おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

鉄砲玉の美学

2022-11-20 08:26:51 | 映画
「鉄砲玉の美学」 1973年 日本


監督 中島貞夫
出演 渡瀬恒彦 杉本美樹 森みつる 碧川じゅん
   小池朝雄 松井康子 荒木一郎

ストーリー
関西に本拠を持つ広域暴力団天佑会は、九州に進出する為に、同会に所属するチンピラ、小池清(渡瀬恒彦)を“鉄砲玉”として宮崎市へ飛ばすことに決めた。
この頃、清は何もかもツイていなかった。
兎のバイも全く思わしくないし、情婦のよし子(森みつる)とも喧嘩したし、ハジキ一挺に、自由に使える現ナマの百万円に「やりま!」とたった一言、清の返事は短かかった。
宮崎市での初めての夜。
恐怖と緊張で全身を硬わばらせながらも、清は「天佑会の小池清や」と名乗って、精一杯、傍若無人に振舞ったが、どこからも反撃の気配すらなかった。
一寸した傷害事件がキッカケで、清は最高の女を手に入れた。
地元の南九会の幹部・杉町(小池朝雄)の情婦、潤子(杉本美樹)である。
「最高に生きるという事はこういうことや!」と、もはや清は何も疑わなかった。
宮崎市から離れた静かな地方都市を潤子と腕を組んで散歩する清には、ヤクザの顔は微塵もなく、ただ、満ち足りた平凡な一人の若者の顔しかなかった。
こうして波は二十四歳の誕生日を迎えた。
だがその日、潤子の姿が彼の前から消えて呆然とする清。
天佑会の九州進出が中止されたことにより、バックの無くなった清めがけて南九会の反撃が開始された・・・。
行き場のなくなった清は大阪でレイプされていた女(碧川ジュン)を霧島へ強引に連れ出そうとした。
宮崎市へ来た当初から、一刻たりとも傍から離さなかったハジキは、遂に意外な方向に向けて発射されることになった。
数時間後、潤子と二人で行く約束をしていた霧島行きのバスの中に息絶えた清の姿があった。


寸評
全盛を誇っていた様式がガチガチに固まった東映の任侠映画に陰りが見え始めたころ、中島貞夫は任侠映画の美学に対抗するような菅原文太主演の「まむしの兄弟シリーズ」を撮っていた。
中島貞夫は東映の監督であるが、「鉄砲玉の美学は」ATG提携作品である。
任侠映画の美学を真っ向から否定するような内容の本作を東映では撮れなかったのかもしれないが、しかし同時期に東映では「仁義なき戦い」が封切られているから、どうしてこれがATGなのかと疑問に思う。
ともあれ、「鉄砲玉の美学」と「仁義なき戦い」は東映の任侠路線に終止符を打ち実録路線へ向かわせるきっかけを作った作品であったと思う。

映画はロックバンドの頭脳警察が唄う「ふざけるんじゃねえよ」に乗って始まる。
歌詞は以下のような過激なもので映画の雰囲気は出ている。
  まわりを気にして生きるよりゃ一人でかって気ままに
  でも決めてる方がいいのさ
  だけどみんな俺に手錠を掛けたがるのさ
  ふざけるんじゃねえよ 動物じゃないんだぜ
  バカに愛想をつかすより ぶん殴る方が好きさ
  俺を邪魔するしきたりは人が勝手に決めたもの
  それでやられたって 生きてるよりゃましさ
  ふざけるんじゃねえよ やられる前にやるさ

清は路上でウサギを売っている暴力団の下っ端だが、以前はどこかの店のコックをやっていたようだ。
あくせく働いていたのだろうが、町では自由を謳歌した自分と同じ若者が闊歩している。
いつか自分もいい服を着て美味いものを喰ってと思っているが現実は厳しく、今は風俗店で働くよし子のヒモのような生活を送っている。
度胸があって、自分は恵まれていないと不満を持っている奴ということで清が鉄砲玉に選ばれたが、鉄砲玉は敵地に乗り込んで大暴れし、敵側に殺されることによって抗争のきっかけを作るのが役目だ。
言ってみれば暴力団社会の特攻隊だ。
死ぬことを求められている立場だが、清は初めて大金と力を手に入れ有頂天になる。
「俺は天佑会の小池清や」をどうやってカッコよく決めるかとポーズを研究する無邪気な男である。
清が敵地で傍若無人に振舞えるのは持っている拳銃のせいではない。
関西の天佑会とい巨大組織の力の為である。
大きな態度でいられるのも会社の名前があるからで、当人の実力とは無縁のものであることが多いサラリーマン社会と同じだ。
組織によって守られていた清は、組織にハシゴをはずされ行き場がなくなり、誰も見向きをしなくなる。
鉄砲玉を命じた組の裏切りにあって殺されてしまうのかと思ったが、そうではない。
カッコの悪い死に方で、何処に美学があるのだろう。
一時の有頂天を味わって死んでいったことが清の美学だったのだろうと想像するしかない。

清はウサギを飼っていて、それを売ることで生計を立てていたのだが、小さければ可愛さが増して売れるが、大きくなったウサギはなかなか売れない。
よし子に飼われるようになったウサギはもりもりと餌を食べ巨大化していて売り物になりそうもない。
人生で初めていい思いをした清は、もう必要のない男だったのだ。