三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』

2016年04月28日 | 厳罰化

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』に書かれていることは、私のささやかな見聞と照らし合わせてうなずくことばかり。
岡本茂樹氏は刑務所の職員らに対しては指導・助言をするスーパーバイザーとして、受刑者(大半は殺人犯)には篤志面接委員として関わり、個人面接や授業をし、受刑者の更生を支援しているそうです。

岡本茂樹氏は大学で学生相談をしていた中で気づいたことがあった。

問題を抱えた人は、幼少期の頃から親に自分の言い分を聞いてもらえず、言いたいことを言おうものなら、すぐさま親から「甘えるな」「口答えするな」と反省させられ、否定的な感情を心のなかに深く抑圧していることです。したがって、否定的感情を外に出すことが、心の病を持った人の「回復する出発点」と考えるようになりました。


問題行動が起きたとき、厳しく反省させればさせるほど、その人は後々大きな問題を起こす可能性が高まる。
受刑者も何度も反省させられた過去があり、さまざまな感情を抑圧していた。
反省させようとする方法が受刑者をさらに悪くさせ、反省させない方法が本当の反省をもたらす。

岡本茂樹氏自身が交通事故を起こした時の経験を書いていますが、私も事故を起こした時に同じことを考えました。
反省よりもまず後悔、言い訳を考え、責任転嫁をし、自分のほうが被害者だと思う。
以前、待ち合わせの時間に遅刻した時、どうして遅れたかを説明しようとしたら、「すぐに言い訳を言う」と言われたことがあります。
相手にしたら、まずは謝罪と反省をしろということなんでしょうけど、私としては遅刻の理由を説明しようとしただけなのにと、不満に思いました。

被害者よりも自分のことを優先するのは人間の心理として自然であり、事件の発覚直後に反省することは人間の心理として不自然。
鑑別所や拘置所に入所している少年や大人の大半は、被害者のことよりも自分自身のことに必死で、「早く出たい」「刑が軽くなってほしい」と考える。
重大事件の場合には、死刑なのか、無期懲役か、有期刑か、自分の人生が決まる。
罰はできるだけ受けたくないし、受けるとしても罰はできるだけ軽いものであってほしいと考えるのは人間の本能。

少年院に入ると、反省文を何度も書かされる。
しかし、読み手が評価する文章を心得るようになるだけで、問題行動が起きた直後の「反省文」はまったく意味がない。

ところが今の日本の裁判では、「反省していること」が量刑に影響を与えるので、大半の被告人は裁判でウソをつく
裁判という、まだ何の矯正教育も施されていない段階では、ほとんどの被告人は反省できるものではないし、裁判に対して量刑に不満がある受刑者も少なくない。
刑務所でまじめに務めていることは、自分の思いや感情を誰にも言わないで抑圧することになる。

刑罰が長ければ長いほど、罰は重たければ重たいほど、それだけ人を悪くしてしまうと言えます。


最初から受刑者に被害者のことを考えさせる方法は、心のなかにある否定的感情に蓋をしてさらに抑圧を強めることになる。
「被害者の視点を取り入れた教育」という受刑者に対する更生プログラムがある。
キャンベル共同計画(刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクト)によると、被害者の心情を理解させるプログラムは、再犯を防止するどころか、再犯を促進させる可能性があるという結果を報告している。
自分は悪いことをしたと悔やむことで自己イメージが低くなり、社会に出てから他者との関わりを避け、孤立し、やけくそになって再犯を起こす。

では、どうすればいいのでしょうか。
「被害者の視点」ではなく、「加害者の視点」から始めるほうが、本当の更生への道に至る近道になる。
「加害者の視点」から始めることで、「被害者の視点」にスムーズに移行できる。
問題を起こすに至るには、必ずその人なりの「理由」があるので、その理由にじっくり耳を傾けることによって、その人は次第に自分の内面の問題に気づくことになる。

被害者に残虐なことをしているにもかかわらず、受刑者は自分自身が殺めた被害者に対して、「あいつ(被害者)さえいなければ、自分はこんな所(刑務所)に来ることはなかった」というような否定的感情をもっている。
被害者に不満があるのであれば、まずはその不満を語らせ、そのなかで、なぜ殺害をしなければならなかったのか、自分自身にどういった内面の問題があるのかが少しずつ見えてくる。
心のなかにつまっていた否定的感情をすべて吐き出して、すっきりした気持ちになるのと同時に、被害者に対する謝罪の気持ちも深まっていく。

自分を大切にできないから、他者を大切にできない。
自分を大切にできないのは、自分自身が傷ついているから。
自分が傷ついていることに鈍感になっている場合もある。

自分の心の傷に気づいていない受刑者が被害者の心の痛みなど理解できるはずがない。
被害者の心の痛みを理解するためには、自分自身がいかに傷ついていたのかを理解することが不可欠。
それが実感を伴って分かったとき、受刑者の心に自分が殺めてしまった相手の心情が自然と湧きあがってくる。
そのときこそ初めて真の反省への道を歩み出せる。

真の反省は、自分の心のなかにつまっていた寂しさ、悲しみ、苦しみといった感情を吐き出せると、自然と心のなかから芽生えてくるものです。


再犯しないためには、人に頼って生きていく生き方を身につけること。
そのことだけでも理解できたら、再犯しない可能性が高まる。

自分の心のなかの否定的感情を支援者に受け止めてもらうことによって、受刑者は心の傷が癒され「大切にされる体験」をする。
「大切にされた経験」に乏しかった受刑者が、支援者によって大切にされることによって、受刑者は自分の内面の問題と向き合う勇気を持ち、罪と向き合える。
したがって、支援者の存在は不可欠、自分1人で過去の心の痛みに向き合うことはできない。

受刑者が否定的感情を吐き出して自分の心の痛みを理解すると、自分自身が殺めてしまった被害者の心の痛みを心底から感じるようになる。
ここにおいて、ようやく受刑者は真の「反省」のスタート地点に立てる。

佐藤大介『死刑に直面する人たち』に、無期懲役囚(名古屋アベック殺人事件の主犯格)に「反省とは何か」と尋ねると、こう答えたとあります。

反省というのは、本当に難しいと思います。実感するまでに時間がかかるんです。はじめはただ、申し訳ないと思うんです。そこからもう一つ超えるまでに時間がかかります。被害者の痛みや、命の重さがなかなか見えてこないのです。自分にとって大切な人を失うのがどういうことなのかと。


死刑判決後、母親や弁護人ら関係者からの支えを受けています。

自分の命を大切にしてもらったことで、他人の命の尊さに気づけたと思っています。

岡本茂樹氏は、幸せになることこそ更生と関係あると言います。
受刑者は「被害者は自分を許すことはない」ということを胸に刻んで生きていかなければならないと同時に、彼らが更生するためには、人とつながって「幸せ」にならなければならない。
人とつながって「幸せ」になることによって、「人」の存在の大切さを感じることになる。
そして、人の存在の大切さを感じることは、同時に自分が殺めてしまった被害者の命を奪ったことへの「苦しみ」につながる。
幸せを感じれば感じるほど、それに伴って、苦しみも強いものになっていく。

犯罪を犯した人と反省についての岡本茂樹氏の指摘は、教育やしつけに通じるように思います。

私たちが日常的に行っている「しつけ」や「教育」が、実は子どもや若者たちを犯罪者にしている側面があるのです。


アリス・ミラー『魂の殺人』ですね。

私たちは子どもの問題行動を歓迎しています。なぜなら問題行動とは、「自己表現」の一つだからです。


多くの親は、自分のしてきた子育てを正しいと思い込んでいるから、他者の視点が入り込まないかぎり何も変わらない。
問題行動はヘルプの信号であり、親は、なぜ子どもが問題行動を起こしたかを考える機会を与えられたと考えるべき。
罰を与える前に、問題行動は「必要行動」と捉え直しをする視点を持って、「手厚いケア」をしてほしい。
いじめにしても、いじめが起きる背景には、正しいと思って刷り込まれている「我慢できること」「1人で頑張ること」「弱音を吐かないこと」「人に迷惑をかけないこと」といった価値観がいじめを引き起こす原因にもなっている。

犯罪のない社会を願うのだったら、厳罰化ではなく、社会が犯罪者を受け入れ、支援する体制を作ることが大切だと、私も思います。

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17 コメント

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ハーム・リダクション (万年中年)
2018-02-13 12:30:20
 ブログ主さんが、ぽろっと洩らされたハーム・リダクション。 http://www.chugaiigaku.jp/item/detail.php?id=2090
 この文章の中で、
>依存症に罹患した脳は,自己嫌悪やみじめさ,恥ずかしさを自覚した瞬間に,「シラフじゃいられない」と渇望のスイッチがオンになるからです.

 という指摘が重要だと思います。罰によって、辱めを与える方法は、再犯予防につながらない。
 ひいては、これ「障害」や「疾病」あるいは、「貧困」でもいえるでしょう。これらの、病いや障害や貧しさに対して、みじめな思いを与えるような記号、、、スティグマは当事者にとって耐えがたい痛みを植え付けられると感じるのですよね。
何やってんだよ症候群 (円)
2018-02-16 15:12:05
言って分からなければ体で分からすしかないと、体罰や戦争という暴力を肯定する人がいます。
もちろん私はそんな考えには反対ですし、そうした考えに疑いを持たない人は嫌いです。
しかし、そういう気持ちが私にもあることは否定できません。
犯罪を犯した人、あるいは薬物依存症の人たちに対して、甘い顔をしたらつけあがるという気持ちが、正直あります。
依存症の人はウツ病だったり、人づきあいが苦手だったりする人が少なくないのですが、それを言い訳にするなという気持ちも起きます。
固定観念からの解放は至難ですね。
強化スケジュール (ゴーストバスターズ)
2019-12-31 14:19:13
 この岡本さんは確かお亡くなりになったんでしたっけ。
 田代まさし氏、また捕まりましたね。NHKの「バリバラ」に出てたときは本当、当事者の意見が聞けてとっても良かったのになあ。
足のつかない海に投げ出されて、おぼれるものは藁をもツカムってことで流れてきた浮き輪につかまったら捕まっちゃったというギャグを飛ばしててお腹抱えて笑いました。マーシーは常に人を笑わせて喜ばせたいんですよね。ところがネタに詰まると苦しくなり、その苦しさを忘れさせてくれるクスリにはまる。
 まあ被害を被る相手がいない分いいのかも知れないけど、マーシーに期待してる人を裏切ってしまうんですよね。
 岡本理論は、被害者の立場に立つ前に、自分の立場に向き合うということが先決だ。しかしETV特集見てたら、間欠強化って言葉を思い出しました。
 一回の行動で正の強化が与えられる連続強化より、反応をときおり強化させる間欠強化のほうがそのオペラント反応が強められるということ。
 強制性交の犯罪歴のある人物が、中には喜んでいる女もいたみたいな発言をしてました。つまり、99人の女性がいやがっても1人でも同意する女性がいれば、またやりたくなる。
 住職さんは自坊でセルフヘルプグループを開かれていたようですが、これパチンコでもいえることですよね。毎回毎回当たりが来なくてもたまに当たる。ギャンブルに依存するっていうのはこの変動比率強化であり、これが非常に消去しにくい。いつ当たるかわからないのが最も面白い。(固定比率強化の例は、スタンプカードですよね。10ポイント貯まったら景品もらえるというやつ)

 自分の意志ではなかなか辞められない。で、なかには「癒されたい」から性犯罪をするって人物もいて。自腹で金払ってどこか別のところで癒されろよ!って思わずテレビに向かって怒鳴ってしまいました(笑。
身の毛もよだつ (ゴーストバスターズ)
2019-12-31 17:35:09
 あ、それと忘れてました。フォト・ジャーナリスト広河隆一氏。良心的知識人の典型みたいな人でしたが、裏で何やってっかわかんねーエロ爺って言葉がまさにぴったりの方。正義の仮面を被るしんどさのはけ口だったんでしょうか。何がこういう人を生むんでしょうか。
 認知行動療法対象以前の問題のような気がします。
依存症の不思議 (円)
2020-01-04 17:54:49
聞いた話ですが、中間施設につながって1年間スリップしない人が3割だそうです。
厳しいですよね。
ちなみに少年院を出た人の再犯率も3割。

これも聞いた話ですが、お酒を飲む人がみんな依存症になるわけではないように、薬物を使う人が全員依存症になるとは限らないそうです。
パチンコなどギャンブルも小遣いの範囲内で遊んでいる人はいます。
依存しやすいタイプと、なりにくいタイプがあるのかもしれません。

広河隆一さんの肩を持つわけではありませんが、男の甲斐性とされていた時代に育ったということもあると思います。
広河さんの場合、性被害では延べ17人に、性交の強要(3人)▽裸の写真の撮影(4人)▽言葉によるセクハラ(7人)、とのことです。
どんなことを言ってたんでしょうか。
成育歴 (ゴーストバスターズ)
2020-01-05 00:14:45
 広河氏については「勘違い」じゃないでしょうか。フォト・ジャーナリスじゃないけど辺見庸という作家なんか若い時からモテただろうなって思います。が、広河氏って冴えない感じで女性に疎かったんじゃないでしょうか。で、自分が斯界の権威者になって集まってくる女性が、異性として自分に近付いて来てるといったような「勘違い」。

 依存症になる人となりにくい人。それは過去のトラウマとか、人間関係とかと条件が重なったことではないでしょうか。田代氏なら、父親が不倫して両親が離婚。母子家庭で育ったけど、再婚した母のパートナーと折り合いが悪く、中学時代はタバコ、酒、シンナー浸りになるといった経歴。
 あと有名人といえば、清水健太郎氏や三田佳子氏の次男の高橋祐也氏ですかね。
 また、逮捕歴が何度もということではないけれど、かなりの薬物使用歴があると言われているのが沢尻エリカ氏ですよね。母親はフランス人。父親は日本人。かなり裕福だったけれど、父親は彼女が9歳のとき失踪。6年ほど経って帰ってくるが、すぐ癌で死亡。そんな成育歴も関係しているのかなと思います。
 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1689200149
悩ましい問題 (円)
2020-01-05 13:35:28
以前、看護師に暴行した人が捕まり、なぜかというと、入院していた時にやさしくしてもらった、自分に惚れていると思い、退院してから連絡したが、冷たかったので、というのが犯行の動機でした。
他人からやさしくしてもらう経験が今までなかったのかと思いました。
なんにせよ、私は他人事じゃないと思ってゾッとすることがしばしばです。

依存症は遺伝ではないそうですが、しかし親も依存症の人が少なくないように思います。
犯罪にしても、十代のころ悪さをしても、たいていは堅気の仕事をするようになりますが、ずるずると警察の厄介になる人もいます。
生まれつきか環境か、どちらの要素が大きいんでしょうか。
氏か育ちか (ゴーストバスターズ)
2020-01-13 12:55:02
 遺伝か環境か。

https://sugoii.florence.or.jp/1629/

 これに関しては、阪大のふたご研究というものに期待しております。

 https://www2.med.osaka-u.ac.jp/twin/futago_research/why/
誰のせいか (円)
2020-01-16 17:23:44
依存症になりやすい体質に生まれつき、依存症の親に育てられた。
そのため依存症になる可能性が高まったということになりますか。
個性というふしぎ (ゴーストバスターズ)
2020-01-17 09:35:15
 自分んちで出産した仔犬たちを育てた経験があるのですが、それはもう同じお母さん犬から生まれた仔犬も生まれたときから、それぞれ性格が違う。
 他のを押しのけてお母さんオッパイを独占し、うんちを片付ける私の指を思いっきり噛むゴンタな犬もおれば、何事にも控えめで気弱な雄犬もいる。

 氏か育ちかの二択ではなく、これはやっぱり個性(固有因子)×環境(遭遇した事件)じゃないでしょうか。

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