蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

超新星爆発 !

2005年12月18日 | つれづれに

 遅れてきた冬将軍の太刀風は思いのほかに鋭かった。師走半ばを過ぎて、数年に一度という厳しい寒波がやってきた。北国の豪雪のニュースからすれば取るに足らない雪ではあるが、凍てついた大地に散る雪は解けることもなく、うっすらと薄化粧を拡げている。庭のつくばいに滴る雫が、一夜にして直径5センチ程のつららに育った。膨らみ始めたソシンロウバイやキブシ、ツクシシャクナゲの蕾に白い粉雪が降りかかる。鉢の一つにはヤマシャクヤクの新芽が早くも頭を覗かせていた。厳しい寒さの中に忘れず春の準備を進める花達には、毎年のように驚かされる。
 夜半、窓の外で冬の嵐のような木枯らしがヒューヒューと鳴いた。その風音に紛れるように、小さな地震までが屋台を揺すった。夏大好き人間の私にとって、冬眠に憧れる季節の到来である。

<師走の断片>
 月始めの一日、終日かけて14枚の障子を張り替えた。ささやかな我が家の正月準備である。それは、教えてくれた父を偲ぶひとときでもあった。一枚張りの障子紙もあるが、やはりこだわりがある。逆さまに立てて上から桟一段ごとに張り重ねていく古くからのやり方がいい。一夜明けて、ピンと張りつめた真っ白な障子を部屋ごとに立て戻していく時の爽快感は何とも云えない。

 2週間かけてアジア諸国を仕事で駆け回った下の娘は、日本に立ち寄る暇もなく最後の1日、タイ・プーケットで束の間のダイビングだけを楽しんで、今日ロスに向けて帰っていった。上の娘は孫達を連れてグアムに避寒の旅に出る。こうして久しぶりに家内と二人だけの寂しい正月を迎えることになった。

 年賀状の宛名を書き上げた。今年は、その名前に春の到来の願いをこめて、ユキワリイチゲの淡いピンクの花の写真を添えた。久住・男池の近く、かくし水に至る散策路のスナップである。書きながら、32枚もの喪中欠礼の葉書を前に呆然とする。そんな、彼岸に近い年代に差し掛かっている現実を容赦なく実感させられる。

 太宰府天満宮周辺は三が日で200万以上の参拝客の車で埋まる。出掛けたら深夜まで帰って来ることが出来ない地元住民は、ただひたすら籠城するしかない。九州国立博物館特別展第2弾「中国・美の十字路」が元旦から始まる。この正月の渋滞はもう予測のしようがない。頭を抱えながら、実は「わがまち・石坂の誇る国博!」と満更でもない気分である。徒歩7分、石庭の光明寺と並んで「我が家の応接間」と勝手に決め込み、ひそかに来客を待つ昨今である。

 昨冬の大雪の一夜、降りしきる夜空に向けてストロボを焚いた。一瞬の光が雪の一片にシンクロして不思議な写真が撮れた。大宇宙の一点描のようなその写真に「超新星爆発!」とタイトルを付け、再びの冬のエッセイに使おうと待っていた。その待望の雪が舞った。
           (2005年12月:写真:雪降る夜空)