わたしを宇宙へ連れって ー無重力生活への挑戦ー

2012-01-03 16:02:07 | 日記
メアリー・ローチ著  NHK出版  

最初の一行が良い。「宇宙開発のエキスパートにとって、あなたは巨大な頭痛の種だ。彼等が扱う機械やシステムのなかで一番めんどうくさい相手、それがあなただ」。確かにヒトという有機体は厄介だ。気紛れな代謝作用、貧弱なメモリー、規格の存在しない形状とサイズ、確かにそうだ。
火星探査を目標にしているNASAの宇宙開発担当の人々にとって、ハードは90%確立している。ハードはいつも正しく機能し、24時間眠らず、食事も要求しない。ところが人間は……?
勿論、人間を送り込まずとも火星探査は可能だ。すでに火星探査機を送り込んでいるからだ。しかし、火星を総体的に探査しようとしたならば、機能の異なった数百というロボットを送り込む必要がある。これには膨大な金がかかる。しかし、人間を5、6人着陸させれば、人間は観察し、推測し、何が必要なのか絞り込むことが出来る。人間の複雑な脳がそれを可能にさせるのだが、冒頭に述べたように人間には厄介な因子が多数存在し、これが宇宙飛行士を火星に送る(Mars500計画)ネックになっている。
本書はこの問題に開発技術者がどう取り組んできたかのインタビューレポートである。著者はありとあらゆる人々(理論家、実験した医師・エンジニア・ボランティアの被験者・宇宙飛行士)に聞きまくって構成されている。ここが、実に面白い。軽妙洒脱というか、ウイットとユーモアに溢れた文章は楽しい。
ただ、これまでの開発者の努力が徒労に終わったかと言うと、そうではない。生理学・薬学・栄養学・新素材などの分野に現実に実用化、製品化されている。
著者が言うように宇宙工学の研究・開発は、実はヒトという生物が火星に行って帰ってくるために開発された新しいテクノロジーこそ、「人類にとって大きな一歩」なのかもしれない。
難しいことは書いてないので、一読をお勧めします。