おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

地中海殺人事件

2022-11-10 07:59:16 | 映画
「地中海殺人事件」 1982年 イギリス


監督 ガイ・ハミルトン
出演 ピーター・ユスティノフ ジェーン・バーキン ダイアナ・リグ
   ロディ・マクドウォール マギー・スミス ニコラス・クレイ
   シルヴィア・マイルズ コリン・ブレイクリー

ストーリー
イギリスの荒地で、ハイカーが婦人の死体を発見したと警察に通報し、その後、保険金が払われたロンドンの保険会社で、ポアロが重役から模造宝石に保険をかけようとしたホーレス卿の捜査を依頼された。
ポアロは彼に会い、「結婚の約束をした女優のアリーナに20万ドルの宝石を与えたのだが、彼女が他の男と結婚したので、宝石を取りもどしたところ、それが模造品だった」と聞かされる。
当のアリーナはアドレア海の孤島にあるホテルで休暇をすごす予定なので、ポアロもそこへおもむく。
ホテルの女主人ダフニはタイラニア国王の元愛人で、手切れ金の代りにこのホテルをもらったという人物。
アリーナとは昔、一緒に舞台に出たことがあり、二人は再会すると互いに笑いながら嫌味を言い合う。
アリーナが新夫ケネス、ケネスと前妻との間の子リンダとホテルに到着したのを待っていた人々がいる。
彼女を再び舞台に復帰させようというプロデューサーのオデルとマイラのガードナー夫妻。
ジャーナリストのレックスはアリーナの伝記を執筆したが、彼女は女優復帰を拒否、伝記の出版も拒絶した。
アリーナはラテン語教師のパトリック・レッドファーンと大っぴらにいちゃつき、人々の非難の目をあびた。
彼女のことでパトリックが妻クリスティンと喧嘩しているのを、多くの人が聞きつける。
ある日、ホテルを一人で出たアリーナは、ホテルと反対側の浜辺で日光浴をしていた。
パトリックとマイラがボートでその浜辺へ行きアリーナの死体を発見する。
ダフニの依頼で、捜査にあたるポアロ。
ちょうど、やって来たホーレス卿を含め、皆それぞれ犯行の動機を持っていた。
ポアロは皆のアリバイを聞き、誰一人としてアリーナを殺すことは不可能なことを知る。


寸評
始まってすぐに起きた殺人事件がポワロの担当する事件かと思ったら全く違う展開で、最初の殺人事件は何だったんだと思い続けていたら、この事件がここで登場するのかと意表を突かれた。
アーサー・コナン・ドイルが創作した名探偵がシャーロック・ホームズなら、アガサ・クリスティが創作した名探偵がエルキュール・ポアロである。
名探偵を主人公にした推理小説では、ラストシーンで名探偵が事件の全容を解き明かすのが洋の東西を問わず当然の帰着である。
それを原作としている映画も例外ではない。
本作でもポワロが事件の真相を解き明かしていく場面は畳みかけるものがあり秀逸な出来だ。
まず犯人を指摘してからそれぞれの出来事を犯人へとつなげていく。
その為にはそれまでに伏線が張られている必要があるのだが、見ているうちはそれが伏線だと気づかないように張られているから、謎が解き明かされた時に「なるほど、そうだったのか」の驚きが増幅される。
アガサ・クリスティの手腕なのか、それともガイ・ハミルトンの演出によるものか、おそらくその相乗効果によってもたらされた興奮だと思う。

ダフニがオーナーのホテルは国王から手切れ金代わりにもらったもので、一流ホテルという感じではない。
従業員を集めては教育しなければならないし、設備も問題があることを登場人物によって語らせている。
したがって泊り客がボーイを呼んでも来なかった、水道の蛇口をひねっても水が出なかったと証言することに違和感が全くない。
事程左様に細かなところにまで気配りがなされているのがこの作品の質を高めている。
それに比べれば前半は間延び感がある。
それぞれに犯行動機を持たせるために必要だったのだろうが、僕はその語り口が食傷気味となった。
ホーレス卿は結婚の約束をした女優のアリーナに20万ドルの宝石を与えたのだが、彼女が他の男と結婚したので宝石を取りもどしたところ、それが模造品だったことが動機とされる。
ホテルの女主人ダフニは一緒に舞台に出たことがあるが女優として成功したアリーナに嫉妬していることが動機。
アリーナの新夫ケネスはアリーナが若い男と親しくしていることへの嫉妬。
ケネスと前妻との間の子リンダは後妻であるアリーナを嫌っている。
プロデューサーのオデルとマイラのガードナー夫妻は再びアリーナを使った舞台を計画しているが、アリーナが承諾しないことで窮地に立っている。
ジャーナリストのレックスはアリーナの伝記を出費津済みだが、彼女は女優復帰を拒否し伝記の出版も拒絶したので出版がとん挫しそうだ。
パトリックとクリスティンの夫婦は関係が覚めていて、おまけにパトリックとアリーナが親しくなるのでクリスティンはよろしく思っていない。
ざっとそんな具合なのだが、アリーナへの嫌悪感はリンダを除いてどれもが気迫で、どうも殺人の動機になりえなく思えるのが弱いところだ。
だからラストの結末なのだろうが、どうしても前半が人物描写に偏り過ぎていたように思える。
アガサの着想が十分に描かれていなかったような印象で少し残念。