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いつでも君のこと好きだったよ

与謝野町出張、千葉優作第一歌集『あるはなく』青磁社 

2022-12-09 22:39:17 | 日記

 きょうは京都府北部の与謝野町のセミナー立ち合いのため出張。遠い。

 

 京都発10時25分の特急はしだて3号に乗る。亀岡までの車窓から見える田んぼにも川岸にも山にも靄がかかっていて、まだ朝の眠りのなかを進むようだった。

 

 亀岡を過ぎたあたりからぱあっと青空が広がる。与謝野町のスタッフに「ふじたさん晴れ女やな」と言われた。

 

 行きかえりに読んでいたのは千葉優作歌集『あるはなく』。きのう届いたばかり。このあいだ現代歌人集会のイベントで千葉さんをお見かけしたけれど、話すチャンスがなかった。もう少し早く届いていたら話しかけにいったのになぁと悔やまれる。

 

 ちょうどきのうのここに書いていたような歌を見つけて、を、と思う。

 

 ・生きるとはこの世の信徒たることかゆふぐれ鈴かすてら配りつつ

 ・決裁の進まぬけふのぽつかりとかぼちやのいろのゆふぐれである   

 

 鈴かすてら。ベビーカステラと似ている。鈴カステラのほうはざらめの砂糖がまぶしてあるイメージ。しかも、決裁が進まない日の夕暮れ。私と同じだ。

 

 まだ栞文は未読だけれど、千葉さん、巧いなと思った。さらっと書いているけど深い。

 

 ・出棺を見送る父のこれ以上先へゆけないこの世の岬

 

 連作からお父さんが母である祖母を見送っている場面だと思う。結句の「この世の岬」がとてもよくて、ぎりぎりまで追いかけていくような、取り残され感が胸に迫ってくる。

 

 ・ひとはみな痛みに弱い鮭だから泣きながら思ひ出をさかのぼる

 ・両端を切り落とされた太巻きがあるべき姿として売られる

 ・失くしたと気付かなければえいゑんに失くしたものになれないはさみ

 ・ほんたうは僕が変わつたせゐなのに度が合つてないと言はれるめがね

 ・けふもまた怒られてゐるぼくのため万能ぢやない葱を買ひたり

 

 モノを別の角度で見たらこういう世界が見えるのかもしれない。鮭、太巻き、はさみ、めがね、葱。ささやかな日常にあるありふれたもの。そういうモチーフを使いながら痛みが練り込まれている。失くしたことにさえ気づかないことって、はさみのほかにもっともっとたくさんあるのだろうと自分を振り返って怖くなる。「失くす」というのは、その前段階で「所持している」「ある」という認識があってのことだ。このはさみは持ち主の「持っていたもの」にさえ入らない。出会って、失った、という物語が欠落している。はじめから出会わなかったかのよう。

 

 そんなふうに忘れてしまっているモノや人が記憶の外へ追いやられているのかもしれない。

 

 ・ゆふぐれは窓になりたしゆふぐれを映して砕け散るべし窓は

 

 一番好きな歌。美しい夕暮れを映してそのまま砕け散る。私が飛行機で離陸するときに感じるすべてを置いていく喜びと切なさのようなものを思うのだ。

 

 つぎつぎにいい歌集が出ているので、ここでまた紹介していきたい。

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