おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

弾丸を噛め

2022-11-03 07:19:00 | 映画
「弾丸を噛め」 1975年 アメリカ


監督 リチャード・ブルックス
出演 ジーン・ハックマン キャンディス・バーゲン
   ジェームズ・コバーン ベン・ジョンソン
   ジャン=マイケル・ヴィンセント サリー・カークランド
   イアン・バネン ロバート・ドナー

ストーリー
1908年の西部でデンバー・ポスト新聞の主催による過酷なレースが始まろうとしていた。
それは、人間と馬による、踏破距離700マイル、賞金2000ドル、馬を乗りかえることは出来ず、行く手には山あり谷あり砂漠ありという定められたコースを6日半で踏破する死のレースだった。
馬を乗りつぶしたり事故にあったりしたら生きては帰れないが出場者8人が各地から集まった。
カウボーイのサム・クレイトン、皮肉屋の賞金稼ぎルーク・マシューズ、ミスターと呼ばれるカウボーイ、名声に憧れる若者カーボ、乗馬を愛する英国紳士ノーフォーク卿、メキシコ人、馬術家リー・クリスティー、いずれもひとくせもふたくせもありそうな男ばかりのなかの紅一点、ミス・ジョーンズも参加していた。
8人の冒険者たちは毎晩定められたチェック・ポイントに立ちより、獣医によって厳しい馬の検査を受けなければならない。
このレースはアメリカ中で注目され、何百万ドルという賭金が動いた。
出発後間もなくメキシコ人が歯痛のために脱落しそうになったがサムとミス・ジョーンズによって弾丸を歯冠がわりにかぶせられ、再びレースに戻ることが出来た。
幾日目かの夜、河を渡ろうとしたミスターは馬と共に急流に飲まれ、やっとのことで這い上がったが、心身ともに衰弱しサムにみとられながら、危険な旅の第1の犠牲者としてあえない最後をとげた・・・。


寸評
自動車レースや飛行機レースなどレースを題材にした作品は少なからず存在しているが、本作は馬による1100キロにも及ぶ走破レースである。
通常のレース作品では競争相手が一秒でも先に行こうとしてもがく姿が描かれたり、あるいは何とかして相手を出し抜こうとする姿が描かれたりするのだが、この作品ではそのような殺伐とした雰囲気はなく、むしろスポーツマンシップにのっとっているような助けいあの精神が描かれている。
レースにおける過酷な様子や丁々発止のやり取りを期待する分には少し拍子抜けしてしまう内容だ。
その分、レースに出場する人物の描写はきめ細かい。
ジーン・ハックマンのサム・クレイトンは動物を愛し女性を大切にする男である。
したがって馬を大事にしない若者を痛めつけたりするし、彼の女性に対する思いがどこから来ているのかも後半において明らかにされる。
ジェームズ・コバーンのルーク・マシューズはサムの友人だが、サムに比べると山っ気がありギャンブル好きで、自分の人気が低くかけ率が高いことを利用して大金を手に入れようとサムに取引を提案したりする。
キャンディス・バーゲンのミス・ケイトは元娼婦で紅一点の参加者だ。
メキシコ人は虫歯を患っていてその痛みに苦しんでいるが、サムとミス・ケイトにレースの途中で治療してもらい、弾丸を加工した歯へのかぶせを作ってもらう。
レースに執着する姿だけでなく、このようなレースで不利になるようなエピソードが随分盛り込まれているのが異質なところとなっている。
痛みをこらえ弾丸をかんで頑張り続けるというのが「弾丸を噛め」とい邦題につながっている。
サムはマイペースでレースを続け、皆に先行されても気にしていないようである。
ミスター(ベン・ジョンソン)と呼ばれる男としんみりした会話をし、最期を看取ってやるような優しい男だ。
普通ならスーパーマン的に大活躍をしてもいいようなキャラクターで、実際彼は描かれるエピソードの中心人物であるのだがその行動は活劇的ではない。
どちらかと言えば大人しく思える演出が、なんだかはぐらかされているようで物足りなさを感じてしまう。
思い返してみれば映画が始まって30分ほどたっても何も起きていなかったような気がする。
ただレースが開催されることへの人々の盛り上がりが描写されていたように思う。

西部劇に付き物の銃撃戦もなく、ミス・ケイトが襲われた時にライフルと拳銃が発射されるぐらいだ。
あとはミス・ケイトのレースに参加した理由が明らかにされる場面での活劇だが、これとて手に汗握る緊迫した決闘という感じではない。
なんだかのんびりしたような感じなのだ。
レースは描かれている以上に過酷なものだと思うのだが、その過酷さをことさら強調していないので、僕はゴールシーンに違和感を感じてしまった。
1900年初頭という時代背景のなかでアメリカ西部の雰囲気の側面を描き出していたのかもしれないが、アメリカの歴史を実感していない僕には肩透かしを食ったような作品に思えた。