蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

夢、果てしなく……(その4)

2007年12月04日 | 季節の便り・旅篇

 ホテルのビーチから、コルテス海に上る朝日を拝み、太平洋に没する夕日を見送り、プール・サイドで寛ぎながらマルガリータを楽しむ愉悦の日々が続く。11月14日、予定していたLand’s End (地の果て)での2回目のダイブは、オスカルさんが風邪のため雅美さんが店番することになって、中止となった。

 娘が代わりのサプライズを用意してくれた。ホテルからタクシーで20分ほど、コルテス海のサンタ・マリア・ビーチでのシュノーケリングである。荒野の中にメキシカンの青年が一人ぽつんと番をする空き地で車を降り、サボテンと潅木の中を暫く汗して歩くと、美しい入り江に出る。真っ白な小砂利のビーチに、機材を貸し出す小さな小屋があるだけの静かなダイビング・スポットだった。港から入れ替わり様々なボートが訪れ、暫くシュノーケリングを楽しんではまた去っていく。船の上から美味しそうな匂いと、賑やかなメキシカン・リズムが漂ってくる。目ざとい娘が、潮を吹き黒い背中をうねらせて波間に没する鯨を見つけた。残念ながらビーチの輝きに見とれていた私達は、海中に没したあとのしぶきを見ただけだった。
 波打ち際にアンチョビの群れが流れるように輝く海にはいると、すぐそこに岩礁が広がり、色とりどりの魚群が遊ぶ。マスクの前に繰り広げられた龍宮城、この海の豊かさを思い知らされた半日だった。「潜れなくても、こんなに綺麗で豊かな魚達が見られて……!」と、家内の歓声が波間に弾ける。クッキーのかけらを撒いて魚影に囲まれ、ここにも至福の時間があった。

 コルテス海(カリフォルニア湾)の北の深奥部には、コロラド川が注ぎ込む。遠くロッキー山脈に源流を発し、コロラド北西部を流れ、ユタ州、アリゾナ州を経てメキシコ北西部からコルテス海に注ぐ。途中コロラド高原を侵食してグランド・キャニオンの深い渓谷を造り、不夜城・ラスベガスの電力を賄うフーバー・ダムを可能にした総延長2,330キロの大河である。ミネラル豊富な河口から植物性プランクトンが大量に発生し、それを食べる動物性プランクトン、オキアミを狙って魚群やいろいろな海獣が集まり、深い海に住む巨大なイカを追うマッコウクジラや、世界最大の哺乳動物シロナガスクジラ、ザトウクジラ、コククジラ、巨大なジンベイザメ等、豊饒の海で幾つもの食物連鎖の輪が完成する。冬場になると、その鯨たちがアラスカから南下し、ロス・カボスのランズ・エンドを回り込んでこの海に入り込んでくるのだ。

 午後、もう一つのサプライズを娘が用意してくれた。ホテルから15分歩いた所に、新しくイルカと泳げるプールが出来ていた。連日大型のクルーズ船が港にはいり、沢山の観光客を送り込んでくる。3年前に比べ人が増え、物価が上がり、設備が増えた一方で、土産物屋もすれてしまったのが寂しい。無愛想になった店先では、笑いながら値引きの攻防を楽しむことも少なくなってしまった。そのクルーズ客が船に戻る頃合の夕方の予約を入れて、牝イルカのジェニーとの触れ合いを楽しんだ。鰭を振って歓迎の挨拶をしたり、キキキと笑って頭を振りたてたり、仰向けになって胸鰭を両手で掴ませ、背泳ぎでプール中を引き回してくれたり、一緒に写真を撮らせてくれたり……何故かすっかりなつかれて、しきりに擦り寄って来ては身体を触らせてくれるのが楽しい。

 日本語が聞こえてこない快感と安らぎを感じながらホテルのプール・サイドに出ると、顔なじみになったメキシカンのボーイが「オーラ(やあ)、バナナ・マルガリータ?」と声を掛けてくる。白人よりも日本人に優しいメキシカン、真っ赤な夕日の中、ホテルの上をいつまでもコンドルが舞って、異国の一夜が今夜も暮れようとしていた。
     (2007年12月:写真:波間に光るアンチョビの群)

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2 コメント

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夢に挑戦! (わさび)
2007-12-07 23:17:23
益々キータッチが冴えて来て・・・
臨場感たっぷりな文章にワクワクドキドキ・・・
いいな、いいな~~羨ましい!!!!
ここではととろさんもシュノーケリング、イルカちゃんとのお遊びを一緒に楽しまれたようですね~♪
ととろさんのはしゃぐ声が聞こえてきそうです(笑)
イルカはキキキ~~
ととろさんは、キャキャキャ~~(笑)
すっかりイルカ君になつかれてしまったことでしょう。

人生前向き、何事も挑戦すれば、こういう夢のような世界が待っているのですね!
益々、私も行動しなくちゃ!
実は、アラスカ・ユーコンの川下りに挑戦したいのですが・・・
ヒマラヤもね。
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娘さんも活躍 (すず)
2007-12-12 11:50:51
外国でいろいろな経験を出来る嬉しさと
娘さんと行動できる嬉しさ
自然の中のすばらしさ 何もかもが素敵なものに
私には感じています 文面からしか私には
想像が出来ませんけど いつときでも
綺麗な世界に導かれているようです  (*・∀・)ノ.ア☆.リ。ガ.:ト*・°
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