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今日の筆洗

2016年09月19日 | Weblog
その野球選手の通算打撃成績欄にはこう記されている。大リーグ出場1試合。打席0、安打0。ニューヨーク・ジャイアンツのムーンライト・グラハム外野手▼出場した1試合は一九〇五年。八回裏から守備についた。続く、九回表。あと一人で打席が回ってくるところで前の打者がアウトになり、試合終了。試合後、二軍に落とされ、二度と昇格できぬまま引退した▼どれほど打席に立ちたかったか。その作家は生涯0打席の記録に目を留め、小説の中で思い切り野球をやらせた。それが『シューレス・ジョー』。映画の「フィールド・オブ・ドリームス」の原作である。お書きになったカナダ人作家W・P・キンセラさんが亡くなった。八十一歳。医師の助けを借りて自分の意思で亡くなった▼野球小説の名手だが試合の場面はほとんど描かない。描いていたのは野球以上に人間そのものである。しかもあの打席のない外野手や無実の八百長事件で追放された名選手という人生と折り合えぬ心晴れぬ人々である▼郷愁、夢、番狂わせ。そういう言葉の似合う野球というゲームで物語を包み込み、その中で報われぬ人間を慰め温めていたのか。自身も苦労して作家になっている▼『シューレス・ジョー』はトウキビ畑の球場に今は亡き野球選手がやって来るという物語。新人選手がまた一人加わる。野球はおそろしく下手と聞くが。