おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ダンケルク

2022-11-04 07:32:48 | 映画
「ダンケルク」 1964年 フランス / イタリア


監督 アンリ・ヴェルヌイユ
出演 ジャン=ポール・ベルモンド フランソワ・ペリエ
   カトリーヌ・スパーク ピエール・モンディ
   マリー=フランス・ボワイエ マリー・デュボワ

ストーリー
1940年6月初旬の土曜日、北仏ダンケルクにほど近いズイドコートの海岸には40万近い英仏連合軍の兵士達が絶望と不安に突き落されていた。
マイヤ曹長はズイドコートにアレクサンドル、デリイ、ピエルソンという三人の戦友と野営していた。
その頃、英国軍はドーバー海峡を渡り始めていたが、フランス兵の乗船は拒否しているという噂が広まった。
激戦地ソンムでの生き残りマイヤは、ダンケルクから本国に撤退する英軍に便乗し、フランスの窮状を訴える任務を拝した。
英語が話せるマイヤは乗船交渉のため英軍の将校に会いに行ったが、彼は不在だった。
マイヤは水を求めて一軒の家に入ったが、無人と思ったその家には姉妹二人で屋敷を守るジャンヌという娘がいて、紳士的なマイヤに姉妹は好感を持った。
奇妙に整然としている家だったのには驚いたが、彼は再び将校に会いに出かけた。
将校は彼を英国兵と一緒に貨物船に乗せてくれたが、途中で船は弾を受けて炎上し始めた。
マイヤが飛び込むと数人の兵士が続き、彼は火傷した兵士を助けながら海岸まで泳ぎついた。
マイヤがジャンヌの家にたどりつくと、半裸のまま失神している彼女の傍に二人のフランス兵がいた。
彼はジャンヌをレイプしようとしていた友軍の二人を射ち殺した。
正気にかえったジャンヌはマイヤに身をよせ自由にしてくれと懇願したがマイヤは彼女を罵り、仲間達の所にもどった。
マイヤの代りに、泉まで水汲みに出かけたアレクサンドルは独軍の銃弾に倒れた。
再びジャンヌのもとに行ったマイヤは結婚の約束をして荷車を取りに表に出たのだが・・・。


寸評
ナチスドイツはポーランドに侵攻勝利した後にオランダ、ベルギー、ルクセンブルクに侵攻し、これらも破った。
北フランスを席捲し、フランス軍とイギリス軍を中心とした連合軍主力をドーバー海峡まで追い詰めたのがダンケルクの闘いである。
ドキュメント番組などを通じてのものなのだが、ダンケルクと聞いて僕が思い浮かぶのは戦いそのものよりチャーチルが実行した救出作戦の方である。
軍艦の派遣は当然なのだが、イギリス国民に漁船やヨット、はしけに至るまで船と言う船の持ち主に救出に向かうことを呼びかけ、イギリス国民もそれに応じて大救出作戦が実行されて成功したことに驚いたのだ。
そんなボートでドーバー海峡が渡れるのかと言いたくなるような小型船が無数に川を下っていく様に感動した。
もちろんゲーリングの判断ミスなどもあってのことだが、数十万の兵士が無事帰還出来たなんて奇蹟に近い。
しかし、その結果として侵攻したドイツによってパリは陥落しフランスは降伏することになった。

この映画でもいたるところの場面で放置された車や戦車などが背景として描かれており、イギリス軍は重装備を放棄したことで兵器不足となったのだが、劇中で大尉が言うように「生きて帰れば戦略的勝利なのだ」が効いて兵士の温存が出来たことが最後にはドイツに勝利できた要因の一つであったろう。
撤退戦は過酷であったであろうと思われるが、この映画では時々砲弾が飛んできたり、敵機による空爆と機銃照射があるけれど、大きな戦闘シーンは描かれない。
ジャン=ポール・ベルモンドのマイヤは海岸をブラブラしていたりして、その姿には悲壮感はなく若者らしい気楽ささえ感じる行動を取り続けている。
仲間たちと砂浜で野営しているがワインなどもあり、飢えている風でもないことが悲壮感を削いでいるのだろう。
ダンケルクの撤退戦と言う背景があるものの、ジャン=ポール・ベルモンドが演じていることもあって「勝手にしやがれ」のようなどこかいい加減なところもあるけれど優しい一面を持った若者を描いた映画でもある。

マイヤは新婚の兵士と出会い、優しい大尉の助けもあり女性を乗せないはずの救出船に共に乗ることができる。
戦場に生まれた美談のように思えた瞬間、それが悲劇につながってしまう。
いつ生と死が入れ替わるかもしれないのが戦場なのだ。
マイヤの代わりに水を汲みに行った仲間が爆撃を受けて死んでしまうのも同様である。
死体を砂浜に埋めようとすると、ドイツのスパイを見つけたことで知り合った兵士が「人間なのに砂浜に埋めるのか」と非難すると、マイヤは「お前は持っているその銃で人間を撃っているではないか」と言い返す。
戦争批判を感じさせるシーンだが、戦争否定を感じさせるシーンはむしろ少ない。
僕が感心したのは遠景が多い中で、背景に写っている兵士たちがそれぞれ演技をしていることである。
CGなどなかった時代の作品で、背景として遠くに映るエキストラを意図通りに動かしたアンリ・ヴェルヌイユの演出力というか指導力に目を見はらされた。
マイヤの優しさはジャンヌとの関係でも発揮され、彼はジャンヌを救うために同胞の兵士を射殺する。
そのことで彼は苦悩するはずなのだが、別の兵士を登場させて罪悪感を都合よく取り払っている。
人の良いマイヤはジャンヌと結婚しようとするが戦争はそんな二人を引き裂く。
ラストシーンはヌベルバーグ作品のようだし、ジャン=ポール・ベルモンドらしいと感じさせていいと思う。