蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

炎天に、秋立つ!

2022年08月07日 | 季節の便り・花篇

 例年になく、百日紅(サルスベリ)の紅が濃く感じられる。その紅の花房を、午後の苛烈な日差しが容赦なく叩く。この炎天に、姦しいセミの声も絶え、人声もしない日曜日である。洗濯物を取り込む背中に、重みを伴うような日差しが痛い。

 猛暑日が当たり前になった。37.4度という体温を超える暑さも、近年は異常とは言えなくなった。どう弁解しようと、地球温暖化はもう否定できない。40度を超える炎熱に死者が相次いだヨーロッパをはじめ、旱魃と洪水のニュースが後を絶たない。天災に名を借りた実は人災、ロシアの暴挙が世界中の食材と燃料の流れを滞らせ、便乗も含めた値上げのカーブが登り続ける。
 世界最多のコロナ第7波は衰えを見せず、人口7万1千あまりの小さな大宰府市でさえ、連日三桁の感染者を出し続けている。「重症化リスクの高い高齢者は、不要不急の外出を避けてください!」と、国のトップは無策のツケを高齢者に向けてくる。「ざけんなよ!いま発症しているのは若者や子供たちであり、最も自粛して家に籠っているのは高齢者だろう!」と憤っても虚しい。アベ、スガに続くキシダ政権、これほど貧弱な閣僚を据えた内閣も珍しい!茶番の朗読劇しかやる能力のない人間が、国の政治を司っている日本の将来に、若者は何の希望を見出だせるだろう。
 ―――腹を立てても甲斐なく、暑苦しさが一層増すだけだった。

 8月7日、立秋。暦の中の秋は、現実には35.6度、微塵の気配さえ感じられない立秋だった。懸命に小さな秋を探してみても、8月3日に、昨年より4日早くツクツクボウシが鳴き始めたこと、朝の散策の傍ら、小さな水音を立てる湧き水の辺りでウスバキトンボの小さな群れを見付けたこと――子供の頃、ボントンボといって、空一面に払いのけたくなるほどの群れが飛んでいた。確かに秋に向かう小さな気配ではある。
 子供の頃、もう一つ空を覆う季節の生き物がいた。アブラコウモリ(家蝙蝠)である。日暮れになると、石を投げれば当たりそうなほど空一面を蝙蝠が覆っていた。天の川と並び、今は失われてしまった風物詩の一つである。
 気になっていることがある。我が家の軒下に棲んでいたアブラコウモリがいなくなった。この春まで軒下に落ちていた小さな糞や虫の食べ滓が、梅雨明けの頃から見当たらくなった。数年前には子供まで生まれていたから、少なくともひと番いは命を全うしていた筈なのに。また一つ、風物詩が失われていく。

 異常気象も、毎年繰り返し叫ばれると当たり前になってしまう。人間の適応力を超える速さで、環境悪化が加速しているのだろう。環境で滅ぶか、核で滅ぶか、残された選択肢を政治が自ら狭めつつ日々が過ぎ去っていく。この夏に、まだ滅びの色は見えない。

 7月2日始まった我が家の庭のセミの羽化は、7月21日72匹を数えて終わった。昨年の29匹に較べれば多いが、かつて120匹を越えた年に較べれば少し物足りない。ニイニイゼミ、クマゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、そしてツクツクボウシの季節になった。早朝の薄明に「カナ、カナ、カナ!」とヒグラシが鳴き、日が昇ると「ワーシ、ワシ、ワシ!」と姦しいクマゼミに変わる、やがてアブラゼミが「ジリ、ジリ、ジリ、ジリ!」と油照りの午後を引き継ぐが、今日の炎熱の午後はセミさえも鳴かない。木立の下で、蟻に引かれる骸も増えてきた。6年も7年も地中で暮らし、這い出て羽化してもせいぜい1か月、ひたすら繁殖の為だけの鳴きたてるセミの健気さ。雌に出会うこともなく、地に落ちるセミもいるだろう。そのひたむきな生きざまが哀れを誘う。
 やがて、「オーシーツクツク!」とツクツクボウシが懸命に秋を呼び寄せてくれるだろう。

 今年も、2匹のハンミョウ(道教え)が我が家の庭で狩りを続けている。庭師が入って綺麗に刈り揃えられた庭木の緑の中で、一段と百日紅の紅が燃え上がるようだった。
                       (2022年8月:写真:百日紅燃える)

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3 コメント

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おはようございます (wacky)
2022-08-09 07:06:56
ご隠居様、おはようございます。

今年は異常気象
本当に、毎日暑いです。
海と川に挟まれたわが町でさえ、この暑さですので、九州はさぞやと思われます。
どうか、お気をつけてお過ごしください。

さて、蝉のことなのですが・・・
先日、大阪に参りました時に、地下鉄から出た途端、物凄い蝉の大合唱に出会いました。
普段でも、我が家の周り、散歩道では殆ど蝉しぐれ煮さえ出会いません。
何とも表現できないのですが、これがひょっとして、クマゼミなのではと思いました。
説明不足で申し訳ございません。
とにかく、今まで聞いたことのない蝉の声でした。

ネットにも、関東と関西では蝉の声が違うという話が載っていました。

酷暑とコロナ、どうかお気をつけてお過ごしください。
クマゼミの北上 (蟋蟀庵ご隠居)
2022-08-09 11:12:12
wackyさん
 その「物凄い蝉の合唱」はクマゼミだと思います。「ワ~シ、ワシ、ワシ、ワシ!」と鳴きたてる音量は半端ありません。かつて西日本でしか鳴かなかったクマゼミが、温暖化とともに北上を続け、今では関東でも当たり前の蝉になりました。
 一説では、九州で育てられた街路樹が関東に運ばれ根っこの中にいた幼虫が居着いたという見方もあるようです。
 最も賑やかな蝉と言えるでしょう。庭の木立で数匹が鳴くと、耳鳴りがしそうな姦しさです。でも、これが真夏の風物詩。そろそろ最盛期を過ぎ、お盆明けからはツクツクボウシが主導権を握ることでしょう。
有難うございました (wacky)
2022-08-09 22:11:23
やっぱり、クマゼミなのでしょうね。

もともと耳鳴りに悩まされている私にはきつかった。
途中で、慣れましたけれど・・・
でも、蝉も時々鳴きやむことがあるんですね。
それは、蝉も鳴き続けるのは疲れる?ってことかなあなんて勝手に解釈しました。

早く、ツクツクボウシの声が聴きたいです。
もう少しの我慢かしら。

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