民喜と貞恵
繊細な精神は過酷な運命を生きた 死と愛と孤独の文学 第16回
Ⅱ.原民喜著 小説集「夏の花」岩波文庫(1988年6月)(その9)
Ⅲ.詩「燃エガラ」
夢ノナカデ 頭ヲナグリツケラレタノデハナク メノマエニオチテキタ クラヤミノナカヲ モガキモガキ ミンナモガキナガラ サケンデソトヘイデユク シュポトオトガシテ ザザザザトヒックリカエリ ヒックリカエッタ家ノチカク ケムリガ紅クイロズイテ 川岸ニニゲテキタ人間の アタマノウエニアメガフリ 火ハ向岸ニ燃エサカル ナニカイッタリ ナニカサケンダリ ソノクセヒッソリトシテ 川ノミズハ満潮 カイモクワケノワカラナヌ 顔ツキデ男と女ガ フラフラト水ヲナガメテイル ムクレアガッタ顔ニ 胸ノホウマデ焦ゲタダレタ娘ニ 赤と黄色ノオモイキリ派手ナ ボロキレヲスッポリカブセ ヨチヨチアルカセテユクト ソノ手首ハブラント揺レ 漫画ノ国ノ化ケモノノ ウラメシアノ格好ダガ ハテシモナイハテシモナイ 苦患ノミチガヒカリカガヤク
Ⅳ.エッセイ 「戦争について」「平和への意思」
「戦争について」: コレガ人間ナノデス 原子爆弾ニヨル変化ヲゴランクダサイ 肉体が恐ロシク膨張シ 男モ女モスベテヒトツノ型ニカエル オオ ソノ真黒焦ゲノメチャクチャノ爛れた顔ノムクンダ唇カラ漏レテクル声ハ「助ケテ下サイ」 トカ細イ 静カナ言葉 コレガ 人間ナノデス 人間ノ顔ナンデス
原子爆弾による地球大破滅の縮図をこの目で確かに見てきた。人間は戦争と戦争の谷間に惨めな生を営むのみであろうか。
「平和への意思」: 戦災死を免れた我々にとって「平和への意思」は繰り返い繰り返しなさなければならない。1945年8月6日広島の惨劇を体験してきた私にとって8月6日という日が巡り来ることは新たな戦慄とともに烈しい疼きを呼ぶ。三度目の夏(1947年)に何がお前に生き延びさせようと命じたのか、答えよ、答えよ、その意味を語れ。原子力兵器が今後地球で使用されるなら恐らく人類は滅亡するだろう。一人の人間が戦争を欲したり肯定する心の根底には、何百万人が死のうと自分だけは助かる(逃げられる)という気分が支配している。平和の擁護、平和への協力は耐えざる緊張と忍耐が必要である。この地獄と抵抗して生きるには無限の愛と忍耐が必要である。
(つづく)