山クジラの田舎暮らし

岩手県北の田舎に生息する「山クジラ」です。定年後の田舎暮らしや趣味の山行きのことなど、発信していきます。

『捨て童子・松平忠輝』=隆慶一郎著

2013-10-17 07:15:43 | 読書

 台風が接近し大荒れの天気で、皮膚科に行った他することがないので、隆慶一郎作の『捨て童子・松平忠輝』(上・中・下)を読み終えた。隆慶一郎という作家がいることは知っていたが、なぜかこれまで食指が動かなかった。読んだ本は講談社文庫版で、古書店に並んでいたのでとりあえず購入しておいたものである。

 隆慶一郎は1923年(大正12年)生まれで、東大文学部仏文学科を卒業して創元社に入社。後に立教大学講師、中央大学助教授としてフランス語を教える。1957年に本名である池田一朗名で脚本家として活動をはじめ、日活映画の『陽の当たる坂道』、『にあんちゃん』。テレビドラマでは『鬼平犯科帳』などを手掛けたという。私も観たものが多い!1984年、小説家としての第1作『吉原御免状』を週刊新潮に連載。この時はすでに60歳を過ぎていた。1989年(平成元年)死去。

 『捨て童子・松平忠輝』は、昭和62年~63年にかけ、「河北新報」などの地方紙に連載され、1990年に講談社より単行本となったものである。1989年には亡くなるのであるから、晩年の作品であるといって良い。この本では、徳川家康の子として生まれながら「捨て子」にされ孤独に生き、後に越後の高田藩で大名になりながら、2代将軍・秀長に疎まれる松平忠輝の生涯をえがいたものだ。読んでいてわかるのは、かなり隆氏の創作が入っていることである。同時に、忠輝という人を通して、自由に生きる素晴らしさを書きたかったのだろうと思う。作者は「執筆を終えて」の中で「『人外の化生』という言葉がある。文字通り、人間の世界の外で生きる怪物という意味だ。勿論、本当の怪物という意味ではない。人間でありながら、人間とは思われない能力と気質を持つ者を指す。歴史の中には『人外の化生』が夥しく現れ、いずれも尋常な死を迎えることを得ず、多く非業に死んでいる」と書く。「人外の化生」として生き、そういう人々(傀儡子など)と交流をもった忠輝の生き方に作者自身の強い共感を感じる作品だ。『一夢庵風流伝』や『影武者徳川家康』などの作品も読んでみる気になった。少し遅いか?