おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ダントン

2022-11-05 09:14:15 | 映画
「ダントン」 1982年 フランス / ポーランド


監督 アンジェイ・ワイダ
出演 ジェラール・ドパルデュー ヴォイチェフ・プショニャック
   パトリス・シェロー ロジェ・プランション
   アンゲラ・ヴィンクラー エマニュエル・ドゥベヴェール

ストーリー
1793年、夏。イギリス、オランダなど対仏同盟を結んだヨーロッパ諸国との戦争で混乱状態にあったフランスは国内では革命派の分裂、王党派の反乱などといった大きな悩みをかかえていた。
9月5日、革命の敵を制圧するためにロべスピエール中心の公安委員会は、恐怖政治を行ないはじめた。
この時以来、政治非常処置の権限を持った公安委員会は、ギロチンにかける処刑者を増やし、犯罪者、穏健派などが次々にギロチンの犠牲になっていた。
一時的に政治から離れていたダントンが革命に不安を抱いてパリに戻ってきたところ、パリの民衆は彼を大歓迎し、食料不足で苦しむ民衆はダントンの現実的な政策に傾いていった。
しかし、ロべスピエールと公安委員会は、ダントンと正反対の政策を考えていた。
勝利による終戦、さらに彼らに反対する敵対分子の一掃による革命の遂行だった。
ダントンとロべスピエールの距離はどんどん広がっていった。
1794年3月。ダントンは、国民公会で協調精神の必要性を熱弁した。
そして二人の決定的な対立の前に、最後の和解を賭けてホテルの一室で会った。
しかし、それは、二人の絶対的な対立を改めて決定的にする会合に終わった。
3月30日、ロベスピエール独裁を打ちたてようと、公安委員会に集まったサン・ジュストらは、ダントン逮捕を打ちたて、公安委員会から派遣された軍隊がダントン、デムーラン、フィリポーら、ダントン派を逮捕した。
4月2日からダントン派を裁く革命裁判が開始された。
裁判官フーキエは、「政府に対する陰謀を企んだ」という罪でダントンたちを告発。
それに対しダントンは民衆に「私は民衆の幸福と正義を望んでいるのだ」と語り掛けた。
事態に驚いたロベスピエールは、新たな法令を設けてその発言を禁止してしまう。


寸評
世界史の授業でフランス革命は「雛焼く年はフランス革命」と覚えたのだが、フランス革命は1789年だけで終わったのではなく始まりにすぎず、革命は 1789年7月14日から1795年にかけて行われた。
その間、1789年にはバスティーユ牢獄を襲撃した事件があり、1793年に王妃マリー・アントワネットがギロチン処刑されている。

映画は革命勃発後に外国から侵略されたり、国内における度々の政権闘争を経た後のロベスピエールが公安委員会に迎えられた1793年からの2年間を描いている。
映画の焦点は革命成功後のダントンと、ジャコバン党の同志ロベスピエールの確執にある。
政治姿勢のズレから、ジリジリと憎悪を燃やしていく二人の姿を、ワイダは冷徹に描いている。
王政を倒して国民主権の世の中を作ることでは一致していたはずだが、路線の違いから二人は敵対関係になってしまう。
ダントンの演説は迫力があり、ロベスピエールが決断に至る苦悩もにじみ出ているのだが、いかんせん僕はフランス革命の顛末をまったく知らず、ここに登場する人物も誰一人知らない。
二人の関係は明治維新における大久保と西郷の関係と同じだ。
大久保と西郷も盟友だったはずだが、最後には西南戦争で西郷は敗れ去ることになっている。
これが明治維新を背景にした大久保と西郷の話なら、僕はもっと楽しんで見ることができただろうと思う。
この映画は歴史物であるのだが、登場人物になじみがないことが興味を削がれてしまう要因の一つになってしまっていて、僕の無知が作品を可哀そうな目に合わせている。
とは言うものの、フランス革命も紆余曲折があったのだということは知り得た。
国家として無政府状態は良くないことは明白である。
政治は必要だが、同時に政治は複雑な要因を持っているものなのだとも感じる。
王政を倒した混乱時においては恐怖政治も必要だったのかもしれない。
しかしいつまでも恐怖政治を続けていれば、むしろ王政の方が良かったのではないかと思えてきたに違いない。
どうしてロベスピエールが恐怖政治に走ってしまったのだろうと疑問に思う。
王政を倒してどのようなフランス世界を描いていたのだろう。
権力を握るためには敵対勢力を力づくで排除するのが常なのだろうか。
ロベスピエールは病に犯されながら、どうしてこの様な誤った道を進んでしまったのかと後悔しているが、彼にもその理由が分かっていないのだ。
時の流れを止めることも、自分を取り巻くその時の雰囲気に抗うことも人知の及ばない事なのかもしれない。

ラストシーンでロベスピエールが寝込んでいるベッドのそばに彼の幼い息子がやって来て人権宣言を暗唱する。
冒頭で暗唱できずに母親からひっぱたかれていた息子がやっと暗唱することができたのだ。
息子が暗唱する人権宣言の内容はロベスピエールが行ったことと真逆の内容となっている。
息子の声がエンドロールにかぶさって流れ続けるのが一番唸った演出だった。
史実によればロベスピエールも処刑されることになったようなのだが、そのことは描かれなかった。
多くの国は血を流して自由を勝ち取っているから国歌の内容が勇ましいのだなと分かる。