おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

断崖

2022-11-02 08:07:28 | 映画
「断崖」 1941年 アメリカ


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジョーン・フォンテイン ケイリー・グラント
   ナイジェル・ブルース セドリック・ハードウィック
   デイム・メイ・ウィッティ イザベル・ジーンズ
   ヘザー・エンジェル レオ・G・キャロル

ストーリー
良家の娘リナ・マクレイドロウは、 身持ちが固く、浮いた話の1つもない。
その事で彼女の両親も気を病んでいた。
そんなリナが、社交界の人気者ジョニー・アイガースと列車の中で知り合い、交際を始めた。
英国社交界の人気者ジョニイ・アイガースは学生時代から詐欺常習者だったが、さすがに相思の娘リナ・マクレイドロウとかけ落ちするときは真剣だった。
リナはジョニイが無一文であることを知り、熱心に仕事をもつことを勧め、その結果彼は従弟の財産を管理する職につくが、やがてリナは彼が従弟の財産を使いこんでいることを知り非常な衝撃を受ける。
続いて彼は友人のビーキーに不動産投資をさせるが、彼女はジョニイがビーキーの金を自由にした上で彼を殺すのではないかと憶測する。
ジョニイはパリへ出発するビーキーを見送ってロンドンに行くが、ビーキーはパリで死亡する。
リナはジョニイを疑っていたが、帰宅した彼の口振りから彼女の疑惑はいよいよ深まるばかりだった。
やがてリナは彼が保険金ほしさに自分を殺そうとしていると信じ始める。
そして彼が友人の殺人小説の著者イソベル・セドバスクから劇毒薬の秘密を探り出そうとしているのをみて、ますますその疑念を深める。
その夜、彼女はジョニイの勧める一杯のミルクを飲む気になれず、翌朝母親を訪ねるのだといってジョニイから逃れようとするが、彼はリナを自動車で送ろうと言い張る。
車が危険な個所に近づいたとき、彼の乱暴な運転ぶりにたまりかねた彼女は車から飛び降り逃れようとするが、ついにジョニイに追いつかれてしまう。
しかしそこで彼女がジョニイから聞いたのは意外な告白だった。


寸評
ジョーン・フォンテインがすごくいい。
深窓の令嬢がヤクザっぽい男に恋をすると言う話は設定を変えて度々撮られているが、ここでも良家の娘であるリナがプレイボーイでいい加減な男と結ばれている。
男はこの後ヒッチコック作品の常連となったケイリー・グラントである。
彼はいい加減な男なのだが憎めないところがあり、女性たちの人気者でもある。
まともな仕事はしていないらしく、必要な金は借金で賄っており、言うところの自転車操業をやっているのだが悪びれたところがない。
新婚旅行や新しい住まいもすべて借金である。
当てにしているのはリナが得ることができるであろう父親の遺産だ。
そんなジョニーだが、純粋培養で育ったようなリナには新鮮に映ったのだろう。
ジョニーがリナに恋するよりも、リナがジョニーに惚れこんでいるような姿が微笑ましい。
ジョーン・フォンテインがすっかりジョニーを夫として受け入れている様子が初々しい。
ギャンブルに入れ込んだり、借金を繰り返しても受け入れている。
現実社会で僕の知るところでは、この様な場合はしっかり者の妻が夫の不始末の尻拭いをしているケースが多いのだが、この映画ではジョニーが借金やら横領をして自分でケリをつけていっている。
サラ金地獄にみられるように、どんどん借金が膨らんでいき身動きがとれなくなる悲惨さは微塵も感じられない。
前半は滑稽すぎるくらいだし、ロマンチックなラブストーリーと思える描き方が続く。

それが後半には一変してくる。
リナがついにジョニーの行動に疑問を持ち始める。
相変わらず借金を繰り返し自分を欺いていることを知り、ついにはもしかすると殺人を犯すのではないかとの疑念を抱くようになる。
原題通りの夫への”疑惑”が持ち上がってきて、ついには自分も夫によって殺されるのではないかと思い始める。
リナが夫を信じ、夫を疑う二面性を見せるのだが、ジョーン・フォンテインがいやらしさを感じさせない良家育ちのお嬢さんを上手く演じている。
この映画はジョーン・フォンテインの映画だ。
今見ると、この映画に欠点があるとすればジョニーにケイリー・グラントを起用していることだ。
ケイリー・グラントが演じてきたキャラクターと、彼の兼ね備えた雰囲気からして、どうしてもジョニーがリナの想像しているようなことをするはずがないと思って見てしまう。
補足するように推理小説作家のイソベルが人物評として、ジョニーは人を殺せないと述べている。
もしかしたらと思わせるような俳優が演じていたら僕の印象はまた違っただろう。
あっけないと思われるような終わり方だが、ジョニーが言う「自分の生き方は変えられない」という言葉はいい。
結婚によって生き方を変えざるを得ないのは世の常だが、出来れば自分の生き方を貫きたいものだ。
彼はあいかわらずいい加減な男で有り続けるのだろうが、それを許容しそうなリナを思わせるラストだ。
そう感じさせるジョーン・フォンテインが、ヒッチコック作品中で唯一アカデミー賞の主演女優賞に選ばれているのは納得出来る。