蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

秋は韋駄天

2010年10月17日 | 季節の便り・旅篇

 今年一番の、お気に入り会心作である。季節感を度外視して、毎年の年賀状にはその年一番のお気に入りの一枚を添えてきた。今年も残すところ2ヶ月余り……この一枚を超える絵が果たして撮れるだろうか?

 つい先日まで傲慢に残暑を引き摺っていた夏が、ようやく跡形もなく消え去って、駆け込んで来た秋は例年になく韋駄天走りである。水道の水が生暖かく感じられる朝冷えで、玄関先のハナミズキの落葉が俄かに繁くなった。起き抜けの早朝に掃き掃き終わって振り向けば、もう後ろで新たな落ち葉がカサカサと朝の微風に鳴る。かつて次女が8年住んだアトランタを偲ぶよすがとして植えた紅白2本のハナミズキだが、秋から初冬に掛けて朝晩の落ち葉掃きが欠かせない私の日課となった。早朝の犬の散歩の人たちや、登校する子ども達と交わす「おはよう!」の一声も、又秋の風物詩である。
 
 9月の晦日近い一日、うきは市郊外のつづら棚田を訪ねた。(市の名前が仮名表示になって、町の歴史も含めた香りが失せてしまった。やっぱり「浮羽」と書きたくなる。…ああ、又も年寄りの慨嘆。呵呵)猛暑の煽りを食って花時を遅らせたヒガンバナは、26日までの祭りの客足を鈍くしたという新聞記事に誘われ、祭りの終わった平日の早朝ドライブと決めた。刈り取りの済んだ稲穂と真っ盛りのヒガンバナのコントラストが、緩やかに反る棚田のラインに見事に調和して、今年一番のお気に入りの写真が撮れた。小川のせせらぎを渡り、斜面の小道を登り、田の畦を辿って、深まる秋の風を赤く染めるヒガンバナを愛でた。

 「道の駅うきは」で買い物を済ませ、国道を日田に抜けて、大山町の「木の花(このはな)ガルテン」のバイキングを楽しむことにした。「おばあちゃんの田舎料理」とも云うような素朴な味付けの惣菜が100種類ほど並び、ヘルシーなランチ食べ放題が嬉しい。しかも70歳以上には、ちゃんとシニア料金が用意してある。欲張らず、皿に食べ残さない適量を上手く盛り付けるのがバイキングのマナーでもあろう。海外の旅先で、バッフェ・スタイルの朝食を勿体ないほど食べ残して平然としている某国や某国の旅人に顰蹙すること頻りであり(年寄りの慨嘆その2)、最近は一段と盛り付けに気を配るようになった。

 満腹の腹を撫で撫で、「此処まで来たら……」といえば、そう、いつもの立ち寄り先がある。大山町からカーブが続く狭い山道を走り上り、杖立温泉を越えて小国の手前・下城の大銀杏……此処で馴染みの店で殻つきピーナツを買って、田舎道から「ファームロードわいた」を駆け上がった先には、此処もお気に入りの立ち入り温泉「豊礼の湯」が待っている。タオルやバスタオルの準備も怠りなく、車のトランクルームから手品のように取り出し(自画自賛)、今日も無人の貸し切りで露天風呂を満喫した。青空をバックに、近く湧蓋山(1500メートル)の稜線を見上げながら、コバルト色の濁り湯に浸って、韋駄天の秋風に頬を嬲らせていた。

 秋が韋駄天なら、この日の中身の濃い出来心ドライブも又、秋に負けない韋駄天走りだった。
              (2010年10月:写真:つづら棚田の秋)