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とりがら時事放談『コラム新喜劇』



ホッパ山に祀られているのは実はお釈迦様がメインではなく「ナッ」という精霊がメインなのだ。

ミャンマーの宗教は一般に仏教とされている。
ところが実際にはそれ以外にも原始宗教とも呼んでいい精霊信仰が共に信仰されているのだ。
つまり2つの宗教を同時に信仰しているというキリスト教やイスラム教では考えられない世界なのだ。
でも、これは仏教国にはごく普通に存在する特徴だ。
タイやベトナムでも同じように精霊信仰が残っており、それらの国では精霊は「ピー」と呼ばれ、ミャンマーでは「ナッ」と呼ばれている。

タイ語の教科書などではピーは精霊、もしくはお化けと訳されており、なんとなく物騒な意味合いも含まれている。

精霊は主に人に対してイタズラをしたり、幸運をもたらしたり、時に悪運ももたらしたりする一見マンガのキャラクターのような存在なのだ。
その実態は亡くなった人が、死んだ時の強い怒りや無念や嬉しさなどの感情が霊として変形し、精霊となってこの世に残っていると信じられている。
つまり宗教の対象としてはちょっとばかし理解しにくい対象なのだ。

東南アジアの文化を紹介した書籍の中には、
「ピーやナッを精霊と訳すから分かりにくいのだ。日本人なら「神様」と訳せばしっくりとくる」
と書かれているものがある。
そう、ミャンマーのナッやタイ、ベトナムのピーは日本風に言えば「神様」なのである。

日本も6世紀頃に仏教が伝わってくるまでは神様たちを信仰する「神道」が唯一の宗教であった。
この八百の神々は長きにわたり我が大和の国の宗教市場を独占していたが、ある日大陸に留学していた帰国子女の若い連中が仏教を持ち込み事態が一変する。
というのも、インド生まれ、チベットや中国で発達した仏教(北伝仏教=大乗仏教)は、論理的な倫理観と、科学技術という市場のニーズに合致した最先端の知識を持ち込み、ユーザーの心をがっちり攫み一挙に日本全土に浸透していったからだ。

八百の神々は突然の外資系宗教の台頭に大わらわ。
これが普通の国であれば神々は保守的思想を貫き、外資系に追いやられ、ミャンマーやタイのように「ナッ」や「ピー」という威厳よりも風俗(「フーゾク」ではない)の一種である土着信仰として残るところであった。
が、我が国.の神様たちはそうではなかった。

さすがに日本の神様たちは、
「今のままでは良くない。このまま、のほほ~んとしていれば外資(仏教)に食われっぱなしになってしまう。この際思いきって構造改革をしようではないか」
ということになった。
その重大な決議を島根県出雲市で打ち出した10月を記念して出雲以外の全国各地では「神無月」呼ぶようになった。というのはウソです。

ともかく原始的であてずっぽうな占いや呪術、人柱や生け贄などといった残酷な儀式で民衆の心をつなぎ止めておくことは困難であるし、なによりも一番のスポンサーであった天皇をはじめとする皇室や貴族が「仏教の方がええわ」ということになってしまったので、まず「海外を学ばねば」ということで、改革のためのモデルの多くを外資の仏教に求めることになった。

で、非科学的な分野は「おみくじ」や「卦」程度のフレンドリーなものに変化させ、亀の甲羅などを使った怪しげな占いや呪術は、仏教の朝夕のお務めにならい威厳ある形式のご祈祷祈願に変更。
そしていささか粗末な作りであった神社も仏教により伝えられた最先端建築技術を応用し立派な威厳に満ちた社殿の建設に取り組んだのであった。

日本人の、外国の技術と文化を導入し自国にフィットする形にアレンジする優れた能力は、この時誕生し、千数百年後の明治維新や第2次大戦後の経済発展、そして現在にまで至っている日本人独特の文化となったのであった。

と長々に書いてきたが、以上は私の勝手な思い込みなので100%鵜呑みにしないように。
それに間違いがあっても指摘しないように。

以上、長い余談になったが、ホッパ山山頂の中央部を占めるものはなんといっても、死んでから「ナッ」になったという50年ほど前に亡くなったこの地の有力者であったオッサンの祠なのであった。

まず中心の祠の中には、そのオッサンが亡くなった時の光景が漫画チックな人形で再現されている。
いかに漫画チックかというと、枚方大菊人形(ちと古いが)が芸術性高き緻密な人形に思えてしまうような「いかにも作り物で、桂小枝のパラダイスシリーズ(関西の人にしかわからないネタ)」そのまんまの世界なのだ。
とりわけ故人を取り囲んで泣いている泣いている人たちの人形の表情がユニークだ。

「さ、行きましょうか」
とTさん。

Tさんはナッにはいささか冷たいところがある。
実はTさんは「ナッ信仰」が嫌いなのだ。

つづく

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