人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

河島みどり著「リヒテルと私」を読む~生誕100周年を迎えた巨匠の素顔

2015年09月04日 07時01分06秒 | 日記

4日(金)。わが家に来てから329日目を迎え,独り言をつぶやくモコタロです  

 

          

          ゆうべご主人はお酒チャンポンしてカラオケ歌ってきたみたいだよ

 

  閑話休題  

 

河島みどり著「リヒテルと私」(草思社文庫)を読み終わりました 著者の河島みどりさんは早稲田大学文学部露文科を卒業.1970年の大阪万博の時からソビエトの巨匠スヴャトスラフ・リヒテルの通訳を務め,リヒテル夫人ニーナの依頼により,リヒテルの付き人になりました この本は1970年の巨匠との出会いから1997年の死去までの27年間にわたり,一番近くでリヒテルを見ていた日本人女性の記録です

 

          

 

河島さんは,通訳という仕事を通じて,リヒテルの言葉の面白さや独特の表現に魅せられて,忘れないように日記に残していたそうです.それが,後になって役に立ち,今回の本の出版にもつながったとのことです.最近読んだ本の中で一番面白かった本です

リヒテルが普段どんなことを言っていたのかを知るだけでも,とても面白い本です 例えば,次のようなエピソードが紹介されています

「リヒテルは1度だけプロコフィエフの依頼により彼の作品の指揮をしなければならない羽目に陥り,無我夢中で指揮をした.するとプロコフィエフから『必ず指揮者になれ,きっと指揮者になれる』と励まされた.リヒテルは『そうしましょう』と答えたが,『これだけピアノの練習に追われているのに指揮の勉強などどうして出来ようか』と思った.リヒテルは指揮者にならなくて良かったと思う理由を4つ挙げた.①指揮者は権力を手に入れ,かつそれを維持していかなければならぬとはおぞましい限りだ ②指揮者は自信を持たなければやれない.自分の能力や仕事に自信をもつなんて不遜きわまりない ③指揮者は作品を分析し解剖しなければならない.味気ないことだ.作品の玄妙さを損なってしまう ④オーケストラというならず者を制御しなければならない.あのチューニングの音を聴くのは堪えがたい.私はいつもヤマハの調律師のおかげで,美しく仕上げられたピアノに向うからいいけれど,オケのあの濁った音を我慢して聴くのは辛すぎる.だからムラヴィンスキーを羨ましいとは思わない

ここで『ヤマハの調律師』という言葉が出てきたのでついでに紹介すると,リヒテルがなぜ日本びいきで,ヤマハのピアノしか弾かなかったのか,ということです

リヒテルは1970年から94年まで8回来日しています.リヒテルは大の飛行機嫌いで有名でしたが,それでも日本にはJALに限って乗ってきたのです リヒテルの日本観・日本人観は「誠実さ,勤勉さ,正直さ,清潔さは卓絶したものであり,そんな単一民族が生活している日本は素晴らしい」というものです 河島さんの分析によると,インプレサリオ(いわゆる招聘元)の姿勢が良かったからだ,ということです.新芸術家協会やジャパン・アーツは,あくまでもリヒテルの意思を尊重して演奏旅行を組んだ.リヒテルは大ホールよりも小さなホールで演奏することを好んだが,そればかりではペイしない.しかし,日本ではそれが許された.そんな日本が嫌いなわけがない.河島さんは遠慮して名言を避けていますが,さきの「誠実さ,勤勉さ~」というリヒテルの言葉は,まさに通訳としての,付き人としての河島さんのことを指しているのだと思います

『ヤマハの調律師』についても同様で,瀬川,大里といった優秀な調律師が”リヒテル御用達”のような形で付いていたからこそ,リヒテルは安心して演奏が出来たのでした リヒテルがヤマハのピアノを選んだのは,優秀なヤマハの調律師と切り離すことは出来なかったのです

今年はリヒテル生誕100周年ということで,今年3月~4月に上野の森で開かれた「東京・春・音楽祭」ではリヒテルの特集が組まれ,私も3月21日に開かれた「リヒテルに捧ぐ 舞踏協奏曲オーバード~リヒテルが愛したプーランク&モーツアルト」公演を聴きましたが,一度でいいから生前のリヒテルの演奏を聴きたかったと思います この本を読みながら,そんなことを思いました

私はこの本を4日間かけて読みましたが,家で読むとき(朝の出勤前と夜の就寝前)はリヒテルのCDを聴きながらページをめくりました  そのせいか,河島さんの文章がすんなりと頭に入ってきました その時聴いたCDは下の写真の通りです.ほとんどが1960年10月にカーネギー・ホールで開いたリサイタルのライブ録音です ライブだけに当時の聴衆の熱狂ぶりが伝わってきます.とくに4番目の1960年10月28日のコンサートは,ベートーヴェン,シューマン,ラフマニノフが組まれていますが,7曲ものアンコールに応えている,リヒテルも聴衆もノリにノッた熱狂的なライブです

 

          

 

          

 

          

 

          

 

          

 

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