おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

天平の甍

2022-11-29 07:24:10 | 映画
「天平の甍」 1980年 日本


監督 熊井啓
出演 中村嘉葎雄 大門正明 浜田光夫 草野大悟 高峰三枝子
   高橋幸治 志村喬 田村高廣 井川比佐志 藤真利子

ストーリー
天平五年春、若い日本人僧、普照(中村嘉葎雄)、栄叡(大門正明)、玄朗(浜田光夫)、戒融(草野大悟)の四人が第九次遣唐使船に乗って大津浦を出航した。
普照は美しい許婚者、平郡郎女(藤真利子)と苦悩の末、別れての出発だ。
四人は唐の高僧の渡日要請の任務を持って洛陽に入り、そこで、挫折した留学僧や、経典を正しく日本に伝えるため写経に一生を賭している業行(井川比佐志)などに出逢う。
四人は玄宗帝に従い洛陽から長安に移るが、渡日を快諾してくれる高僧にはなかなか会えない。
日本を出てから十年目、一行は高僧の鑑真和上(田村高廣)の存在を知る。
この間、戒融は仏陀の真理を悟るため一人旅立っていった。
和上は一同の熱意に渡日を表明する。
しかし、日本人僧の帰国渡航は非合法であり、まして中国人僧が渡日することは赦されることではなかった。
普照らの行動は張警備隊長(沼田曜一)に監視されることになった。
そして、栄叡と道抗(陶隆司)は密出国の主謀者として逮捕され、自信を失った玄朗は一行から別れていった。
三年後、道抗は獄死し、栄叡は釈放される。
天宝七年、和上は渡日を決行するが、暴風雨に遭遇して失敗、栄叡は疲労と熱病で死亡する。
その頃、奈良朝廷は第十次遣唐船の出航を決定、四人が出てから二十年が経ていた。
普照は還俗した玄朗からその話を聞き、駐唐大使、藤原清河(高野真二)を訪ね、和上の渡日を要請する。
一方、和上は度重なる疲労から失明していた。
そして、一同の情熱に触れた張警備隊長の温情もあって、普照らは日本に向う船に乗った。
しかし、業行を乗せた第一船は嵐に会い写経した厖大な経典も人命救助のため無慈悲に海中に投げ捨てられると、業行もその経典と共に荒れ狂う波間に身を躍らせた。


寸評
近鉄橿原線の西ノ京駅を降りると目の前に薬師寺がある。
薬師寺前の細い道を北へまっすぐ300メートルほど行けば唐招提寺を囲む土塀に突きあたる。
右に折れるとすぐに唐招提寺の南大門がある。
このあたりは同じ奈良県でも東大寺界隈ほどの喧騒はない。
開門前に行くと本当に静かで、南大門から誰もいない掃き清められた境内を見ると、真正面に石の灯篭があり、そのすぐ向こうに金堂が見える。
両脇の松の木立の間にどっしりと構える金堂を眺めただけで背筋が延びる。
境内の御影堂を通り過ぎて奥まったところに御廟があり、それがこの寺を創建した鑑真和上が眠る墓所である。
鑑真が何度もの渡航失敗による失明をおこしながらも来日して帰化した故事を知るだけに感慨深いものがある。
映画はその鑑真和上を日本に向かえるために腐心する、普照や栄叡らの苦難の日々を描いている。

上映時間もそこそこあり、エピソードも色々盛り込まれているのだが、全体的には散漫で熊井啓はこの映画を通じて一体何を描きたかったのだろうと思ってしまうのが僕の第一印象。
郎女との恋模様なのはその最たるものだ。
当時においては中国に渡るのも帰国するのも命がけだったことはわかる。
したがって遣唐使船が嵐にあうスペクタクルは予想通りだが、唐に入ってからのエピソードの羅列はB級ドラマのような安っぽい演出に終始している。
日本映画だから仕方がないのだが、登場する中国人が皆日本語を話しているのはリアリティに欠けている。
描かれている時代は玄宗皇帝が楊貴妃に溺れて安禄山の変も起きる頃だから、唐の役人の中には玄宗に反感を持っていた人もいたのかもしれない。
密航を取り締まっている役人が鑑真を初め普照たちを見逃がすのはそのような背景があったのかもしれないが、鑑真や普照たちを見逃がす役人の心の内はよく分からない。
単に熱意に打たれたにしてはやけにあっさりとした描き方だ。

20年にも及ぶ滞在だから、現地人と結婚したりして現地に溶け込んでしまう人が出てきても不思議ではなく、この映画にも登場する阿倍仲麻呂などは高官になり、日本への帰国を果たせずに唐で客死している。
そのような人物として浜田光夫の玄朗が登場するのだが、結婚していて子供までもうけている。
日本への帰国を夢見ていて妻も同行する予定だったが、いざとなった時に帰国を諦めてしまう。
ドラマチックな場面だが、玄朗と妻の葛藤は何処にあったのだろうと思う。
鑑真が日本にやって来る歴史絵巻のダイジェスト版として見るなら気軽に見ることができる作品だが、映画の出来栄えとしては宗教の持つ崇高さにも欠けていて少し物足りなさを感じる。

評価されるのは中国本土でのロケシーンで、雄大な風景はこの映画に溶け込んでいる。
現地ロケをはじめ、日本ロケで得られたも映像はセットではない本物の魅力を出している。
鑑真和上の田村高広は、もともとが坊さん顔だし適役であった。