夢発電所

21世紀の新型燃料では、夢や想像力、開発・企画力、抱腹絶倒力、人間関係力などは新たなエネルギー資源として無尽蔵です。

辞めたがり症候群

2008-03-15 14:41:36 | つれづれなるままに
 昨日の話しである。M子さんは我が法人の理事である。昨年社会福祉協議会を定年1年前に辞め、自宅で今は長男のこどもつまり孫の子守をしている。用があって尋ねると、入れといわれて家にお邪魔した。可愛い4ヶ月くらいの男の子だった。
 さて、用向きを済ませて帰ろうかと思ったら、Mさんがご主人のことを語った。現在銀行マンで本社の金庫番であるという。このご主人が毎日のように会社を辞めたいと、奥方に漏らすようになったらしい。
 そんなある日、帰りが遅かったご主人に何かあったのか聞くと、いよいよ自分は会社を辞めなければならないと奥方に伝えたという。理由を聞くと20万円ほど金庫にあるべきお金が合わないのだという。この銀行では金庫の中に入りきれないお金を、図書室にも置いていて、日頃から危ないと思っていたとのことだった。そしてついにある日硬貨ばかり20万円が消えたのだという。
 彼が会社にこの責任をとって辞めると言って腹をくくっていると、部下の若き男性が「次長私も辞めさせて下さい」と依頼があったらしい。しかし次長は「私は責任者だから辞めるのであって、君は辞める必要がないから残れ」と諭したらしい。社内ではこのことが噂になりすっかりM子さんのご主人の株が上がったとのこと。しかし実はM子さんのご主人は、これで正々堂々と辞めることができると考えたらしい。ところがその翌日硬貨が机の下から出てきて、この話は一件落着となったらしい。ようやく辞める理由ができて来たのにもかかわらず、それが消えたためにご主人はまた元の木阿弥となった。
 それにしてもこの一件で、ご主人株が銀行内で上がったことで、ますます銀行マンとして辞められない必要性が高まってしまったのだそうだ。件のご主人はまたもや「辞めたい症候群」の日々が続いているらしい。
 私もそろそろ自由な身になりたいと思うのであるが、まだまだ借金の返済が続き、当分辞められそうにもないので、彼の心境に大いに同情している。
 

童話「北へ帰る」

2008-03-15 07:21:29 | 創作(etude)
 白鳥の親子が大空を「コーコー」と鳴き交わしながら、編隊を組んでぐるぐると飛んでいます。これから遠い北の大地を目指して帰らなければなりません。お父さんが家族に編隊の組み方を教えているのです。お父さんの右うしろにはお母さん、お父さんの左うしろにはお兄さん。そしてそのまた左右には妹たちがついて行きます。こうして並んで飛ぶと、力の弱い妹たちは風の抵抗が少しだけ弱くなるからです。
 お父さんが進む方向を鳴き声で知らせます。その号令を聞く家族は、また返事をしています。
 「さあ、今度は左周りだ。みんな合わせて。左回り開始」そうお父さんがいいます。
 「左回りはじめます」みんなが声を合わせてこたえます。
 「前方に危険物発見。右側に進め」お父さんが緊張した声で知らせます。
 「みんな気をつけて!あれにつっこむと、まる焦げになるわよ」
 お母さんが大きな声で知らせていました。
 「知ってるよ。僕の友達が去年あれに触れて結局死んだんだから」
 お兄さんがいいました。そうです。高圧線の電線が白鳥たちには見えないからです。
 「首を下げろ」と今度はまたお父さんがいいました。下を見ると、水田と小川がありました。編隊は緩やかに一列になって、小川に着水しました。今度は腹ごしらえです。水田には稲穂が落ちているので、白鳥たちの栄養補給に立ち寄りました。
 みんなでお腹いっぱいになるまで、ついばみました。
 「お父さん。僕たちはいつ北へ出発するの?」お兄さんが聞きました。
 「うん。みんなの羽根にもう少し力がつかないと、あの風の強い海の上では危険がいっぱいだからな。あと少しだけ頑張ってみよう。」
 「つらいけどみんなで北へ帰りましょう」お母さんがみんなを勇気づけました。
 「わたし、自信がないわ。どんどんおいてかれそうになるの。それに、前にもカラスの編隊に嫌がらせを受けたことがあったわ。」妹が心配そうにいいました。
 「大丈夫だよ、僕がそばにいるじゃないか。守ってあげるからね。」お兄さんが妹を励ますようにいいました。
 こうして、3日がたち、良い天気の朝水田でお腹いっぱいになった時、お父さんがいいました。「みんな、きょう帰るぞ。みんなで一つの気持ちになって飛んで帰ろう。みんないつでもいっしょだよ。」
 「よーし、僕頑張るからね」お兄さんがいいました。
 「お母さん、私大丈夫かしら。心配だわ」妹がいいました。
 「お母さんもおまえくらいの時は同じ気持ちだったわよ。でもね、みんなで声を合わせながら飛ぶの。歌うようにね。そうすると、すごく心も体も軽くなるのよ」
 この時南風がひゅるるんと吹き、お父さんが羽ばたきました。お母さんも羽ばたきました。コー!」大きな声でお父さんがみんなにかけ声をかけました。みんなもそれぞれ返事をしました。エル字編隊を組んで、白鳥の一家は北を目指します。名残を惜しむかのように、水田の上を一周しました。今度こそ、本当にお別れです。
 「また来年までさようなら」お兄さんが大きな声で叫びました。白鳥の姿がどんどん小さくなって消えてゆきました。もうすぐ春です。