おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

罪の手ざわり

2022-11-17 07:23:35 | 映画
「罪の手ざわり」 2013年 中国 / 日本 

                                     
監督 ジャ・ジャンクー                             
出演 チャオ・タオ チアン・ウー ワン・バオチャン
   ルオ・ランシャン チャン・ジャーイー リー・モン
   ハン・サンミン ワン・ホンウェイ

ストーリー
山西省に暮らす炭鉱夫のダーハイ(チアン・ウー)。
村の共同所有だった炭鉱の利益が、同級生の実業家ジャオと村長によって不当に独占されていることに激しい怒りを募らせる。
ダーハイは汚職により利益を吸い上げられてきた怒りを抑えることができず…。
重慶に妻子を残し仕送りを続ける若き父チョウ(ワン・バオチャン)は出稼ぎと偽り、各地で強盗を繰り返していた。
妻は、夫が単なる出稼ぎに行っているのではないと感づいてしまう。
湖北省で風俗サウナの受付係をしているシャオユー(チャオ・タオ)は、叶わぬ恋を続け、寄る辺ないまま歳を重ねてきた。
ある日、非常識な客に札束で殴られセックスを強要され、しつこく迫る客に我慢できず切りつける。
広東省の縫製工場で働く青年シャオホイ(ルオ・ランシャン)は、勤務中に同僚を怪我させてしまい金銭的に追い詰められていく。
そんな中、ナイトクラブのダンサー、リェンロン(リー・モン)と出会い、心惹かれていくのだが…。
厳しい現実の中で、それぞれにひたむきに日々を生きてきたはずの彼らだったが、はたしてその先にはいかなる運命が待ち受けていたのか?


寸評
拡大する貧富の格差が引き起こした悲劇の深層を4つのエピソードで構成した群像劇だ。
急速に変貌していく中国が抱える社会問題を背景にしているが、描かれている状況はあらゆる世界が内在している普遍的な問題でもある。
日本だとバカヤロー!と叫ぶのだろうが(バカヤロー! 私、怒ってます)、中国ではこれが一線を越えた暴力的な展開になるのだろう。
実在する4つの事件がモチーフというから、中国社会のひずみはやはり深刻だと思う。
拝金主義や貧富の格差、都会と地方の格差など描かれている世界はいかにもリアルだ。
聞き及ぶ世界だが、エンタメ性に富みながらも、このように描かれるとやはりリアル世界だと感じずにはいられない。

どうもがいても、そこから抜け出せないもどかしさと切なさはアチコチに存在しており、それがこの映画の普遍性でもある。
主人公たちは様々な理由で追い詰められて破滅へ向かうが、それを細やかな演出で支えている。
助けられた牛が一人(?)荷車を曳いていくショット、犯行現場に駆け付けるパトカーのショット、殺人を自ら警察に知らせる悲しげな顔のショットなどだ。
それまでは荒削りと感じさせながらも、その辺りになるとやけに繊細なのだ。

最後は暴力的になるが、それまではむしろ静かに展開する。
ポイント、ポイントでは驚くようなシーンを突如描きだす。
冒頭の真っ赤なトマトと共にひっくり返った車の目にも鮮やかなシーンから、強盗にあったチョウが逆にその強盗を射殺するに移るところなどは、ギャング映画を髣髴させる映像的展開で、一気に観客を画面に引き込む。
3話の女性などは、我慢を重ねたうえで最後に斬りつけるところなどは、まるで任侠映画的でこの映画のエンタメ的なところだ。
そのようなことが各エピソードで展開されるのだが、その意味からいえば第4話だけが少し異質。
いっそ、同じような展開にすれば良かったのにと思ったりした。
社会性に加えて、ヒーローが悪を倒す娯楽性も監督の大いに意図したものだったと思う。
最後に大衆の一方の娯楽である京劇を登場させ、そこで彼等の思いを語らせていた。
何だか奥深い映画だったなあ~。