蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

夢、果てしなく……(その3)

2007年12月04日 | 季節の便り・旅篇

 11月10日、高校での授業の為に休めないマサ君を残し、娘と3人でロサンゼルスから南に飛んだ。メキシコにはいると、1300キロに及ぶバハ・カリフォルニア半島が果てしなく延びる。殆ど雨が降らない広漠たる砂漠と岩山の荒野である。その最南端、コルテス海と太平洋が境を接する岬の先端に、一大リゾート地 Los Cabosがある。小さな港を囲んで幾つもの豪華なホテルが建ち、長期滞在型のリゾート、ダイビング、フィッシング、そしてサボテンと潅木だけに覆われた砂漠の荒野を駆け抜けるATV(サンド・バギー)の走りを楽しめるアウト・ドア・スポーツの基地でもある。ここに、娘が11月の第2週を向こう30年間タイム・シェアの権利を持つホテル・Playa Grandeがある。
 2時間15分のフライトを経て、鋭い尾根にコンドルを舞わせる岩山を見ながら、San Jose Del Cabo空港に降りると、そこは乾いた常夏。空港からシャトルで小一時間、港沿いの街並みを抜けた岩山の先に、3年前とは見違えるほどに一段と拡張完成した豪壮なホテル・プラヤ・グランデが建っていた。大理石張りの床に自炊設備も完備した部屋から、5つのプールと3つのジャグジーの向こうにビーチが広がり、冬場はその沖をアラスカから南下した鯨が、コロラド川が注ぎ込む豊饒のコルテス海に回りこんでいく姿が見える。気温30度を超える常夏のこの海で、ワン・ランク上のダイバー資格を持つ娘とダイブするのが、今回のもう一つの大きな夢だった。

 早速港のダイブ・ショップDeep Blueを3年振りに訪ねた。日本語を話すオスカルさんと奥さんの幸子さん、それにプロの水中カメラマンでもあるダイブ・マスターの浅井雅美さんがいる。彼の素晴らしい写真は、ダイヤモンド社のトラベル・ガイドブック「地球の歩き方」シリーズのメキシコ編にも、ザトウクジラのブリーチング、エイの群舞、アジの群れと遊ぶシー・ライオン(カリフォルニア・アシカ)の姿など、何枚も掲載されている。彼が私のバディーとして付いてくれることになった。
 翌日、立っていられないほどのかなりの波と風の中を、小さなボートで港から出て数分、白砂のLover’s Beachを右手に見たら、もうダイビング・ポイントである。ペリカンが群れ遊ぶ小さな岩の傍、文字通りPelican Rock、水温24度のここが、私の初ダイビングの海となった。先にエントリーして待つ娘に続き、5ミリのウエット・スーツに機材を背負い、船べりに腰掛けて右手でマスクとレギュレーターを、左手でマスクのバンドを押さえて後ろ向きに倒れ込むバックロール・エントリー(実はこれをやることが、私の憧れであった!)で、夢のダイブが始まった。右のこぶしで頭を2度叩いてOKのサインを出し、雅美さんのエントリーを待つ。
 大きくうねる海面から潜行すればそこはもう穏やかな青の世界。透明度25メートル、砂地を這い岩礁を回り込むと、一気に1000メートルの海溝に沈む暗い深淵がある。もう少し潜れば、深淵に流れ落ちる海底の砂の滝Sand Fallも見られるという。雅美さんがサポートし、娘が見守る中、水深20メートルの海底散歩は、まるで夢の世界だった。(実は、私のライセンスでは18メートルが許された深度なのだが……)エンゼルフィッシュ、イエローテール、ハコフグ、ハーバーフィッシュ、メキシカンゴートフィシュ、ブダイなど色とりどりの魚に見とれ、砂に隠れたエイを追い立て、美しいイソバナが咲く岩礁の底を覗いて、時間はたちまち過ぎて行った。海底から見上げる水面はキラキラ輝く光の天井、そこに向かって無数の泡が私の口元から揺らめきながら立ち昇って行く……。

 「予定していたもう1本のダイブは、今日ちょっと条件が悪いので、日を改めましょう。」と雅美さんが言う。(その言葉の裏にあった意味は、後日解ることになる。)
 「お父さん、やったね!」娘と家内が笑顔を向けてくる。誰もが冗談と思った熟年ダイバーが一人、メキシコの海で感動の初ダイブに酔い痴れていた。マサ君が知る限り、2番目の高齢認定だったという。カタリナのボートの中でも、カボスのショップでも、68歳と聞いて「オ~!」と驚いてくれる。この歳でも、挑戦と発見、そして感動がある。上半身脱いだウエット・スーツを腰に垂らしたままで、観光客が行き来する港沿いの遊歩道をショップに戻る時の達成感と心の高揚!
 港の小さなレストラン「ラ・カリーナ」で、ライムを絞り込んだメキシカン・ビールを流し込んだ……甘露ここに極まった。
      (2007年12月:写真:我が水中遊泳)

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2 コメント

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Deep Blue (わさび)
2007-12-07 23:03:45
>上半身脱いだウエット・スーツを腰に垂らしたままで、観光客が行き来する港沿いの遊歩道をショップに戻る時の達成感と心の高揚!
カッコイイ~~~!!!!!!
カッコ良過ぎる~~~~!!!!

>冬場はその沖をアラスカから南下した鯨が、コロラド川が注ぎ込む豊饒のコルテス海に回りこんでいく姿が見える
まさに大自然の真っ只中、
映画「Deep Blue」のシーンを思い出しました。
ダイブショップの名前も「Deep Blue」
こちらの方が早いのかな?

クジラの泳ぐ海、カナダとオーストラリアで観てきました。
ペリカン、ペンギン、アシカも・・・
私も小さな体験を、この素晴らしいブログを拝見しながら思い出しております。
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感動の渦の中 (すず)
2007-12-10 13:51:05
綺麗な海のなかの散歩 みながあこがれるのですよ
しかし一つ間違えると怖い海の中娘さんや いいご相手が居られたのですべて成功 征服感は何にもました
喜びでしたね 文面から伝わってきます
よいしびれたご主人 また父上が本当に自慢の
家族になりましたね 上半身脱いだウエットスーツを
越にたらしてなんて映画に出てくるワーンシヘン見ているようですよ 充分私も 興奮の渦の中に
巻き込まれました また明日の文面が楽しみです
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