オオカミの護符

2012-01-18 08:25:21 | 日記

小倉美恵子著  新潮社刊

不思議な読後感を持つ本だった。メインテーマはタイトル通り、細長い紙にの上部右側に「武蔵国」、中央に「大口真神(オオクチマガミ)」、左側に「御嶽山」、下部にイヌの絵が刷られている護符のルーツ、その意味、それを配布している神社をめぐる探訪記である。日本全国に同種のものがあるそうだが、著者が探訪したのは主に関東甲信である。
ところが、記述される地名は旧国名、武蔵国、相模、信濃国、以下甲斐、上野、下野とまるで江戸時代にタイムスリップしたようなのである。そして、それが少しも違和感がなく、というよりとても馴染んでいるのである。この護符のイヌは人々には「オイヌさま」と呼ばれているが、正体は約百年前に絶滅したニホンオオカミであることが分かる。それが護符に描かれるようになったのは、畑を荒らすクマやシカ、イノシシの天敵だったからである。世間一般には害獣であるオオカミが、お百姓にとっては畑の守り神・味方だったのである。険しい山々にしがみつくように寄り添う茅葺屋根の家と、お百姓の姿が目に浮かぶようではないか。
取材の結果、いろいろなことが明らかになる。護符を発行する神社の中には、ニホンオオカミの頭蓋骨や骨、毛皮が保存されていること。神社だけでなく、講中の人達の中にもそれを保存していることだってあるそうだ。
もっと驚いたことがある。それは、鹿の骨を焼いてその年の豊凶を占う太占(ふとまに)をする神事をしている神社があったことだ。一社はなんと武蔵御岳神社。もう一社は群馬県富岡市の貫前(ぬきさき)神社。太占には文献だけのことだと思っていた。
読了して思ったこと。それは人と生き物、そして神々が寄り添って生きていたのだなぁ、ということだった。                                                  ぜひぜひ読んでいただきたい。