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今日の筆洗

2016年09月11日 | Weblog

「夕暮れとなって、子供だった私たちが遊びから帰って来ると、家々の路地には秋刀魚(さんま)を焼く煙りがながれ、旨(うま)そうなにおいが路地にたちこめている」。作家、池波正太郎さんの「味と映画の歳時記」から引いた。目に浮かぶ。目ばかりか煙や匂いが鼻にも浮かんでくるようだ。秋刀魚の季節である▼家庭料理はなんでも懐かしい味だろうが、焼いた秋刀魚には、特に「思い出」の味が濃いかもしれぬ。とすればその味は秋刀魚を前にした食卓のにぎやかさや家族の笑い声か。定食屋さんで一人食べてもうまいはうまいのだけれど、別の食べ物のような気にもなる▼「むかしは安くて旨い、この魚が初秋の食膳には一日置きに出たもので…」。これも池波さんだが、この秋はとても一日置きというわけにはいくまい。秋刀魚の値が高い▼七月の初モノには一匹三千三百円の値がついた。さすがにそこまでではないが、その後も海水温度がなかなか下がらず、魚群が日本に近づかない。北海道周辺の悪天候で出漁機会も激減してしまい、高値につながっている▼一匹、四百円也(なり)。近所の店の価格に腕組みをする。これでは、当時は下魚扱いだった秋刀魚を大名が喜ぶ落語の「目黒のさんま」は成立しないだろう▼<新聞紙通して秋刀魚のうねりかな>風天(渥美清さん)。懐かしき新聞包みなんかではもったいない「秋刀魚様」である。