おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

チェ 39歳 別れの手紙

2022-11-06 07:55:48 | 映画
「ち」の3回目ですが、1回目は2019/10/27の「チェンジリング」から、以下「地下室のメロディー」「近松物語」「父親たちの星条旗」「父、帰る」「父と暮せば」「血と骨」「チャイナタウン」「血槍富士」「忠臣蔵外伝 四谷怪談」「沈黙 -サイレンス-」「沈黙 SILENCE」と続きました。
2回目は2021/5/24の「小さいおうち」から「小さな恋のメロディ」「地上最大のショウ」「チィファの手紙」「チェイサー」「チェ 28歳の革命」「チャイナ・シンドローム」「チャップリンの黄金狂時代」「チャップリンの殺人狂時代」「チャップリンの独裁者」「忠臣蔵」「超高速!参勤交代」「チョコレートドーナツ」「チ・ン・ピ・ラ」を紹介しています。

「チェ 28歳の革命」は2021/5/29に紹介しています。

「チェ 39歳 別れの手紙」 2008年 フランス / スペイン


監督 スティーヴン・ソダーバーグ
出演 ベニチオ・デル・トロ ヨアキム・デ・アルメイダ デミアン・ビチル
   カルロス・バルデム エルビラ・ミンゲス フランカ・ポテンテ
   カタリーナ・サンディノ・モレノ ロドリゴ・サントロ
   ルー・ダイアモンド・フィリップス

ストーリー
1965年3月、キューバ革命に多大な功績を残したゲバラだったが、「サトウキビ農場の視察に行く」と言い残し忽然と姿を消す。
様々な憶測が飛び交う中、同年10月、やがてキューバの新たな指導者となるカストロはキューバ共産党中央委員会の場で、チェの別れの手紙を公表する。
「今、世界の他の国々が、僕のささやかな助力を求めている。別れの時が来たのだ―」。
その手紙によれば、ゲバラは自分を必要とする場所へ身を投じるという信念を揺るぎないものにしていた。
チェはキューバでの地位や市民権をすべて放棄、再び革命の旅への準備を進めていた…。
1966年。禿頭の中年男ラモンが、ゲバラ家を訪れる。
それはチェが扮装した姿で、彼は“父の友人”として子供たちと食卓を囲み、妻アレイダと最後の時を過ごすと、密かにボリビアへ向かった。
ボリビアはアメリカと強固な関係を築くバリエントス大統領の独裁政権下にあり、農民やインディオは圧制と貧困にあえいでいた。
チェの命を受けて諜報活動をしていた女性戦士タニアも加わり、新たな革命戦争が始まるが、ボリビア共産党の協力が絶たれたことでゲリラ軍は急速に孤立し迷走していく。
ボリビア政府軍は、アメリカの援助を受け、爆撃機まで投入した大規模な一掃作戦を展開。
一方、ゲリラ軍は、地元民に裏切られ、食料や医薬品、武器や弾薬さえも尽きかけていた。
1967年10月8日。生き残った17人のゲリラ兵は追い込まれ、チェは戦闘で負傷、ボリビア政府軍に捕らえられる。
翌10月9日。ボリビア政府の指示により、チェは処刑された。享年39歳。


寸評
チェ・ゲバラの半生を描いた作品の後半で、前半がキューバ革命におけるゲバラを描いていたのに対し、後半の本作ではボリビアでの革命を目指しながら滅んでいく彼の姿を描いている。
前作同様ソダバーグは過剰な演出によるエンターテイメント性を拒否し、ゲバラに対しても素晴らしい人だったと称賛したり、また逆に真の姿はこうだったといったような描き方もしていない。
あくまでゲバラの人生を客観的な目線で追いかけていて、映像はドキュメンタリー風である。
余りにも客観的過ぎて面白みに欠けるのだが、それは僕が映画に期待していたものとソダバーグが描きたかったものとの差異によるものだろう。

ゲバラは、庶民を救うための革命は武力闘争を持って初めて成功するという考えで、キューバではそれが上手くいったがボリビアでは失敗に終わっている。
僕には革命が成功する前半の方が曲がりなりにも楽しめる要素が多かったのだが、本編では政府軍に追い詰められて彷徨っているシーンが多くて少々退屈した。
ゲリラ軍を指揮してもがいている彼の姿を見ていて思ったことなのだが、それは彼ほどの人物にしても成功体験にしばられて同じ行動を取り続けてしまうのだなということである。
成功体験を自慢する人もいるし、上手くいった経験に固守しすぎてアドバイスに耳を貸さなかった人などは、振り返ってみれば自分の周りにもいた。
もちろん僕自身にもそのようなことが無きにしも非ずであったような気もする。
キューバの独裁者だったバティスタの失敗は殺せるときにフィデル・カストロを殺さなかったことだとして、ボリビア政府はゲバラの処刑を命じる。
良きにつけ悪しきにつけ失敗から学ぶことは多い。
見方を変えればこの映画はゲバラの挫折の物語で、人の挫折を見るのは楽しくはない。

当時は東西冷戦のさなかで、アメリカは共産主義の拡大を防ぐために親米のボリビアを支援していた。
ボリビア政府のゲリラ掃討部隊を訓練指導するアメリカ政府派遣の人物が登場する。
男はベトナム戦争経験者で5ヶ月で鍛え上げると言う。
ゲバラを捕まえるため、米中央情報局(CIA)から派遣された工作員はフェリックス・ロドリゲス氏だったようだ。
アメリカに支援された政府軍の兵力と武器の前にはゲリラ軍は歯が立たない。
追い詰められているのは分かるが全体の戦況はどうなのかはよく分からない。

歴史にもしは禁物だが、しかしもしもゲバラがボリビアでの革命を成功させていたら南米はどうなっていただろう。
ブラジルにもチリにもアルゼンチンにも革命が起きて共産主義国家が生まれていたのだろうか。
ゲバラはそのような世界を望んでいたのだろうか。
それともただ革命を起こすことに生き甲斐を見出していたのだろうか。
彼には妻や子もいたが、銃殺される前に残される家族のことをどう思っていたのだろう。
凡人で能天気な僕はどうもコスモポリタン的な発想が出来ないでいる。
僕は小市民なのだと思う。