三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

金成隆一『ルポ トランプ王国』(2)

2017年06月10日 | 日記

なぜトランプは大統領選で勝ったのか、金成隆一『ルポ トランプ王国』の続きです。

 2 トランプへの期待
金成隆一氏は「大統領選では、候補者が多数派を形成する方法は大きく2つ考えられる。理想の社会像を語り、支持を集める方法、もう1つは、共通の「敵」を作り上げ、敵意や憎悪を結集させる方法だ」と書いています。

トランプは自己資金で選挙をし、利益団体の世話や企業の献金を受けていないから、既得権益層にこびることがなく、特定の業界団体の言いなりにはならない、と訴えた。
それに対し、ゴールドマン・サックスでの講演1回で22万5千ドルを受け取ったヒラリー・クリントンは、エスタブリッシュメントの代表というイメージが定着した。

どうしてミドルクラスから転落しそうなのかという「不満」と、生きていけるのかという「不安」に、トランプは「自由貿易」と「不法移民」という標的を示した。

工場のメキシコ移転・不法移民の雇用→仕事がない

テキサス州ボーモント市では、人々はメキシコとの「壁」を支持している。
元教師「街でスペイン語が当たり前になっていることが不気味。ここはアメリカなのよ」

全人口に占める白人の割合は、1965年は84%、2015年は約62%に減少し、2045年には約50%になると予想されている。

ペンシルベニア州エドナ(80歳)「街に知らない人が増えた。いろんな人種が増えた。ポーランド人とかスロベニア人とか、新しい人が増えた」
金成「私から見れば、皆さんは白人で区別がまるでつきませんが」
エドナ「イギリスやドイツの出身者と彼らは違う。異なる文化や宗教の人が増えると、やはり暮らしにくくなる。」
日本でも、「わからない言語で話している」ことが不気味だという感じが、不安や不満になっている人は多いのではないかと思います。

60年代以降の急速な社会の変化に違和感を覚えている人は多い。
理髪店主(77歳)「他国がアメリカに、あれをやれ、これをやれ、と言ってくることにウンザリしている。本来は逆だ。アメリカは他国にこれをやれと指図する立場にある。アメリカはそれに値する国だ。あなた方日本人は、長年アメリカを仰ぎ見てきたのに、今やアメリカは水準以下に落ち、なめられている。トランプは、アメリカを元々の位置に戻す、と言っているんだ」

しかし、トランプや支持者の主張には事実誤認や誇張が多い。

① 自由貿易
世界経済が失速する中で、アメリカの景気は回復傾向にあり、一人勝ちと言われてきたのが実態。
2016年はアメリカの製造業生産高が史上最高を記録し、雇用者数も6年連続で伸び、2009年に10%だった失業率は、2016年には4.6%まで下がっている。
自由貿易協定(FTA)も、2009年から15年の輸出の伸びは、協定を結んだ国との間で52%と、輸出促進の効果があった。
アメリカ国内の製造業は海外産の部品に依存している。
海外からの商品に高関税を課せば物価が上がり、トランプの支持者も困る。

② 不法移民
不法滞在の移民は、消費税はもちろん、約半数は所得税も払っている。
不法移民によって払われた地方税と州税の年間合計は116億ドル。
給付金を受け取ることは期待できないのに保険料を払っており、その支払額は年間150億ドルになる。
彼ら推定310万人の支払いがなければ、社会保障システムは慢性的な予算不足になる。

 3 社会の変化
フロマン米通商代表部代表は、雇用減少や賃金の伸びの停滞は、グローバル化よりもオートメーション(自動化・機械化)の産物だ、と主張している。

いくら工場を誘致しても、多くの作業はロボットがこなすので、地元民を雇うとはかぎらない。
アメリカでは、製造業の仕事に就くのに必要な知識・技能は昔より格段と難しくなっていて、高校卒業レベルでは難しい。

ウィスコンシン州の工場経営者「新しい技術者を募集しているが、集まらない。応募者は来るが、水準に達しないんだ。(略)
うちの仕事は難易度が高い。この敷地に低賃銀の仕事はない。(略)メキシコなど海外に出たのは製造業の簡単な部分で、高度な技術を要する仕事は今も国内に残っている」
将来に向けての最大の懸念は、熟練機械工を育成できるかという問題だ。

「かつての製造業のような給料払いのいい仕事がなくなった」と嘆く労働者。
「必要な技能を持ち合わせた労働者が見つからない」と嘆く工場経営者。
高校を卒業すればミドルクラスになれたという時代は戻ってこない。

 4 トランプ政権への危惧

忘れてはならないのは、今回の選挙では、権威主義的なトランプが、移民や難民、イスラム教徒らへの排外主義的な主張をくり返した末に当選したという点だ。自由、民主主義、多様性の尊重、言論の自由、機会の均等など、アメリカが大切にしてきた理念を語ろうとしない。


このように金成隆一氏はトランプを批判します。

最悪のシナリオは新たな戦争ではないだろうか。トランプ劇場に観客が飽き始め、「チケット代を返せ」と叫び始めた時に、国内を結束させる手段としてトランプの脳裏に戦争という選択肢が浮かばないだろうか。つい最近まで選挙戦でやっていたように、次は海外に仮想的を作り出して憎悪を結集させ、「アメリカ最優先」を掲げて開戦しないだろうか。

シリアやアフガニスタンへの空爆はその表れかもしれません。

岸見一郎氏は「他者はみな敵であると見る人は、他者との関係に入っていこうとはしない。他者を敵と見ると決めれば、そのことを確信させる証拠はたちまち見つかる」と書いていますが、トランプにぴったり当てはまるように思います。

金成隆一氏はトランプ人気について、このように書いています。

新しい問題発言が出るたびに、「さすがにこれで人気も失速するだろう」と。しかし人気は落ちなかった。

森友学園や加計学園の問題があり、大臣の失言が繰り返されても、安倍内閣の支持率が高いままです。
テロや北朝鮮のミサイルで不安感を煽るあたりも、トランプ人気と通じるものがあるように思います。

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