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ヤミ

2019-05-29 19:47:32 | 日記
女学生(いまの女子高校生)が同年代の男子学生のいる家に米を売りに来る。米は統制品であって、国の管理のもと、配給制度になっている。むろん、個人間の売買は許されていない。つまり女学生の行為は不法である。その不法で売買される米のことをヤミ米と言っていた。これが終戦まもないころに、石坂洋二郎さんが書いた小説『青い山脈』の冒頭の部分である。小説はまもなく映画化され、ヤミ米を売りに来る女性を杉葉子さんが演じた。つい先日、杉さんが亡くなった。90歳だった。

米の配給は不順だった。遅配が相次いだ。子供の腹を少しでも満たそうと、父親が汽車に乗って米を売ってくれる農家を探した。だが、帰りの汽車で警察の手入れを受けてしまう。父親は仕方なく、なけなしの金を払って手に入れた米を汽車の窓から線路の横の方に向かって投げ捨てた。逮捕を免れるためにそうするしかなかった。将に悲劇である。そんな時代があった。

終戦直後でも金持ちはいた。ほとんどがヤミで儲けた人達だった。もちろん米だけではない。中には進駐軍から手に入れた品を売る者もいた。食料品、衣料品、薬品など、ヤミ取引には高価なものもあった。端的に言えば、庶民はみんな貧乏だった。ヤミ成金が大きな顔をしていた。やがて東京・新橋にヤミ市なるものができる。表向きは違法でない品を売っているが、裏ではあれこれの怪しいものを売っていた。ヤミ市に行けばなんでもある、といった話が広まっていた。ヤミ市とは何だったのか。敗戦ニッポンにおける最初の自由経済の場だった。叔父が時々ヤミ市でサッカリンなる、透き通ったソウメンのように細いモノを買って来た。それを、湯に溶かすと甘い飲み物になった。それも美味かった。

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