ファンタジアランドのアイデア

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1000万人の認知症患者を減らす  スモールアイデアNO322

2019-08-30 17:38:05 | 日記

 2007年に認知症の男性が、徘徊の途中、電車にはねられて死亡しました。この男性は、年齢が91歳で、要介護4の支援を受けていたのです。JRは、事故処理にかかった費用720万円を、見守り責任のある家族に請求しました。裁判は、6年間争われました。2013年に、名古屋地裁は720万円全額を、男性の妻に払う事を言い渡したのです。裁判では、家族の見守り責任があるとされ、支払いが命ぜられたわけです。これを不服として、妻は上告しました。2014年の名古屋高裁では、360万円について妻の責任を認定したのです。金額は半分になりましたが、一審、二審の判決の論理がまかり通ってしまうと、日本社会は大変なことになったことでしょう。
 日本の認知症患者が460万人を超えています。予備軍は400万人いるという事実が最近、公表されました。認知症とは、正常に成人になった人が、病気や事故などのために知的能力が低下し、社会生活に支障を来すようになった状態とされています。認知症の患者の方は、頻繁に徘徊を繰り返します。彼らの徘徊を完全に防ぐことは、不可能だとだれも理解しています。もし、徘徊の途中の事故が家族の責任となるならば、家族は認知症患者につきっきりになります。仕事もできず、家事もできない状態になるのです。見守りを厳しくして、事故に会わないようにするわけです。でも、見守りのすきにいなくなってしまうことは、ひんぱんに起こっていることなのです。
 見守りの責任があるとされた妻は、事故当時85歳で、要介護1の支援を受けていました。高裁判決の時には91歳になっていたのです。認知症の患者数は、急増しており、その大部分は在宅で療養していました。これらの見守る家族は、相当に疲弊していました。その上に、重い責任が加わる判決は、認知症の介護や見守りに関わる多くの人たちに衝撃を与えたのです。でも、日本の司法にも常識はあったようです。2016年の最高裁で「認知症患者による事故の賠償責任は監督者である家族にはない」という判決がなされました。この最高裁の判決には、政府の伏線がありました。2015年に策定された認知症の国家戦略には、就業継続や社会参加の支援強化が盛り込まれていました。認知症にたいする世論が、家族から社会が支援する方向に動いていたのです。社会の流れが、家族の責任から社会の支援という形で合意形成がなされてきたともいえます。2007年から2016年までの10年間で、認知症に対する支援体制が変化してきたわけです。
 「認知症になると何もかも分からなくなる」という偏見が、まだまだあるようです。認知症では、知的能力が徐々に侵され、ゆっくりと症状が進行していきます。軽度認知障害は記憶以外の判断力、見当識、会話能力などは正常です。軽度認知障害とは、認知症の前段階のことで、認知症を早期発見するために考えられたものです。この軽い認知障害は、日常生活は一人でできますが、仕事によっては多少の支障が出ることもあります。病状進行とともに、共感する力や同情する力はしだいに低下していきます。認知症とその予備軍を合わせた数が800万人を超え、まもなく認知症1000万人時代が到来するとも言われています。10人に1人が認知症になるわけです。これからの時代は、「認知症の人とともに暮らす時代」であることを覚悟することも必要なことです。
 認知症が増加の背景には「認知症を増加させる病気」と「増やす生活様式」の増大にあります。例えば、高血圧症や糖尿病の患者は、増加しています。高血圧のある人は、ない人に比べ2~3倍、認知症になりやすいのです。糖尿病をもつ人は持たない人に対して2倍程度、認知症になりやすいことがわかっています。これらのデータは、きちんとした疫学的調査によって示されています。また、うつ病に罹った人は罹患歴のない人と比較して、認知症になる危険性が2~3倍高いとも言われています。これらの病気は、予防が大切になります。予防を適切に行っていれば、多くは防げます。もしくは、軽減することができるものです。高齢期の認知症を予防するためには、中年期(40~50代)の生活のあり方が重要です。この時期に予防を徹底すれば、1000万人が500万人と減らすことも可能でしょう。現在の健康保険制度は、病気の予防のために使用することは認めてこなかった経緯があります。これからは、予防に対する健康保険の適用を段階的に考えていく時期になっています。政府に求められることは、疾患の治療から予防へとより大きく舵を切っていくことです。司法より早めに対策をたてていた行政のがんばりを、見てみたいものです。