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今日の筆洗

2016年09月09日 | Weblog

「走る」とは、どういう行為か。手元の国語辞典を引けば、<両足をす早く動かして移動する><軽く跳びはねるようにして足を使って進む>とある▼走る。辞書を引くまでもない言葉。だが東京工業大の伊藤亜紗准教授の『目の見えないアスリートの身体論』を読んで、「走る」ということの意味を再認識させられた▼中途失明のある女性は視力を失ってから、常にすり足で歩く癖がついた。そんな彼女が、「走る」ということを、こう表現したという。「走るっていうのは両足を地面から同時に離す快楽なんです」。国語辞典も顔負けの鮮やかな定義ではないか▼走る、跳ぶ、投げる、泳ぐ…。リオで開幕したパラリンピックは、そんな動きの一つ一つに、新鮮な喜びや躍動感が詰まっていることを再認識させてくれる祭典だろう▼たとえば、メダルが期待される競泳の木村敬一選手は、一歳半で全盲となった。だから、他人が泳ぐ姿を見た記憶がない。「見よう見まね」ができないから、ゼロから自分でつくり上げるしかない。「たくさん泳いで苦しくなってくると、自然と一番いいタイミングでしか体が動かなくなっていきます。逆にそれじゃないと、もう溺れちゃう」というところまで追い込んで、泳法をつかんだという▼私たちの身体の中に、どれほどの可能性が秘められているか。じっくり見届けたい祭典の日々だ。