医療に関心を示すのは、先進国だけではないようです。サウスワールドの国々も、経済発展に伴い医療制度の充実を計りつつあります。その一つに、インドネシア大手財閥シナルマスグループがります。この財閥は、医療分野進出を図ろうとしています。1人当たりの年間医療費は、アメリカの9800ドル、日本の4200ドルと比べて、はるかに低い112ドルがインドネシアの年間医療費になります。インドネシアの人口1万人当たりの医師の数は、3.7人で、日本の24人や中国は17人より少なくなっています。病院に行っても、待たされる時間が長いのです。こんな状況が、改善されれば、医療環境の改善、国民の健康増進、そして医療がビジネスチャンスにという目論見です。スマホが普及し、生活のあらゆる分野で利用されるようになりました。医療現場でも、このツールを利用した医療サービスが現れました。スマホ経由で簡単に予約できるようにし、病院で長く待たされないで、診察を受けられる仕組みもできつつあります。スマホアプリ経由で、医師に病状を説明すると、適切な処置が講じられる仕組みになっています。2019年、ジャカルタの首都圏など500の病院と提携し、遠隔診療や病院の予約を可能にするものです。健康を重視する都市部の中間層を対象に、ビジネスを広げようとしています。将来は、医療診療の手数料や医薬品販売などでも稼ぐ予定ということです。
伝統的なface to faceの医療から、オンラインによる医療も普及し始めています。このオンライン医療を、さらに普及する医療技術が開発されつつあるようです。声や音を手掛かりに病気を見つける技術は、音声バイオーカーと呼ばれています。音を分析すれば、さまざまな病気を判別できる可能性があるようです。この音声バイオマーカーは、2010年代に世界で研究が活発になりました。特に、米国では病気を安く早期に見つけられる手段として、この研究が推し進められています。これには、会話やせきの音を録音できるスマホやスマートスピーカーの普及が背景にあります。NIH(National Institutes of Health、米国立衛生研究所)は、「ブリッジ2AIプログラム」という研究計画を推進しています。このプログラムには、音声によるスクリーニング、診断、治療を支援する項目があります。NIHは、喉頭がんやアルツハイマー病、うつ病や肺炎患者など対象に患者の音声のデータベース構築を目指しています。米国の医療保険制度は、医療費負担が重くなる傾向があります。米国でも、手軽で安価な医療技術が求められています。もっとも、日本でも同じ状況にあります。
技術は、日々進歩を続けています。ワシントン大学は、咳の音が持つ特徴を手掛かりに、結核患者を見つけるAIを開発しました。結核は、咳やたん、そして発熱など風邪に似た症状が出ます。患者の咳の周波数の変化などを学習した後のAIで、結核患者45人と他の45人のせきの音を判別しました。この結果、せきの音から結核を8割の精度で見つけるAIを開発したのです。米国だけでなく、ケニア中央医学研究所は、せきの音が持つ特徴を手掛かりに、患者を見つけるAIを開発しました。ケニアでは、103人の肺結核患者と46人の他の呼吸器疾患の患者を対象にAIが学習した。肺結核患者と他の呼吸器疾患の患者を対象に、自然に出た約3万3000回のせきAlが学習しました。肺結核患者と他の呼吸器疾患の患者を対象に、スマートフォンで録音してAIが学習したわけです。結核患者を見分ける精度は76%で、結核患者以外を見分ける性能は72%だした。この制度でも、医療インフラが未整備な途上国で使えば、結核患者をその場で見つけられ、流行防止に役立つツールになるようです。
結核はエイズ、マラリアと並ぶ世界の三大感染症の一つになります。この結核は、 2022年に1060万人が新たに患い、約130万人が亡くなっています。新型コロタウイルス感染症を除けば、単一の感染症としては最大の死因になります。結核感染者の9割が発展途上国におり、毎年400万人が未診断のまま感染か続いている状況にあります。結核への感染を調べるには、胸部をX線で撮影を行うことやたんの結核菌を培養したりて発病の有無を調べることになります。この結核菌の培養には、数週間の期間がかかるという難点があります。医療体制や交通網が脆弱な発展途上国では、X線検査を受けるのが難しいという状況もあります。この難病の予防や治療には、毎年130億ドル(約1兆9000億円)が必要とされています。サウスワールドの国々では、多検査装置を使わずに、すぐに結果が分かる検査法が求められています。音声バイオーカーは、この候補に挙がっています。結核を見つける安価な音声バイオーカーは、医療体制が脆弱な発展途上国で活用する価値を備えています。
結核だけでなく、アルツハイマー病の早期発見に音声バイオーカーが活躍しそうです。
米テキサス大学のサウスウエスタン医療センターは、アルツハイマー病を声から見つけるAIを開発しました。軽度認知障害の114人と障害がない92人に、絵画を見その内容を説明してもらいます。絵画を見せて、その内容1~2分間で説明してもらい、AIが判定するものです。まず、話し方の滑らかさや使っている文法の複雑さを分析します。従来の検査は、数十分の時間と数百~数千円のコストをかけて語彙力などを調べるものでした。従来の検査と違い、AIなら10分程度で病気の兆候を見つけられる優れものです。AIは約8割の精度で軽度認知障害を検出し、従来の簡易検査の7割弱を上回りました。念のために、114人の被検者には、原因,物質とされるアミロイドロの有無や脳の萎縮も調べています。さらに、114人の被検者には脳脊髄液の採取や磁気共鳴画像装置(MRI)による脳の撮影も実施しました。その結果、AIの判定が優れているとなったわけです。
風邪は万病のもとと言われますが、現在では糖尿病が万病のもと言われるかもしれません。コロナなどによる関連死が、これから明らかになるでしょう。コロナによる死亡は、健康な人は少なく、糖尿病などにかかっている方が多いという結果がでると推察されます。その糖尿病ですが、国際糖尿病連合によると、2020年時点で成人の糖尿病患者は世界に約5億4000人と推定されています。この約5億4000万人の約半数が、診断のままになっています。血糖値が高い状態が続くと、神経や筋肉が傷付き声に影響することになります。糖尿病はうつ病や認知機能の低下を招きやすく、症状が声に反映された可能性があります。ここに着目して、音声で糖尿病を見つける技術が開発されました。スマホで捉えた話し声の特徴から、2型糖尿病の男女の患者を86~89%の精度で見つけるまでになりました。日本では、糖尿病の血液検査や診察に1万円程度のコストがかかります。この音声ツールならば、いつでもどこでも使え、なおかつリーズナブルな価格の手ごろな検査ツールになります。
余談ですが、音声ツールは人間だけでなく、家畜にも利用されるようになりました。養豚業の臼井農産は、豚のせきの音を検知して体調管理する実証実験を11月から始めました。音検知技術を豚舎に導入し、遠隔で豚の体調に異変がないかを把握できるようにしています。臼井農産では8台の検知器を豚舎に設置すると、1000頭までモニタリングできると言います。このツールは、NTT東日本と独製薬大手が開発しました。独ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスのせき音検知技術「サウンドトークス」が、主役になります。サウンドトークスは、豚舎内の温度や湿度も計測し、クラウド経由でサーバーに記録します。半径10メートル以内の豚から発せられるせきの音を24時間検知します。AIの解析により、異常があればスタッフや連携する獣医師に通知が届く仕組みになります。せき音検知技術は、豚舎の巡回を減らすなど生産の省力化につなげる優れものです。米国、中国や韓国などの養豚場ではすでに利用されていますが、日本では初導入ということです。
最後になりますが、インドは、オンライン医療が進んでいる国なります。この国では、医師や病院が圧倒的に不足しています。その不足を補うように、スタートアップの企業がAIを使った診療システムを開発しています。利用者は、「喉が痛い」「熱がある」「おなかが痛い」など体調や症状などを選びます。病状を記入する段階から、人工知能(A I) は利用者の症状から病気を推定していきます。目先の速い企業は、音声ツールを導入することになるでしょう。さらに進んでいることは、医師を指定できることです。いろいろな症状に対応できる医師の一覧から、患者は診断してもらう医師を選びます。その医師の一覧から、診断してもらう医師を選び、電話やビデオチャットで症状を詳しく話していくことになります。AIが専門医を選定し、選ばれた医師が最終的な病気の判断をします。たとえば、首都デリーの患者が、1000km以上離れた産業都市ムンバイのお医者さんを指定することもできるのです。AIの活用で、医師が診る患者数は飛躍的に多くすることができています。このAIを運営している企業は、病院から一定の手数料を得て、利益を上げています。もちろん、多くの患者を診るお医者さんも、収入が増えています。ここから出てくる発想は、日本におけるオンライン医療の進化になります。
私事になりますが、3月の中旬ごろにコロナに罹りました。昨年に続く、2度目のコロナ感染でした。私の場合、この2度の治療をオンライン医療で行いました。スマホで、お医者さんとのやり取りをして、症状を確認し、その対症療法のお薬を処方していただきました。その後、薬局の方が自宅に薬を持ってきていただくというものでした。面白いことは、1度目より2度目の病状が、非常に軽く済んだことでした。病院にいってから、1~2時間待たされるより、はるかに短時間で済み、なおかつ快適な療養生活を経験しました。