アラブの春は終わらない

2012-01-06 15:12:30 | 日記
タハール・ベン・ジェルーン著  河出書房新社刊

『アラブの春は終わらない』どころか、どう決着がつくのかも読めない2011年の時点で、敢えて本書を執筆した著者の勇気に感心した。文筆家は、結末の付いていない時事ネタについて書くのは好まない(自分の歴史観・洞察力を傷つけかねないからだ)。
ところで、私はこの一連の動静を「アラブの春」とか「ジャスミン革命」という謳い文句をつけたメディアに些か違和感を感じている。「春」どころか「灼熱の嵐」、「革命」というには「リーダーもいないし、目標も明確ではない」からだ。
ここで、民衆が要求したのは貧困の解消などではなく、「自由」「尊厳」「人権」だった。ここに「アラブの春」の深刻な闇が横たわっているように思える。アラブ諸国の支配層に何の疑念もなく存在している、国土・国民・資源の私有化という思想に、このスローガンの全ての根幹がある。そして、それを黙認し、自国の利益を図って来た先進諸国の責任は大きい(日本も例外ではない)。
最後に本書のタイトルだが、原題の直訳『火花ーーアラブ諸国の民衆蜂起』の方が、本書の内容に合っている。「アラブの春」には、やっぱり抵抗がある。

わたしを宇宙へ連れって ー無重力生活への挑戦ー

2012-01-03 16:02:07 | 日記
メアリー・ローチ著  NHK出版  

最初の一行が良い。「宇宙開発のエキスパートにとって、あなたは巨大な頭痛の種だ。彼等が扱う機械やシステムのなかで一番めんどうくさい相手、それがあなただ」。確かにヒトという有機体は厄介だ。気紛れな代謝作用、貧弱なメモリー、規格の存在しない形状とサイズ、確かにそうだ。
火星探査を目標にしているNASAの宇宙開発担当の人々にとって、ハードは90%確立している。ハードはいつも正しく機能し、24時間眠らず、食事も要求しない。ところが人間は……?
勿論、人間を送り込まずとも火星探査は可能だ。すでに火星探査機を送り込んでいるからだ。しかし、火星を総体的に探査しようとしたならば、機能の異なった数百というロボットを送り込む必要がある。これには膨大な金がかかる。しかし、人間を5、6人着陸させれば、人間は観察し、推測し、何が必要なのか絞り込むことが出来る。人間の複雑な脳がそれを可能にさせるのだが、冒頭に述べたように人間には厄介な因子が多数存在し、これが宇宙飛行士を火星に送る(Mars500計画)ネックになっている。
本書はこの問題に開発技術者がどう取り組んできたかのインタビューレポートである。著者はありとあらゆる人々(理論家、実験した医師・エンジニア・ボランティアの被験者・宇宙飛行士)に聞きまくって構成されている。ここが、実に面白い。軽妙洒脱というか、ウイットとユーモアに溢れた文章は楽しい。
ただ、これまでの開発者の努力が徒労に終わったかと言うと、そうではない。生理学・薬学・栄養学・新素材などの分野に現実に実用化、製品化されている。
著者が言うように宇宙工学の研究・開発は、実はヒトという生物が火星に行って帰ってくるために開発された新しいテクノロジーこそ、「人類にとって大きな一歩」なのかもしれない。
難しいことは書いてないので、一読をお勧めします。