とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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よみがえれ!国産ジェット

2008年03月26日 06時21分58秒 | 書評
飛行機大好きなのに私はついに国産旅客機YS-11に乗ることはなかった。
しかしMRJに乗ってみたい。

先日MBS毎日放送ラジオを聴いていると、誰だったかパーソナリティーのオッサンが、
「タイへ行った時にローカルエアラインでYS-11に乗ったんです。座席の裏を見たら救命胴衣に『東亜国内航空』って書いてあってメチャクチャ感動しましたわ」
と言っていた。

YS-11は東海道新幹線初代0系列車と同じ実験装置で風洞実験を受けたことが知られていて、年齢は40歳以上。
飛行機としては高齢の部類に入るこの機が現在もなお海外では現役であることを考えると日本の航空機技術は決して低くないということを証明しているといえるだろう。(自衛隊では今も現役)
いや、証明しているどころか今や日本の航空機用部品製造技術が無ければB787もA380も生み出されることはなかった。
そうなると、
「どうして部品ばかりで肝心のヒコーキを作らないの?」
という疑問が起こるのも無理はない。

その疑問に答えるのが三菱重工が満を持して投入する純国産ジェット旅客機MRJ。

杉山勝彦著「よみがえれ!国産ジェット」はそのMRJ誕生に迫った現在の日本における製造業としての航空機産業をレポートした迫真の、そしてガンバレニッポン感が一杯のドキュメンタリーだ。

本書にはワクワク感と驚きが一杯詰まっていた。

本書を読むまでまったく気がつかなかったのだが、MRJ三菱リージョナルジェットは日本史上初の民間企業の民間企業による民間エアラインのためのプロジェクトなのだ。
そういえばYS-11も国主導の旅客機事業であったし、試験機だけ作ってボツになったSTOL飛鳥も国家プロジェクトであった。
役人というのは税金を使って自分の夢を叶えるのが商売のようで(ま、こういうのは商売といわず道楽と言います。普通は)、それを商業ベースに乗っけて国家を富ませようなどという発想は浮かんでこなかったようだ。
そういう意味でMRJは画期的な航空機といえるもので、商業ベースに乗せるために三菱グループはその総力を挙げてマーケティングからセールスからメンテサービスまで乗り出すことになるだろう。

そしてもう一つ、本書を読むまで気がつかなかったのは戦前の日本の航空機開発技術は世界最高峰であったということだった。
考えてみればゼロ戦の登場は画期的で、連合国がその性能を上回る航空機を作るのに数年を要したという事実も今の日本人は私も含めて忘れている。
問題は我が日本がゼロ戦にあぐらを組んで新しい戦闘機を生み出せなかったことに尽きるわけで、それを別にすれば日本には優秀な航空機を生み出す遺伝子が備わっているとも言えるのだ。
そういえば現在の旅客機には当然のように装備されているフラップは艦載機ゼロ戦のために日本が開発した技術だったと記憶する。

アルミより軽く鉄よりも強い炭素繊維技術。
B747やA380の何百回の離着陸にも耐えるゴムタイヤ。
トイレに厨房(ギャレー)。
コックピットの液晶モニタ。
機内エンタテイメントシステム。
立体縫製の座席。

知らない間に機内装備のどれもこれもが日本製になっていた。
これで旅客機そのものが無いのはおかしすぎる、というわけなのだ。

様々なサプライズが存在したが、本書の中で一番印象に残ったのは、東大本郷キャンパスで開かれたセミナーで熱く語った老人の話だった。
「国家を上げて支援をしてくれないと売れないんですよ」と涙ながらに語ったYS-11のセールス担当だったという老人の言葉がグッときた。
ということで、日本人航空ファンとして老人の目が黒いうちにMRJがYS-11のリベンジを果たせる日が来ることを信じたい。
すでに空飛ぶシビック「ホンダジェット」がクリーンヒットを放っていますけどね。

~「よみがえれ!国産ジェット」杉山勝彦著 洋泉社刊~