壊されますのであらかじめ保存しておいた本人の造血幹細胞を入れます。抗がん剤は毒性の強い特殊な薬です。アドリアマイシン累積投与量と心不全発生率は比例します。またBCNU累積投与量と肺毒性発生率は直線的な関係にあり100%発生するといえます。副作用を防止するためにステロイドが多用されます。副作用を抑える薬は毒性を抑えるものではありません。体調が改善されたといえ抗がん剤の毒性が蓄積されてゆくことは阻止できません。②の効果をみると、化学療法で治るがんがあります。急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、ホジキンリンパ腫、睾丸腫瘍、子宮繊毛がん、小児がんです。小児の急性リンパ性白血病は5年生存率は80%以上です。成人の白血病はまだ成績はよくありません。反対に言えばほかの代表的な固形がんに抗がん剤は効かないし、延命効果もありません。体を痛めつけるだけです。抗がん剤治療は普通「多剤併用療法」が使われます。たとえば非ホジキンリンパ腫には4剤からなるCHOP療法があり、「高用量化学療法」との比較試験が行われましたが、結果はまちまちで治療による死亡率が問題になります。化学療法の奏効率で効果を4段階で評価します。がん細胞が消えたとされる「完全反応」でも臨床上のことで、完全にがん細胞がなくなったわけではなく再増殖してくる場合がある。がんが縮小したという段階でも、がん細胞数は膨大に残存しており、転移防止とか延命効果があることにはなりません。比較的化学療法が効果があるとされる唯一のがんである乳がんでも、生存率という点からみると放置グループと抗がん剤投与グループに違いはないのです。がんが縮小したとしても生存率は変わりません。抗がん剤のがん抑制効果を抗がん剤の毒性が打ち消しているという皮肉な見方も成り立ちます。化学療法に効果が少ない固形がんには、脳しゅよう、頭頸部がん、甲状腺がん、食道がん、大腸がん、胃がん、肝がん、胆道がん、膵がん、腎がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がんなどがあります。固形がんに抗がん剤が効きにくい理由の一つには、血液から抗がん剤が運ばれるのですががん細胞の小血管がすくないことです。むしろ正常細胞が抗がん剤にさらされ、増殖速度の早い正常細胞への毒性・副作用が甚大になるという本質的な問題が残ります。
(つづく)
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