おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

罪の声

2022-11-16 07:45:33 | 映画
「罪の声」 2020年 日本


監督 土井裕泰
出演 小栗旬 星野源 松重豊 古舘寛治 市川実日子 火野正平
   宇崎竜童 梶芽衣子 宇野祥平 篠原ゆき子 原菜乃華
   阿部亮平 尾上寛之 川口覚 阿部純子

ストーリー
1984年、おまけ付きお菓子の有名メーカー「ギンガ」の社長が誘拐され、「くらま天狗」を名乗る犯人は、10億円もの身代金を要求したが、誘拐された社長は監禁場所から自力で脱出した。
しかし、くらま天狗は店頭のお菓子に青酸カリを混入すると脅迫し、警察に脅迫状を送り付けるという事件が起きたのだが犯人は特定できず、事件は未解決のまま時効を迎えた。
あれから35年、新聞社に勤める阿久津(小栗旬)が平成から令和に変わるこのタイミングで、この未解決事件を追うという企画の担当を任されてしまう。
途方に暮れていた阿久津は、社会部にいる鳥居(古舘寛治)から情報を得て、ロンドンに飛ぶ。
当時、怪しい動きをしていた中国人の噂を聞くためだったが、阿久津はそこに繋がる情報は得られなかった。
そのころ、テーラー曽根の二代目店主である曽根(星野源)は、家の押し入れから父の名前が書かれた箱を見つけ、そこには英語で何やら書かれた手帳と、1984と書かれたカセットテープが入っていた。
曽根がそのテープを再生すると、自分の幼少期の声が流れてきた。
読み上げるように話す過去の自分、そして曾根は手帳に「GINGA」と「MANDO」の文字を見つけ、過去にあったギンガ・萬堂事件を調べ始める。
さらに曽根は、時効を迎えたこの事件で、脅迫で使われた男の子の声が、先ほどの録音された自分の声と同じだということに気づいて驚愕する。
阿久津は水島(松重豊)からの情報で、当時ギンガ株の外人買いが進んでいたとの情報を得た。
当時を知る立花という証券マンに会うと、「ギン萬事件」は空売りを使って利益を得ていたのではないか、という可能性を指摘された。
このことが事実なら企業から一円も受け取っていない「くらま天狗」の本当の目的がみえてきた。


寸評
映画では「ギンガ萬堂事件」となっているが、モデルは「グリコ・森永事件」であることは明白である。
ギンガは江崎グリコ、萬堂は森永製菓のことだし、その他にも丸大食品、ハウス食品、不二家、駿河屋とわかる社名が変更されている。
「くらま天狗」は「怪人二十面相」であった。
道頓堀のグリコの看板もギンガに変更されているのだが、フィクションであることは分かっているのだからそのままで表現しても良かったと思うのだが、現存会社との関係でそうなったのだろう。
新聞紙上やテレビでセンセーショナルに報道されていたので僕もよく覚えている事件で、僕にとってのミステリー事件としては三億円事件とこのグリコ・森永事件が双璧である。
当時の報道を知っている者にはよくわかる内容になっているが、この事件を知らない者にとっては少々分かりにくかったのではないかと感じた。
フィクションではあるが実によくできていて、脅迫文や事件の発生日時が事実通りなので犯人グループにはリアリティがあり、本当にそうだったのではないかと思わせるものがある。

脅迫電話に子供の声が使われていたことはその通りで、言われてみればあの時の子供は今どうしているのだろうとの疑問は沸いて当然なのだが、事件の風化はそんな気持ちも奪っている。
映画はそこを掘り下げて、当時は子供だった者が大人になって苦しんでいる姿が描かれていく。
当初は別々に描かれていた阿久津と曽根だが、真相を知りたいと言う思いは共通である。
入れ替わるように描かれる二人の行動がシンクロし、ついには合流する描き方はサスペンスらしい。
当時の者たちは今どうしているのだろうとの疑問は、かつての学生運動の過激派のメンバーにも言える。
ここでは曽根の叔父である達男と、曽根の母親である真由美が登場する。
警察憎しで、母親の真由美は事件に加担したのだが、真由美には子供が罪人になる可能性を心配するよりも、国家権力を憎む気持ちの方が強かったということだ。
真由美が母性を捨てて犯罪に加担した気持ちは映画からは感じ取れなかったし、真由美があのテープを処分せずに残していた訳もよく分からなかった。
僕ならそんなヤバイものは早急に処分しただろうにと思うのだ。

一方で、あの時の子供の声は自分だと明かすことにした総一郎の行動は、現実にあってほしいものだが、真相は未だに闇である。
しかし、フィクションとしては説得力のある設定だし、姉の死を伝える場面もなかなかいい。
何よりもいいのは、フィクションと分かっていながらも、警察は発表していないがここで描かれたことは真実なのだと思わせる説得力を持っていることだ。
怪人20面相が多額を脅迫しておきながら現金を手にすることがなかったことの理由を納得させられた。
また警察の大失態と言われた滋賀県での取り逃がしの分析も納得するものがある。
それまでは現金を手にする気がなかったのに、あの時は本当に現金を手に入れようとしていたと言う指摘も、なるほどと思わせる。
グリコ・森永事件を知っている者にとっては実に面白いサスペンス劇であった。