おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

追想

2022-11-13 07:44:13 | 映画
「つ」ですが、今回の紹介は少ないです。
2019/11/8の「ツィゴイネルワイゼン」から「津軽じょんがら節」「月はどっちに出ている」「つぐない」「椿三十郎」「罪の手ざわり」「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」「冷たい熱帯魚」を紹介し
2021/6/7の「終の信託」から「ツォツィ」「翼よ!あれが巴里の灯だ」「妻は告白する」「劔岳 点の記」「鶴八鶴次郎」を紹介済みです。

「追想」 1956年 アメリカ


監督 アナトール・リトヴァク
出演 ユル・ブリンナー イングリッド・バーグマン ヘレン・ヘイズ
   エイキム・タミロフ マーティタ・ハント フェリックス・アイルマー
   イヴァン・デニ サッシャ・ピトエフ

ストーリー
10代の若き皇女アナスタシア皇女を含めてロシア皇帝ニコライ2世の一家が十月革命の後にボリシェヴィキによって殺害されたと推測されてから10年が経過した。
1928年。パリ在住のボーニンを首謀者とするチェルノフら4人の白系ロシア人は、ロシア革命のとき独り逃れたという大公女アナスタシアが生存していると宣伝、彼女を敵から救出する名目で旧貴族から資金を集め出した。
そして4人は、セーヌ河に身を投げようとしたアンナ・コレフをアナスタシアに仕立て、ロシア皇帝ニコライ2世が生前、大公女のために英国銀行に預金した1000万ポンド、利子も含めて3600万ドルの金を引き出そうと企む。
アンナは、前に病院に入っていたとき自分はアナスタシアと打ち明けたことがあり、自分の過去を殆ど記憶していないという謎の女だった。
ボーニンらの演出で、アンナはアナスタシアとして在パリの旧ロシア宮廷の要人達に引き合わされた。
しかし要人の1人は彼女の真実性を認めず、狼狽したボーニンは最後の切札として彼女を、デンマークで甥のポール公と余生を送るアナスタシアの祖母・大皇妃と対面させようとする。
ポール公は革命前、アナスタシアと許婚であった。
だがボーニンの試みは失敗、そこで彼は大皇妃の侍女を買収して劇場でポール公とアンナの対面を計ったところ、これは成功し、ポール公も信じはしなかったがアンナの美しさに打たれた。
ところが翌晩、ポール公に再び会ったアンナは、自分を偽物のアナスタシアでなく唯の女として扱って欲しいと打ち明けた。
一方、ボーニンも、ポール公に自分の欲しいのはアナスタシアの金だけだと明けすけに話した。
経済力の足りぬポール公は、この話に乗り、大皇妃とアンナの対面に手を貸す。
かくてアンナはアナスタシア大公女として認められ、数週間後には、彼女の金目当てのポール公と婚約披露をすることになった。


寸評
「追想」などという邦題をつけずに原題のまま「アナスタシア」とした方が映画の雰囲気を出していたと思う。
イングリッド・バーグマンが気品ある美しさを見せ、ユル・ブリンナーがパリッとした風貌をみせているものの、ミステリーとしてもう少し上手く撮れなかったものかという印象を持つ。
アンナは記憶喪失で病院に入院していたことがあり、そこで自分はアナスタシアだと語っていたことがあるらしい。
書物か何かで知って自分をそう思い込んでいたのか、それとも本当にアナスタシアだったのかという疑問が有っても良かったと思うが、病院での様子は全く描かれておらず、観客は最初からアナスタシアは偽物なのだと分かっていることでミステリー性が半減している。
ボーニン将軍がアンアをアナスタシアに仕立てるために猛特訓するのは「マイフェア・レディ」のヒギンズ教授とイライザのようだが、こちらの方が断然厳しい。
記憶があやふやでアナスタシアに仕立てられるアンナの苦悩はイマイチ伝わってこないが、正装した時のイングリッド・バーグマンはやはり美しく、気品あるいで立ちに見とれてしまう。
中盤以降はモヤモヤ感が付きまとうが、それ自体がどうでも良くて、映画はやはりバーグマンなのだろう。

圧巻はやはりバーグマンのアナスタシアとヘレン・ヘイズの皇太后の謁見シーンであろう。
皇太后はロマノフ王朝の縁者だと名乗る偽物の人物に何人も会っていたのだろう。
うんざりした気持ちがあって、アナスタシアにも「一族の名を気安く口にしないで、偽物!」と一喝する。
皇太后の威厳の様なものがにじみ出ていてヘレン・ヘイズはなかなかの好演であった。
侍従のリーベンバウム夫人が久しぶりのドレスを着て「舞踏会場を御覧ください、昔に戻ったみたいですわ」と喜びを表すと、マリア皇太后は「防虫剤が臭うわ」とピシャリ。
マリア皇太后がこの映画の後半を引き締めていたと思う。

皇太后は疑いながらもアナスタシアを本物と認めるが、それはアナスタシアの気持ちに触れたからであろう。
「でもあなたでないとしても、私には言わないで」と老皇太后はつぶやく。
それは老い先短い皇太后の本当の気持ちであったろう。
ロシア革命により息子であるニコライ2世の一家がすべて処刑された中で、嘘でもいいから孫が生存していたことを信じたかったのだろう。
マリア皇太后は革命後も10年くらい生きた人だから、本当にそのような人がいれば良かったのにと思う。

人物眼に優れている皇太后は「結婚相手はポールでいいの?」とアナスタシアに聞く。
そして「私たちは過去と一緒に朽ちるけど、未来はあなたのものなのよ」とも述べている。
堂々たるもので、「皆になんて説明を?」と聞かれ、「芝居は終わった、帰りましょうと」と答える皇太后はカッコよく、流石は皇太后でその辺のオバサンとは違うと思わされた。
俳優さんは上手い。
結局ハッピーエンドで終わったことになるのだが、最後に主役の二人を登場させない演出はこの映画で一番評価できる描き方であった。