おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

魂のジュリエッタ

2022-11-01 07:34:14 | 映画
「魂のジュリエッタ」 1964年 イタリア / フランス


監督 フェデリコ・フェリーニ
出演 ジュリエッタ・マシーナ サンドラ・ミーロ マリオ・ピスー
   シルヴァ・コシナ ヴァレンティナ・コルテーゼ
   カテリーナ・ボラット フレデリック・レデブール

ストーリー
夫を愛し、ひたすら従順で貞節な妻ジュリエッタ。
15年目の結婚記念日を2人で祝おうと準備をしていたところ、すっかり忘れていた夫ジョルジョは大勢の客を引き連れて帰ってくるが、ジュリエッタは笑顔を絶やさず皆をもてなした。
客の1人の胡散臭い霊媒師のもと、交霊術が始まるが、ジュリエッタは霊に無価値な人間だと言われて一瞬意識を失った。
翌日、近くの海辺で居眠りをしていたジュリエッタは幻覚を見る。
最近無言電話も多いとメイドに聞かされたジュリエッタは夫の浮気を疑い始めた。
ジュリエッタは、友人の誘いで有名占い師のもとを訪れて相談すると、「愛される努力をしろ」と言われ、「今夜素敵なことが起こる」と予言される。
家に帰るとジョルジョが魅力的な友人ホセを招いていた。
ジュリエッタは優雅な仕草とロマンチックな言葉を繰り出すホセに揺れるが、その晩、夜中に声を潜めて電話をするジョルジョに疑惑はますます深まった。
姉の助言で、興信所に調査を依頼したジュリエッタは、祖父が踊り子と駆け落ちして数年後に戻ったこと、学校の劇で炎に焼かれる殉教の天使を演じて祖父が激怒したことなど、幼い頃のことを思い出していた。
自由奔放に快楽を追求する隣家のスージーと話すうち、どこからか「スージーに従え」という声が聞こえてくる。
やがて興信所の調査結果が分かり、ジョルジョはガブリエッラというモデルと浮気しているという事実を突きつけられ、ショックを受けたジュリエッタは、招待されたスージーのパーティーに赤いドレスをまとって参加し、スージーが用意した美青年と楽しもうとするが、火刑の少女の幻覚が見えて逃げ帰った。
弁護士の友人は離婚訴訟を起こすべきだと言い、居合わせた心理学者からは「物事に囚われすぎている、一人になるのを恐れているが、本当は一人になりたいのだ」と告げられた。


寸評
大雑把に言えば、15年間平穏な結婚生活を送ってきたジュリエッタが夫の浮気を知り思い悩むと言うだけの話で、彼女の心象風景を神秘的にきらびやかな色彩で表現しただけの映画と言える。
初めてのカラー作品となるフェリーニが、スクリーンをカンバスとして抽象画を描きまくったと言う印象だ。
兎に角画面は原色を中心としてカラフルで、中でも赤い色が目に付いた。
ジュリエッタの着ている赤い服だったり、猫に結んだ赤いリボンなどが目に焼き付く。
フェリーニ的な映像魔術の域を超えて、詩的なイメージがとりとめもなく描かれ、そしてそれがきらびやかに展開して官能的に訴えかけてくる。
特にジュリエッタが見ている夢の世界と、幼児体験した世界の映像は神秘思想への傾倒が著しい。
ジュリエッタが海辺でロープを曳いた時に現れる物は一体何を著していたのだろう。
そんなシーンが随所に現れてくる。
映画は娯楽であるとともに映像芸術でもあるが、この作品においては明らかに娯楽性よりも映像芸術性が勝っている作品となっている。

眠っている夫がもらした女性の名を聞いたジュリエッタは夫の浮気を疑う。
これは当然と言えば当然だ。
男であれ女であれ、そのような状況になれば今迄の生活が欺瞞に満ちたものであったと悟るに違いない。
そうした時に、果たして自分に真の自由はあったのだろうかの思いが湧くことは分かるような気がする。
そもそも夫婦は別人格の二人が一緒になり、お互いを理解し合いながら相互扶助して維持していく関係なのだから、どちらか一方が自分の思い通りに生きていいものではない。
ジョルジュは家庭を粗末にしているわけではないので、ジュリエッタはメイドが二人もいる夫婦生活に疑問を持ってこなかったのだろう。
ある時期から何で私だけがとの気持ちが湧いてくると夫婦関係に隙間風が吹いてくる。
夫婦関係のもろさなのかもしれない。
それが分かっているから財産分与などできない普通の家庭では、知らぬふりをするか我慢しながら普段通りの生活を送っているのではないか。
そのようにして維持されている庶民の夫婦は、回りの人たちから円満な夫婦の評価を受けているのだろう。
ジュリエットの家庭は裕福そうだから、そのような気持ちにはとてもなれない。

ラストシーンでジュリエッタは一人で森に向かって歩き出すが、あれはジュリエッタが夫や家庭に縛られていた生活から自由を得たと言うことなのか、それとも夫に見捨てられて一人ぼっちになってしまったと言うことなのか、どちらにも解釈できる描き方で、観客に宿題を残している。
ジュリエッタの表情はうかがい知れないが、前者ならば喜びに満ちた表情をしているだろうし、後者ならば哀しい表情をしているだろう。
果たしてどちらだったのだろう。
僕は、スージーに言われたように、一人になることを哀しんでいるように見えるが、本心はジョルジョと別れて一人になりたかったのだろうと思う。
ジュリエッタ・マシーナの魅力によるところが大きい作品である。